「チェスへの招待」
ジェローム・モフラ著 成相恭二・小倉尚子 訳 白水社 より引用
まえがき (本書より引用)
フランスのチェスは飛躍的発展を遂げている。登録選手の数は増えつづけており、 学校でのチェスの手ほどきも拡がっている。フランス・チェス連盟は2000年1月から 正式にスポーツの連盟の1つとして認められている。フランスのエリート選手たちは 2001年のヨーロッパ女子選手権や2003年のパリ・ナオ・ヨーロッパ選手権などの タイトルを取って世界最強の選手たちと方を並べている。現在、フランスは世界のトッ プ100に入る選手の数では世界第5位だ。しかし、私たちの小宇宙の外では誰がそ のことを知っているだろう。
ジェローム・モフラがコレクション・クセジュのチェスの本にまえがきを頼んできたとき 私たちは喜んで承諾した。たしかにチェスの現在の問題は、大衆やメディアに充分に 知られていないことなのだ。一方で、スポーツとしてのチェスはいわゆるエリートのあ いだで評価され、良いイメージをもたれている。しかし、チェスはあらゆる階層のなか に愛好者を持ち、なかでも「不穏の地域」といわれるところに愛好者が多いということ はあまり知られていない。この本のような啓蒙書が出版されるのはチェスの民主化に 役立つだろう。
チェスについて書かれた本書は、いわば小さな偉業だ。コンパクトな形式のなかで、 著者は15世紀にわたる歴史を持つこのすばらしいゲームの多様な面を見せてくれる。
第1章は、チェスの歴史と歴史全般の驚くべき相似性を追う。この第1章はじつによく 史料を辿っており、チェスのゲームが軍隊、工業、文化の発展と軌を一にしたことを説明 している。
第2章はチェスの世界の解説にあてられている。著者は私たちの連盟やクラブについて 説明し、チェスを始める人たちに、競技の仕組みやインターネット上で世界的なブームを 巻き起こしている「楽しむチェス」について述べている。ジェローム・モフラは、チェスのルー ルを独創的な方法で教えてくれる。つまり、20世紀のベオグラードにおいて2人のチェス プレーヤーが戦った名局を再現する。この訓練から何人かのチェスの名人が生れるだろう。
そして第3章は、たしかに最も魅力的であろう。チェスのゲームと精神分析、絵画、文学、 映画、軍隊の戦略とが韻を合わせている。驚きである。著者は多くのプレーヤー、知識人、 有名な芸術家がチェスについて持っていた意見を集約するだけでなく、彼はその分野に 応分の貢献をする。こうしてこの高貴なゲームについてのいろいろな解釈に対しての自分 の立場を明らかにし、また、私たちの社会におけるゲームの意味を示す。たしかに彼の見 方は個性的であり、この刺激的な読み物を無視することはできない。
何はともあれ、著者の野心は明らかだ。チェスはとかくゲットーに閉じ込められていたが、 それを解放することだ。この本は、チェスの世界の豊かさと深さを読者の目に明らかにす ることは疑いない。では、64のマス目にひろがる魔法の世界にようこそ。
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