聖フランシスコ大聖堂
壁画・・・小川国夫 (「古都アッシジと聖フランシスコ」より引用)
フランシスコ大聖堂で特筆すべきは、ジョット(あるいはジョット派)による壁画です。 チマブーエの絵もありますが、これは残念ながらほとんど傷んでしまっています。 それにしても、チマブーエからジョットにつながる絵の系譜は、イタリアだけでなく、 世界の絵画史においても大きな節目ですが、その中のかなり重要な部分を、フラ ンシスコ大聖堂でうかがうことができます。ジョット(派)のフランシスコの生涯を描 いた絵は、中世の人々が聖人に対してどのようなイメージを抱いていたかを示し ています。これが聖人の現実であったとは言えないでしょう。あがめられ、優美に 理想化されたフランシスコがここにいるのです。彼は中世の精神を代表する人物 です。その精神の核は言うまでもなくキリスト教で、それが深まって行った極点に いるのが彼なのです。別の言い方をすれば、キリスト教の歴史に新生面を開いた 人なのです。どのようにして新生面を開いたか・・・・。これは余りにも大きな問題 で、現在でも充分な解答は得られていないと思うのですが、一つ確かなことは、 掟から抜け出て、人間感情を開放したことだといえます。キリスト教が形式的に なってしまっていて、その中に人間感情が縛られていたのを、イエスはそのよう に規則など愛せよとは言わなかった、人間を愛せよと言った。動物や鳥、木々 や花、山や空を愛せよと言った。そうフランシスコが唱えているのは確かなこと です。ジョット(派)はこの新しい理想にのっとって壁画を描いている形跡があり ます。それほどにフランシスコの影響が支配的な時代であったといえるでしょう。 しかもジョットは、新しい聖人を描くにふさわしい、新しい絵画の観念を創始した 天才でした。
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