北西海岸インディアンの美術と文化

D. キュー&P.E. ゴッダード著

菊池徹夫・益子待也 訳 六興出版 より引用


 











日本の縄文土器文化研究に生涯を捧げられた山内清男氏は、西南日本に

比べて遥かに旺盛にみえる東北日本の縄文文化の経済的基盤に関連して

早くからいわゆる「サケ・マス論」を唱えられていた。そしてそのモデルとして

比較されたのが、北アメリカ大陸北西海岸インディアン文化であった。以後、

日本考古学では、とりわけ工芸的に優れたさまざまな物質文化を生み出した

東北地方の縄文後、晩期の文化の背景に、豊富な鮭・鱒資源を考えること

が少なくない。


もちろんこれにはさまざまな批判もある。確かに、東北日本の縄文社会の繁栄

を説明するのに、ことさら鮭鱒だけを強調するのは問題もあろう。しかし、少なく

とも東日本の縄文文化解釈のひとつのモデルとして北西インディアンの文化を

参照するのはかならずしも非難されるべきことではあるまい。それどころか、最

近、東北や北陸各地でつぎつぎに明らかにされつつある、天然資源を巧みに

利用した縄文人たちの豊かな生活文化の実態を見るにつけ、両地域の比較の

作業はいっそう必要性を増してきているように思われる。


北西海岸インディアンは我々と同じモンゴロイドとして、日本列島から見るとちょ

うど北太平洋をはさんだ対岸に住み、しかも縄文人と同様、海と森と川を生活の

舞台としている。もとより、現存のある民族文化を、時間的にも空間的にも遥か

に隔たった別個の、しかも先史時代の文化と単純に比較することは危険であろ

う。彼我の間には、例えば土器の有無など明らかな相違もある。しかし豊富な

水産資源と森林資源、ことに木材の余すところのない利用、手工芸や細工の発

達、それに種々の儀礼の盛行など、共通する要素も少なくない。最近では渡辺

仁氏のように北西海岸インディアン文化をも参考に「縄文式階層社会」の存在を

考える研究者さえいる。


私は北日本考古学を考えるうえで、かねてこの問題に興味を持っていたが、19

85年にカナダを訪れたのを機に北西海岸インディアン文化への興味は一層強まっ

た。そして、自然と人間との関係が根源的に問いなおされつつある今日、この文化

についてもっともっと日本に紹介されてもよいはず、との思いをあらためて深くした

のである。


帰国後しばらくは雑事に追われてなかなか着手できなかったが、畏友スチュアー

ト・ヘンリ氏や当時六興出版におられた流王天氏らの強い勧めもあって自らこれ

に関わる仕儀となった。折りも折り、1987年秋に早稲田大学北方言語・文化研究

会主催のシンポジウム「民族接触」が行なわれ、たまたまそこで研究発表を願った

益子待也氏に協力を依頼したところ快く応じられた。氏は自ら長く北西海岸インディ

アンの地にあって、その人類学的研究に勤しまれ、現在日本では若手ながらこの

方面の第一人者といってもよい。


問題は、北西海岸インディアンに関して数多くある本の中からどれを底本として選ぶ

か、であった。我々はこれと思われる十数冊のなかからまず数冊を選びだした。内容

的にはいずれも優れたもので捨てがたいが、何よりも日本で出版するのに分量(ペー

ジ数)が適当で、記述がなるべく彼らの文化全般にわたって平易に解説されていて、

なおかつ図版・写真の多いものということから、もともと博物館のガイドブックとして一般

市民向けに書かれた本書が最後に残った。このことでもお分かりのように、我々はこ

の本を専門的な研究書としてというよりは、日本の一般読者に北西海岸インディアン

文化とはいったいどんなものかを、とりあえず知っていただくための、ごくごく初歩的

な、いわば入門書の一冊としてお読み下さればと願っているのである。(中略)

(本書 訳者あとがき 菊池徹夫 より引用 )



目次

第1章 序・・・・住民と自然環境


第2章 物質文化

カヌー

大工

籠細工と織物

食物の採集

衣服と装飾


第3章 社会組織と政治組織

社会組織

思春期

葬制

結婚

遊戯

戦争


第4章 宗教と儀礼

宗教的慣行

シャーマニズム

冬の儀式

ポトラッチ

死後の運命

神話と民間伝承


第5章 美術


訳注

参考文献

解説・・・・益子待也

訳者あとがき 菊池徹夫

索引







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