「アンパオ」

太陽と月と大地の物語

ジュマーク・ハイウォーター作 フリッツ・ショルダー絵

金原瑞人訳 ベネッセ より









ワシントン・ポスト紙に「ごくまれに、時代を超えた作品が現れることがある。アンパオは、

まさにそのような作品だ」と賞せられたとても美しい物語。著者はインディアンの各部族

の神話や伝説を基礎に置き、新たな創作物語を読者に語りかける。それはまるで火を

囲みながら、年寄りの語り部から流れ出る言葉に耳をじっと傾ける昔の原風景を現実

に体験しているような不思議な感覚をもたらしている。

(K.K)







アンパオの旅の物語も、インディアンの物語を保存して伝えるという、むかしからの仕事と

同じで、それを新しい聴衆に、もっと広い聴衆に伝えたいというのがわたしの目ざしたこと

だったのです。わたしが「アンパオ」を書きあげたとき、何人かの年上のインディアンの友

だちがこれを読んで、たずねました。「いったいどれだけの白人がきみの書いたものを理解

できると思っているのか?」と。わたしは長いこと考えて答えをだしました。「アンパオ」という

作品のイメージは、コロンブスやコルテスやアンドルー・ジャクソンたち(これらインディアン

の世界の侵略者たちはインディアンを人間以下のものと考えていました)の時代ならわかり

にくいものだったかもしれません。しかし世界は変わってきたし、われわれは新しい考えに

到達しているのです。それは、自然や、宇宙における人間存在についてのインディアン的

な考えのなかに根源的なリアリティがあるとする考えなのです。こうした考えが広く認めら

れるようになったのは歴史上はじめてのことでしょう。「アンパオ」のなかでさまざまなことが

語られているのですが、そのなかでもっとも中心的な考えは、アメリカ・インディアンの宗教

を研究している注目すべき学者のひとりポール・レイディンの言葉にうまく集約されていま

す。このレイディンの言葉は「アンパオ」という作品に光をあててくれるだけでなく、インディ

アン全体にたいしても光をあててくれるはずです。「われわれ白人は人格を持つものと人格

を持たないものとを区別するが、インディアンはそういった区別をまったくしない。インディア

ンが興味を持っているのは、存在とはなにか、現実とはなにかということである。そして、認

識できるもの、考えることができるもの、感じることができるもの、夢にみることができるも

の、インディアンにとってこれらはすべて現実に存在しているのである。」・・・・本書より







ココミケイスは泣きながら、アンパオといっしょにテントからかけだした。暗く風の

強い夜だった。ふたりは、小さな谷間の草地を横切って西に向かった。ふたりは

ずんずん進んでいって、やがて大きな湖にやってきた。それはみたこともないほど

大きく、深くすんだ湖だった。カラスと太陽の霊がアンパオの手をとり、月と明け星

とコギツネの霊がココミケイスの手をとった。霊たちはいっしょになって湖のほとり

でうたった。「さあ、いっしょにおいで。安全な水のなかの村に」 「でも」ココミケイス

がため息をついた。「もしあなたがたについていったら、わたしたちはきっと死んで

しまいます。わたしたちも、このすばらしい世界のすべての人間も、みんな死なな

くてはならないということなのですか」 「ぼくたちは死にはしない」 アンパオがそっ

といった。「おそれることはないよ。ぼくたちの命は、古い木の年輪みたいなものな

んだ。ぼくたちは川なんだ。ぼくたちはこの大地なんだ。ぼくたちは、父やそのまた

父が歩いてきたむかしからの道なんだ。そのむかし、どの川もきれいにすんでい

て、草原にはバッファローが群れをなし、いまは大きなアカスギも、この広大な大地

のはじまりのことは弱々しい夜明けの光をあびて立つ若木だった。おそれることは

ない。ここにきてくれた偉大な霊たちがぼくたちのなかにいるかぎり、ぼくたちは死

ぬことはない。この大地のあらゆる岩の下にはぼくたちの道がある。おそれること

はない。死んだ仲間も、死にたえたバッファローもすべて生きかえるだろう。すさま

じい爆発とともに、煙の雲のなかに生きかえるだろう。山を走る火の舟が、すべて

のものたちを連れもどしてくれるだろう。歓声をあげ、手をふり、勝ちほこった叫び

をあげながらぼくらのところに連れもどしてくれるだろう。おそれることはない。山を

走る火の舟がみんなを連れもどしてくれるのだから。ぼくはそれをみたんだ」 その

うちに霊たちはうたうのをやめ、夜のしじまのなかをアンパオとココミケイスの手を

とって、ゆっくりと美しい湖のなかへとみちびいていった。水が顔にふれたとき、

ココミケイスははっと息をのんだが、すぐにほほえんでアンパオをみつめながら

深みへと歩いていった。そして、ふたりともみえなくなった。



目次

第一章 満ちたりた日々

さあ、はなしてきかそう

満ちたりた日々

月の魔法


第二章 世界の夜明け

世界の夜明け

アンパオの誕生

おこったことはすべて、ふたたび


第三章 天と地の教え

空に住むもの

ヘビになった若者

呪い師

アンパオと動物たち

トウモロコシ

アンパオとコヨーテ

シカ女

おぼれた若者たち


第四章 海からの侵略

太陽の歌

アンパオと不思議なイヌ

鳥との戦い

東からやってきたもの

湖の底の村


最後に語り手から

もとになった話

最後の最後に 訳者から







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