杉山吉良写真集 「NUDE」


 







太古の昔、男も女も身に何もまとわなかった時代。しかしお互いはその体を見て

生命の畏敬と感謝を感じていたかもしれない。女性のNUDEを通して、杉山吉良

のこの写真集は「生命の賛歌」を高らかに歌い、人間と自然がともに生の喜びを

分かち合っていた時代に立ち戻らせた傑出した写真集。日本の写真界における

ヌード写真の開拓者であった杉山吉良は、当時19歳の太田八重子さんをモデル

に使い、自然と女性の融合した美しさを発表し内外から高い評価を受けました。そ

の中には松永安左エ門翁や瀬戸内寂聴さんらがこの写真集に対してコメントを寄

せています。しかし、展覧会があった12月の終了後、モデルであった太田八重子

さんは自らの命を絶ってしまい、杉山吉良氏は悲しみにうちひしがれたそうです。

「私と一緒に写真を作るのに、自然の中に裸で飛び込み、そこに喜びを感じ、つらい

仕事に耐えてくれた彼女は、今はこの世にいない」。1972年発行ですから今から

40年前に出版された写真集です。当時まだヌード写真に対して理解が浸透してい

た時代だったとは言えないと思います。その中で太田八重子さんが何を悩み何を

感じていたのか、恐らくそれは写真を撮り終わったあとの出来事が原因だったのか

もしれません。それ程、この写真集で見せる彼女の表情としぐさは生き生きと輝い

ており、そこには「死」を感じさせるものは何一つないからです。


杉山吉良はその後、戦時中報道班員として従軍した北太平洋アッツ島を再訪し、

北限の花に戦死した多くの人々の思いを汲み取り、その人々の鎮魂歌として「花」

という印象的な写真集を出版しています。

(K.K)


 




杉山吉良 1967年頃


 
 


「南の色」 サトウサンペイ (本書より抜粋)


それにしても、風景と女をこれほど溶け合わせた作品をそう知らない。人間も

自然の一部であることを主張するかのように、女が水に、空が女に、女が枝

に、見事に溶け合っている。波しぶきの上がった瞬間と、女の動きと、太陽と、

色、それらが完全に自然である一瞬を定着するためには、どれほど時間と努

力が必要であろうか。充実した瞬間とは、即永遠のことである。氏は私たちに

永遠の画像を残してくれた。こんなことも私ごとき若輩にわかるのも、老境円熟

、光輝ますます燦爛、技至るところ、必ずや、万人の心を打つからであろう。


 


「人間への愛」 森英恵 (本書より抜粋)


人の一生は短い。人によって多少の違いはあるが、限られた時間をどう生きて

いくかによって、その人が決まる。杉山先生のお仕事を見ていると、やりたい

事を飽くなき執念で追究なさっている様子がよくわかる。先生の作品には、人

間に対する深い愛情があふれている。その愛が人間を超えて神の創造による

“自然”に広がり、計算された色彩の中で的確に表現される。独特な世界が生ま

れ、見る人の心を打つのだと思う。服飾デザイナーとして私も人間の体を主題

にした仕事を続けてきたが、体にのせる衣服を作りながら、時に、生まれながら

のバランスのとれた肉体の持ち主に出会うと“人間の体はほんとうに美しい”と

感じてしまう。衣服をまとうことが、むしろ残念に思えるのである。体そのものの

美しさが、訓練によってすみずみまで磨き鍛えられた時、これほど美しいものは

ない。だから私はバレーを見るのが大好きなのだけれど、自然な体の美しさを

そのまま扱える先生が羨ましい。数年前に「讃歌」を見せていただいた。一人の

清純な女のとぎすまされた体が、自然の移りにかわりの中にとけこんでいた。

ギリシャ神話の一こまを思い起させるほど、無垢で幸せな表情をみて驚いた。

人間の力を超えて神の支配する自然の中で生身の体を投げ出す事によって、

芸術家の確かな眼が自然をしっかりと抱きこんでいた。女の体を借りて自然の

美しさが表現されていて、深い感銘をうけた。先生は写真で詩を書いておられ

た。この度、初めて写真集をお出しになるという。更にどのような形で杉山吉良

さんの世界がひろがり深まって人間への愛をみせて下さるが、楽しみだ。








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