「神を待ちのぞむ」

古賀一典著 文芸社




本書「あとがき」より引用



この散文詩集は一九九二年から少しずつ書き綴ってきたものです。シモーヌ・ヴェイユ、

アッシジの聖フランシスコ、宮沢賢治、先住民の出会いを通して少しずつ私自身の内面

は変化してきたように思います。これらの散文詩の多くはカトリック教会に通っていた時

期に書いたものですが、それは今でも私にとって決して消すことが出来ない大切な足跡

を残してくれています。その後私は先住民の視点に触れ、未来への責任を少しずつ考え

るようになってきました。常に七世代先の子供たちのために行動し、その想いを命をか

けて守ってきた人たち。そこにはあるべき未来を切り開く鍵と希望への予感が隠されて

いると感じられてなりませんでした。思えば私たち日本人も太古の昔、彼らと同じ視点で

世界を見つめていたと思います。しかし科学的な進歩と引き換えに、私たちは大地から

自分自身の根っこを引き抜いてしまいました。そしてその代償として人間・環境破壊とい

う退歩へ進む道に踏み込んでしまったのだと思います。先住民の方たちの想い、それは

はるか昔に多くの人びとの心に宿っていたものでしたが、いつしかその想いは邪魔になり

自らの記憶から完全に消し去ろうとしたのかも知れません。その想いを今この時に呼び

覚ますこと、その過程無しには七世代先の子供たちへの責任を果たすことなど出来ない

ように感じます。ただ私は「在る」ことを見つめていきたいとも思っています。存在する、た

だ在るだけの重みを根づかせていきたいと思います。それは私にどんな文化・宗教にも

美が存在することを教えてくれたからです。私自身この道の出発点にも立っていないと感

じることがあります。ただ宮沢賢治が言うように「求道すでに道である」のかも知れませ

ん。最後にアメリカ・インディアンの言葉を紹介しますが、この七つの散文詩集を出版す

るにあたり妻に助けられたことを感謝しています。また編集を担当してくださった青山さん

にも心からお礼を申し上げます。そして何よりも私を育ててくれた父母に心から感謝した

いと思います。 二〇〇二年十月 古賀一典


「私たちの生き方では、政治の決め事は、いつも七世代先の人々のことを念頭におきな

がら行われる。これからやってくる人々、まだ生まれていない世代の人々が、私たちより

も悪い世界で暮らしたりすることのないように、できればもっと良い世界に生まれてこら

れるように心を配るのが、私たちの仕事なのだ。私たちが母なる大地の上を歩くときに、

いつも慎重に一歩一歩進むのは、これから生まれてくる世代の人々が、地面の下から

私たちのことを見上げているからだ。私たちはそのことを、片時たりとも忘れない」

オレン・ライオンズ(オノンダーガ族)

「ネイティブ・アメリカン 叡智の守りびと」築地書館より



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