「雨の匂いのする沙漠」

G・P・ナブハン著

小梨直訳 白水社 より引用











十年以上も前に書かれた本なのに、しかもアメリカ合衆国南西部の端の端の

乾燥地帯に暮らす、北米大陸の先住民としてはあまりとりあげられることもない

人々の話であるのに、なぜこれほどまでに、いまの私たちの心に訴えかけてく

るものがあるのか。「普遍性」----かたい表現ではあるけれども、それが本書

の持つ不思議な魅力と考えたときに、浮かんだ言葉だった。「オオカミと人間」

(草思社)などの作品で知られるバリー・ホルスタン・ロペスも、「広く他の土地

にあてはめて考えることのできる重要な作品」と評している。(中略) 著者の

ゲイリー・ポール・ナブハンは、このソノラ砂漠の植生と人々の暮らしを研究し

つづけるうちに、トホノ・オォトハム族と親しくなり、本書「雨の匂いのする砂漠」

を著した。父がレバノン系、母がアイルランド系というナブハンは、インディアナ

州の北端、ミシガン湖に面したインディアナ砂丘湖岸で育ち、修士号、博士号

をアリゾナ大学で取得。植物研究のかたわらインディアン保留地内の学校で

教壇に立つようになり、93年に前述の新しい作品を出版した時点で、すでに

20年になるという。一方、大学で講師として植物学を教えたり、またアリゾナ・

ソノラ砂漠博物館の客員作家、砂漠植物園の副園長なども務めている。植物

学者であり、貴重な土地固有の種子の保護活動家でもある彼の作家としての

アプローチの基本には、やはり調査、分析を大切にする西洋の自然科学があ

る。しかし彼はまた、自分の感性に非常に忠実でもある。自分を含めた「人間」

を、自然から切り離して考えてはいない。そうしたものの見方、感じ方の基底に

は、レバノン系である父方の親戚や、故郷のミシガンでさまざまな人種、特に

ギリシャやイタリアなど地中海系の人々に囲まれて過ごした子供時代の影響が

強くあるようだ。ナブハン自身、そう語っている。水や緑の豊富な土地であれば、

人間は満ち足りた生活をするだけでなく、経済的にそれらを利用して、あたかも

自分たちがすべての支配者であるかのようにふるまうことができるが、砂漠で

はそうはいかない。しかし、「砂漠の民」は、白人の探検家や開拓者のように、

そこを不毛の地、死の土地だとは決して思っていない。わずかな雨がすばらし

い力で生みだす、生き物の多様性。その多様性の中に「調和」もしくは「共生」

という名の一本の道がある。それを辿ればよいのだ。トホノ・オォトハム族の

素朴な言葉の数々に、私たちまでもがやさしく肩を叩かれているような気がす

る。どの章でも、不思議なカタルシスを味わうことができる。

(本書 訳者あとがき より引用)



目次

序章

第一章 「イィトイ」への道

第二章 雲を吐きだす

第三章 雨が降らなくなったら、どうするか

第四章 砂漠の小猿たち

第五章 小麦の種は問題の種

第六章 コヨーテが盗んで台無しにした植物たち

第七章 鳥たちとともに暮らす場所

第八章 採集

第九章 聖人像と薬草

第十章 耕して、よい土地にする

訳者あとがき







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