「アメリカ先住民のすまい」

L・H・モーガン著

古代社会研究会訳 上田篤監修 岩波文庫 より引用


  






本書 解説 より引用


人類学者ルイス・モーガンというと、多少、御年を召した方は「『古代社会』のモルガン?」

と首をかしげられるであろう。まさにその「モルガン」である。そこでまず「古代社会」によっ

て知られるモーガンの全著作体系のなかでの本書の位置づけをのべ、ついで「いまなぜ

モーガンか?」という問いについておこたえすることで、解説の責を終えたい。日本社会

にはあまりみられないことであるが、欧米社会には、人びとが秘密結社というものを作っ

て楽しむ(?)傾向があるようだ。モーガンも少年のころから一つの秘密結社に属してい

たが、この秘密結社がある時期からアメリカ・インディアンへの教育と奉仕を目的とする

ようになり、そしてモーガンとインディアンとの結びつきが始まる。やがてモーガンは、イ

ロクォイ諸部族を中心にインディアン社会の民俗学的調査をおこない、『イロクォイ連合

体』(1851)『人類の血族および姻族の制度』(1870)等の著書を発表するが、やがて

1877年になって、畢生の大著「古代社会」(岩波文庫既刊)をまとめあげるのだ。その

なかでモーガンは、人類社会の発展を、一つは発明発見といった技術を通じて、もう

一つは野蛮な時代から段階的に展開してきた制度を通じて理解しようとする。そして

彼の関心は、いうまでもなく後者にあった。そこで『古代社会』の第一篇においては、

まず「人類の技術」について包括的に論じたあと、第二編以下において「政治形態」

「家庭」「財産」というようにアメリカ・インディアンの失われた生活を復元しつつ、個々

の制度の発達の考察をおこなう。『古代社会』はこの第四編の「財産」で終わっている

のであるが、じつは、モーガンが序文でのべているように、その第五編に「住居」が収

録される予定であった。ところが、全体の分量があまりに多くなりすぎたために、モー

ガンはやむなく、その「住居」の部分を割愛してしまったのである。そして四年後に、

それは「アメリカ先住民の住居と住生活」という題名にかえて、前著の『古代社会』と

は別個に出版された。今回、訳出されたものは、その「アメリカ先住民の住居と住生

活」であり、ほんらい『古代社会』の第五編にあたるものなのである。ということは、本

書は『古代社会』の続編であり、本書を加えることによって、はじめてモーガンの意図

した『古代社会』は完結することになる、といえる。では、いったいなぜいま『古代社会』

なのか。『古代社会』は、それが上梓されて以来、モーガンの意図とは別に数奇な運命

をたどる。まずそれは、マルクスとエンゲルスの目にとまった。そしてマルクスはそれに

批評と注釈を加えた『古代社会ノート』を遺し、エンゲルスはモーガンの『古代社会』を

全編に引用して、のちに共産主義社会の原典となった「家族、私有財産、および国家

の起源』(岩波文庫既刊)という一書を書きあげる。こうして『古代社会』はコミュニスト

たちの聖典となった。しかし、モーガン自身はまったくその気はなく、彼は死ぬまでアメ

リカの社会体制が人類社会の最高のものである、と信じて疑わなかったのである。し

かし、彼の著書が社会主義者や共産主義者たちのバイブルとなったために、逆にアメ

リカをはじめとする自由主義国では、彼の著書は危険なものとみなされるようになった。

さらに何人かの専門学者たちは、その後、モーガンの理論体系の基礎となったアメリカ・

インディアンの親族呼称の研究について異議を唱え、これを葬り去ろうとした。


 


目次

序文

第一章 アメリカ・インディアンの社会と政治

氏族

胞族

部族

部族の連合体

第二章 歓待のしきたりとその実践

歓待のしきたり

第三章 生活共同体

アメリカ・インディアンの生活共同体

第四章 土地と食物の慣行

土地の共同体所有

調理された食事つまり正餐を一日一回、男性が先に、女性と子供たちが後に

というように食事時間を別にしてとる習慣

第五章 ニューメキシコ以北のインディアンの住居

野蛮時代の諸部族の共同体生活

未開時代前期の諸部族の共同体住居

第六章 ニューメキシコの定住インディアンの住居

ニューメキシコの村落インディアンの共同体住居

第七章 サン・ファン水系の定住インディアンの住居遺跡

第八章 サン・ファン水系の定住インディアンの住居遺跡(続)

第九章 ユカタン半島と中央アメリカの定住インディアンの住居遺跡

訳注

解説

地図

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