「グラス・ダンサー」

スーザン・パワー著 小沢瑞穂訳 めるくまーる より引用







アーネスト・ヘミングウェイ賞を受賞した新進スー族女性作家による幻想

物語。母親は純血のスー族で、本書は世界10数ヶ国で翻訳されている。

(K.K)





主人公のスー族青年ハーリーは、伝統的なダンスの名手であり、同級生の

シャーリーンは彼に届かぬ思いを寄せている。魔女と恐れられている彼女

の祖母や、メディスンマンの老人など、多くの男女の秘められた過去が明

らかになるにつれて、彼らと先祖たちとの神秘的なつながりが浮かび上が

る。精霊や夢が人の運命を左右する、インディアン固有の精神世界を、現

代の物語に映し出した異色作。 (本書より)


 


訳者あとがき より引用


翻訳しながら感動し、どんどん仕事が進んで最後は終わるのが惜しくなるような小説に

出会うチャンスはめったにない。スーザン・パワーが32歳で書いた本書「グラス・ダン

サー」(1994年刊)は、ストーリーのおもしろさ以上に読む者の心をわしずかみにする

ような力を秘めている。その力とは、今の私たちが忘れかけている祖先の声であり、人

と自然が共存して生きることの意味であり、時間と空間を越えたスケールの壮大さであ

り、科学では解明しようのない世界に対する畏怖の念である。


舞台は、ノースダコタ州の保留地、登場人物はそこに住むズー族(ダコタ族)の人々、つ

まりネイティブ・アメリカンの世界を描いた小説だが、世界十数か国で翻訳されていること

からもわかるように、文化の違いを越えて多くの読者を惹きつけるだけの普遍的な魅力

を持った文学作品に仕上がっている。


物語は、今のアメリカに生きる十代の少年、ハーリー・ウインド・ソルジャーと彼に片思い

の同級生の少女、シャーリン・サンダーを中心にスピーディーに展開し、彼らの日常にさ

まざまな影響を及ぼしている祖先とのつながりが、百年以上も前の時代にまで遡ってひ

もとかれていく。ハーリーの数世代前の伯父のゴースト・ホースとシャーリーンの数世代

前の伯母のレッド・ドレスの出会いと悲劇的な結末は、この小説の山場と言っていい。

彼らの浮遊する魂が子孫だけではなく、保留地のすべてに影と光を投げかけている様子

が、スーザン・パワーの生き生きとした筆致であますところなく描き出されている。(中略)


だが、スーザン・パワーが描きたかったのは、過去から持ち越された白人とインディアンの対

立というありふれたパターンではなく、言霊というものが持つ測り知れない力である。言葉は魂

であり、魂は言葉であるという彼女の信念がこの小説全体をおおっているように感じる。スー

ザン・パワーがはじめて書いたこの小説は、最高の処女作に対して与えられるアーネスト・

ヘミングウェイ賞を1995年に受賞した。彼女が子どものころから憧れていた作家、ルイーズ・

アードリックは、著者のことを“突進するエネルギーとスリリングとしか言いようのない勢いで書

いている”と激賞している。同じマイノリティ作家の先輩であるエイミ・タンも“部族の祖霊たち

にとり囲まれてしまうような語り口で、純粋な魔術的効果をあげている”と賛辞をよせている。








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