「百年の家」
絵・ロベルト・インノチェンティ 作・J・パトリック・ルイス 訳・長田弘 講談社の翻訳絵本
本書より引用 一軒の古い家が自分史を語るように1900年からの歳月を紐解きます。静かにそこにある家は、 人々が一日一日を紡いでいき、その月日の積み重ねが百年の歴史をつくるということを伝え ます。 自然豊かななかで、作物を育てる人々と共にある家。幸せな結婚を、また家族の悲しみを見守る 家。やがて訪れる大きな戦争に傷を受けながら生き延びる家。そうして、古い家と共に生きた 大切な人の死の瞬間に、ただ黙って立ち会う家。ページをめくるごとに人間の生きる力が深く 感じられる傑作絵本が、ここに・・・。 この家の上の横板に、1656と記されているのが読めるだろう。 それがこの家、このわたしがつくられた年だ。それはペストが大流行した年だった。 はじめわたしは石と木だけの家だったが、時とともに、窓ができて、わたしの目になり、 庇ができて、人の話も聞こえるようになった。わたしは、さまざまな家族が住んで 育つのを見、おおくの木々が倒れるのも見た。たくさんの笑い声を耳にし、たくさんの 銃声も耳にした。 なんども嵐が来て、去って、なんども修理がくりかえされたが、結局、わたしは住む人の いない家になった。 そして、ある日、キノコとクリを探しにきた子どもたちが、勇敢にも、人の住んでいない この家のなかに入りこんできたのだった。 そうして、いまにつづく現代の夜明けのときに、わたしには、新しいいのちが吹き込ま れたのである。 この本は、古い丘にはじまり、二十世紀を生きることになった、わたしのものがたりである。 2009年 |
ロベルト・インノチェンティ
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