「ザ・ワイルドライフ」

ナショナル・ジオグラフィック写真集

ジョン・G・ミッチェル著 日経ナショナル・ジオグラフィック社









世界の一流動物写真家45人の撮った傑作175点を集めた貴重な

写真集であるが、この中には星野道夫、岩合光昭などの日本人写真

家の作品も含まれている。特に冒頭の数枚の写真には何かを感じず

にはいられない臨場感で迫ってくる傑作である。

2002年12月1日 (K.K)





(本書より引用)


約100年の間、ナショナル・ジオグラフィック誌の誌面を飾ってきた優れた

野生動物の写真は、つねに高い評価を受け、多くの読者を獲得してきた。

新しい千年紀を迎えた今、それらの写真はこの輝かしい写真集にまとめら

れ、動物写真の新たな金字塔として打ち立てられた。現代を代表する写真

家による、動物写真の傑作を175点を収めたこの写真集は、おもわず息

をのむような映像美に満ちている。だが本書の魅力はそれだけにとどまら

ない。本書では、砂漠や海洋、森林、草原など、自然界の王国で、さまざま

な生き物が力強く美しい世界の中で依存し合いながら、なおかつ微妙なバ

ランスを保って暮らす様子を知ることができる。また、野生動物の写真撮影

の技法や、才能ある動物写真家たちのプロフィールも紹介されている。こう

した写真家たちはその鋭い目と卓越した技術を駆使して、あっというまに

姿をくらます動物でもフィルムに収めてしまう。本書に集められた数々の

美しい写真は、砂漠などの過酷な自然から、大小さまざまな生き物がうご

めく自然まで、生態系ごとに分類され、一つ一つの生態系の全体像を捉

え、驚嘆すべき多様性に満ちた地球の生き物の姿を、広い視野から眺め

ることができるように工夫されている。












本書「野生の王国」より引用


月のない凍えるような夜だった。私は写真家のジョエル・サートレイと米国ネブラスカ州

の野道を歩いて、プラット川流域に広がる渡り鳥の休息地を見に行った。道を外れて凍

てついた野原を腹ばいになって進んでいくと、寒さが一段と身にこたえる。やっと見張り

小屋にたどり着き、氷の張った川面を見下ろすと、数千羽のカナダツルの群れがプラッ

ト川の流域を何キロも埋め尽くしていた。春になり、ツルたちはカナダやアラスカ、シベリ

アへ移動する途中、ここで羽を休めているのだった。その鳴き声は迫力に満ちていた。

「かん高い鳴き声や低い声が警笛のように鳴り響いたかと思うと、それが途絶え、やがて

トランペットのような鳴き声やのどを震わせる音が、近くの沼地が震えるほど響き渡った」

自然研究家のアルド・レオポルドはそんな風に描写している。やがておびただしい数の

ツルが長い脚を後ろに伸ばして、2メートルもある翼を広げて飛び立つと、辺りは耳をつ

んざくような鳴き声に包まれた。この写真集は、ツルの群れを私がぼう然と見送ったプ

ラット川の川辺や、アフリカのサバンナ、北極や南極の氷原、赤道直下の熱帯雨林で

繰り広げられる、野生動物の驚異と美の世界を紹介する。


「ナショナル・ジオグラフィック」誌で働き始めるずっと前から、私はこの雑誌に掲載されて

いる野生動物写真の質の高さに感心してきた。そして30年以上、この雑誌の編集者とし

てまっ先に写真を見てきた私は、過酷な取材現場で何ヶ月も過ごし、すぐれた作品を持ち

帰る写真家たちを改めて敬服するようになった。今でこそ、野生動物をその生息地で撮影

するのは当然のことだが、1906年当時は大胆な試みだった。この年、ジョージ・シラス3世

はシカやエルク、ヤマアラシなどの自然の姿を撮影したモノクロ写真を携えて、本誌の編集

長ギルバート・H・グロブナーのオフィスを訪ねた。ペンシルベニア州出身の下院議員だった

シラスは、こうした動物の多くを、夜間に生息地で撮影していた。後にグロブナーは「こうし

た野生動物の写真はこれまで誰も見たことがなかった」と語っているが、1906年7月号に、

このシラスの写真74点を掲載した。


もちろん、現在私たちが求めるものは、単なる動物の野生の姿に留まらない。本誌の写真家

たちは、野生動物のありのままの姿を芸術性の高いポートレートに仕上げると同時に、その

動物についての私たちの理解が深まるように、生態も明らかにする。例えば、米国アラスカ州

ホーマーでノアバート・ロージングが撮影した、止まり木をめぐって争う3羽のハクトウワシの写

真は驚きに満ちている。「ワシはけんか好きな動物なんです」と言うロージングはカナダ東部の

ニューファンドランド島の崖の上の見張り小屋に何週間もこもって、ハクトウワシの生態を観察

している。野生動物の理解が深まれば、私たちは動物の置かれた環境に関心を払うようにな

る。本誌の写真家たちもこうした信念の持ち主だ。「声なき生き物の写真を撮ることで、私たち

は彼らの代弁者になれる」と写真家ジョエル・サートレイは語っている。多くの写真家が、取材

を通じて何をなすべきかを学び、その使命のために多くの時間と資金を捧げている。サートレイ

は絶滅のおそれがある米国のソウゲンライチョウの保護に協力している。フリップ・ニクリンは

クジラの科学的研究に資金を提供している。ガボン共和国の大統領オマル・ボンゴは、写真家

マイケル・ニコルズが撮影したコンゴ川盆地に生息するカバやゾウの写真に触発されて、国土

の10%に相当する土地に新しく13の国立公園を設立した。


本誌の優れた動物写真の多くは、世界各地の偉大な野生動物研究家たちの知識や助言、支援

なしには撮影できなかった。ニコルズは、中央アフリカを3200キロを徒歩で横断した自然保護運動

家のJ・マイケル・フェイの協力がなかったら、あのみごとな写真を撮影できなかったことだろう。

「ナショナル・ジオグラフィック」誌に載るような優れた野生動物の写真を撮るには、何が求められ

るのだろう。話は実に簡単だ。写真家はただ、対象物の本質を明らかにする、芸術的に優れた

最高傑作を撮って、無事に生きて帰り、語ってくれるだけでよい。デビッド・デュビレらはいつも決定

的瞬間を求めて、口を大きく開けたホホジロザメなど、恐ろしい海の怪物を追ってきた。私が本誌

の編集者になって以来、多くの写真家がライオンやサメ、ヘビ、さらにあらゆる種類の毒虫に食い

つかれたり、熱帯の疫病や寄生虫にとりつかれて、“医学の教科書の題材”になって戻ってきた。

危険の伴う写真を狙っているベテランの写真家たちに、私たちはよくこんな冗談を言う。「その撮影

は一番最後にしろ。そしてその前に、撮ったフィルムをすべてこちらへ発送しておくんだ」 写真家

たちはただ動物の傑作写真を撮影しているだけではない。彼らはお返しに動物たちに希望を与え

ているのだ。


「ナショナル・ジオグラフィック」誌編集長 ビル・アレン








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