私は絵本が好きだ。それは言葉ではなく沈黙を介して語ってくることがあるからだ。
この「アライバル」という絵本には一切の言葉はない。丹念に描かれた絵の一枚一枚
の世界に、読者は自分の体験や想像を膨らませ共有していく。
著者の父親はオーストリア出身でマレーシアからの移民だと言う。それを土台にした
「アライバル」も希望が見えない故国に妻・子供を置き見知らぬ国へ旅立つ物語である。
いつかきっと再び一緒に暮らせることを夢見て。
主人公が長い航海の果てに辿り着いた所は全く経験したことがない所だった。言葉・
習慣・一風変わった動物、奇妙な浮遊体たち。それでも主人公はこの異文化の中で
必死に生き抜こうとする。そして出会った人たちも主人公と同じく故郷を離れなければ
ならなかった人たちだ。
私自身も小・中高生の頃、父親の仕事の都合で転校を繰り返した。親友が出来ても
直ぐに別れなければならなかったが、それを何度も繰り返していくと、友達を作るのが
怖くなってしまう。それは同じような悲しみを二度と味わいたくないという想いが働いた
のかも知れない。
この絵本を見ると遠い日の私を見るような気持ちだった。きっと単身赴任で見知らぬ
土地へ行った経験を持った方も、共感を持って本書に見入るかも知れない。
世界各国29の賞を受賞し、世界中に衝撃を与えたこの絵本は私の心にも衝撃を与えた。
「生きること」「生き抜くこと」、そして「希望を忘れないこと」を私はこの絵本から受け取っ
たように思う。
(K.K)
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