チェスの本

フランソワ・ル・リヨネ著 成相恭二訳 白水社







はじめに(本書より引用)


1.困った先入観・・・・チェスのゲームに向けられる最も一般的な非難は、ゲームをして

いる人の非活動的なことと、時間がかかる対局中に彼らが示す忍耐についてです。そ

して、このような非難はバッハのフーガやベートーヴェンの四重奏曲の愛好家には向

けられることのないものです。このような苦情については本書の1ページ1ページが答

えになっていますので、読者は直接に反論しようとして時間をむだにしないでください。

こういう非難をしている人でも「チェス」という木の実をひとくちかじれば今まで言ってい

たことをさっと忘れてしまうものなのです。むずかしさの問題は軽く避けてしまうことは

できませんし、またそうしてもいけません。もし、ほとんど時間をかけないゲームの奥義

全部をたやすく覚えられるなら、そのゲームから何らかの利益を引き出す努力をさせよ

うとしても失敗するのは明らかです。しかし人間の最も高度な精神的な活動は、高い質

の喜びと感動の栓をあけることに意味があるのではないでしょうか。多少、我田引水に

なりますが、チェスのゲームは激しい知的活動で、ある瞬間にはその強烈なさは常人に

は耐えがたいほどになります。知能とある種の直感を必要とし、また訓練によってそれ

らは発達します。記憶力が重要であるということは強調しておきましょう。この点はいくら

強調しても強調しすぎることはありません。チェスの勝負は沈着さ、またあるときは勇気

の道場だということを経験は示しています。


2.心を迷わす芳名録・・・・そもそも規律をもって活動しているならば、その愛好家のなか

に、熱心なとはいわないまでも、その道を楽しみ、また精進した有名な人は数多くいるも

のです。この点については、チェスはただ数え上げるだけでも、この本のたくさんの枚数

を費やさなくてはならないほど、芳名録の内容が華麗であることを誇りにしています。私

たちはこれらの同好者の幾人かの名をあげるだけにしておきましょう。 (略)これらの著

名な愛好家のほとんどは普通の指し手で、対局の記録、保存、出版はされていません。

しかしいくつかの例外はあります。ナポレオン一世によってまことに平凡に指された3局

(対偽自動人形・・・107ページ参照、ベルトラン将軍、ド・レミュザ夫人)の他に、ジャン=

ジャック・ルソーによってたいへんよく戦われた勝負(彼は無遠慮にもコンティ公を打ち負

かしました)、アルフレッド・ド・ミュッセによる対局(彼はまだ望みのある局面で理由もなく

投了しました)、ムルタトゥリ、ジュール・グレヴィ・スターリン(対エホフ)、モロトフ(盲チェス

でオルジョニキーゼと指しました)、アインシュタイン(対オッペンハイマー)、フィデル・カスト

ロによる勝負が残されています。有名な人のなかでも幾人かは、チェス界最高の実力とは

いかなくとも、それより少し下がった職業的チャンピオンと対局してもおかしくないだけの

域に達しました。レオン・トルストイはクリミア戦争中にチェスを指しに行くため部署を離れ

て少尉の位を失ったらしいのですが、彼は通信チェスの素晴らしい指し手でした。「ゴーレ

ム」の作者グスタフ・メイリンクも同様です。プロコフィエフとオイストラフは6局のよい試合

を戦っています。マルセル・デュシャンは終盤の理論の1章を深く掘り下げました。また国

際トーナメントで何回もフランス・チームの一員として活躍しました。


3.文明の一側面・・・・チェスのゲームが同時にスポーツであり、芸術であり、また科学で

あるというのはチェスの世界ではあたりまえのことです。この主張は事実によく対応して

おり、チェスの現象のなかに文明の一側面を認めるということに帰着します。この本で私

が書こうとしているのはこのことです。同時にこの本は、勝負とプロブレムというチェスの

非常に異なる2つの面の差に光をあてるでしょう。その差は往々にして強調される傾向を

持っているのですが。


 


目次

訳者まえがき

はじめに

第1章 チェスはゲームです

遊びのなかでのチェスの位置

チェス小史

規則

主な慣例

よく使われる用語と表現

習い始めと修業


第2章 スポーツとしてのチェス

勝負のいろいろな型

マッチ

トーナメント

ラウンド、総当り、トーナメント、マッチ

ゲームの他の型

社会的な面

相談勝負、生きたチェス、その他


第3章 チェスのゲームは・・・・技術ではあるが・・・・科学でもあるのでしょうか

チェスの技術

戦略、生まれたての科学に混ぜ合わされた技術

チェスの数学化に向けて


第4章 チェスの芸術

チェスの芸術的な側面

チェス芸術の頂上、プロブレム


プロブレムの解答

おわりに

参考文献

歴代日本チャンピオン








麗しき女性チェス棋士の肖像

チェス盤に産みだされた芸術

毒舌風チェス(Chess)上達法

神を待ちのぞむ(トップページ)

チェス(CHESS)

天空の果実