「百年の家」

絵・ロベルト・インノチェンティ 作・J・パトリック・ルイス 訳・長田弘 講談社の翻訳絵本









本書より引用



一軒の古い家が自分史を語るように1900年からの歳月を紐解きます。静かにそこにある家は、

人々が一日一日を紡いでいき、その月日の積み重ねが百年の歴史をつくるということを伝え

ます。



自然豊かななかで、作物を育てる人々と共にある家。幸せな結婚を、また家族の悲しみを見守る

家。やがて訪れる大きな戦争に傷を受けながら生き延びる家。そうして、古い家と共に生きた

大切な人の死の瞬間に、ただ黙って立ち会う家。ページをめくるごとに人間の生きる力が深く

感じられる傑作絵本が、ここに・・・。







この家の上の横板に、1656と記されているのが読めるだろう。

それがこの家、このわたしがつくられた年だ。それはペストが大流行した年だった。

はじめわたしは石と木だけの家だったが、時とともに、窓ができて、わたしの目になり、

庇ができて、人の話も聞こえるようになった。わたしは、さまざまな家族が住んで

育つのを見、おおくの木々が倒れるのも見た。たくさんの笑い声を耳にし、たくさんの

銃声も耳にした。

なんども嵐が来て、去って、なんども修理がくりかえされたが、結局、わたしは住む人の

いない家になった。

そして、ある日、キノコとクリを探しにきた子どもたちが、勇敢にも、人の住んでいない

この家のなかに入りこんできたのだった。

そうして、いまにつづく現代の夜明けのときに、わたしには、新しいいのちが吹き込ま

れたのである。

この本は、古い丘にはじまり、二十世紀を生きることになった、わたしのものがたりである。

2009年




 


ロベルト・インノチェンティ

1940年生まれ。「エリカ 奇跡のいのち」 「くるみわり人形」 「ピノキオの冒険」などの作品で

知られる世界的な絵本画家。2008年に国際アンデルセン賞画家賞受賞。イタリア、フィレンツェ

在住。



J・パトリック・ルイス

1942年生まれ。経済学の教鞭をとった後、詩人、絵本作家として活躍。今日、アメリカの卓越した

作家として知られている。主な作品に「ラストリゾート」がある。アメリカ、オハイオ州在住。


長田弘

1939年、福島市生まれ。詩人。代表作に、詩集「深呼吸の必要」 「食卓一期一会」 

「世界は一冊の本」 「世界はうつくしい」、絵本「森の絵本」など多数。翻訳絵本に、

「白バラはどこに」などがある。


 







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