「北米・平原先住民のライフスタイル」
関俊彦著 六一書房 より引用
本書 エピローグ より抜粋引用
1978から81年にかけ、カナダとアメリカで開催された「日本古代文化史」展の実行 委員の一人として、両国から招かれたさいに各地の博物館を見て回った。広い博物 館を見るにあたり、先住民関連のコーナーを主眼とし、これと関連する書籍を求めた。 たった三ヶ月余の日々だったが、撮った写真と買った本は量があり、その後の渡米 の分と合わせると愕然とした。帰国後、写真を見ながら辞書を片手に本を読み、メモ をとった。20年もつづけると、これまたすごい枚数である。そこで、私のカナダ・アメリ カ考古紀行のつもりで、少しずつまとまると発表し、今日に至っている。
ユネスコは1993年を《国際先住民年》と定め、世界各国の先住民の理解と支援をと ろ、21世紀をともに生きようとよびかけた。カナダ、アメリカ、オーストラリア、日本など の多数の国々でキャンペーン活動がおこなわれ、たくさんの人々が関心を、そして支 援が寄せられた。日本はアイヌ民族をクローズアップしたが、一部の人たちを除き、時 の流れとともに一時の盛り上がりは薄れていった。私は30年余のあいだユネスコ活動 に参加しているため、自分なりに先住民を理解しようと考え、モンゴロイドの歴史と文化 の調査を継続的におこなっている。
1989から92年にわたり、東京大学の赤沢威教授をリーダーとする《先史モンゴロイド 集団の拡散と適応戦略》というプロジェクトチームが、文部省の科学研究費をもらい広範 囲に調査と研究を深め、多大なる効果をあげた。その成果の一部が、『モンゴロイドの 地球』全五巻となって、1995年から岩波書店で刊行された。これらにより大勢の人々 が、先史モンゴロイドやその末裔たちに興味をもった。しかし、研究は予算の打ち切り により終了し、ブームは消えうせた。1990年、ハリウッド映画「ダンス・ウィルズ・ウル ブス」が上映された。大平原の先住民を白人の側からではなく、先住民の立場からとら え、従来の価値観を変えるなど高い評価を受け、アカデミー賞の栄誉に輝いた。かつて の西部劇とは大いに異なるもので、先住民に対する時代や社会の眼の変化が読み取 れる。やっと私たち日本人と祖先を同じくするネイティブアメリカンが悪役から解放され たような気がする。古い時代の西部劇が製作されたころは、先住民についての研究 や、彼らへの眼差しや知識が研究者と一部の人たちにかぎられ、広く市民に先住民の 歴史や生き方などが知れわたっておらず、そのうえ人種差別が著しかったことが大きな 要因といえよう。
私は各地に拡散した先史モンゴロイドの血をひく人々を友人と思っているし、親近感を 強くもっている。そこで彼らのことをさぐり、少しずつでもまとめて体系化し、紹介すること をライフワークにしている。まずは中学生時代からの憧れの地、大平原を舞台にドラマ を展開した各種族の生活相を断片的だが語ってみた。最終目標は、かつてネイティブ アメリカンがモットーとした世界、彼らがどんな状況からじょじょに自分たちの社会を築き 上げたのか、その理想郷が白人らによって崩壊するプロセスを示せればと思う。先住民 をとおして先駆的開拓者と侵入者、自然と現代文明の共生といった課題を解くヒントを見 出してもらえればありがたい。
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目次 プロローグ
一章 平原先住民のライフスタイル 一 大平原のエコロジー 地形 気象 二 平原住民のライフスタイル 語族 諸種族 バッファロー(バイソン) 種族 ライフスタイル 生業 集落と住居 家畜 運搬具 調理具 土器 石製品 骨製品 木製品 皮製品 編み物 武器 衣服 髪飾り 入れ墨 タバコ 移動をつづける民
二章 平原先住民のデザイン 一 狩猟民の社会と信仰 二 平原先住民の造形表現 模様・絵文字による表現 皮にほどこした意匠 刺繍の模様 デザインとシンボル 音による表現 故郷を追われた先住民
三章 平原先住民の呪いと儀礼 一 平原先住民の呪い 食料を得るための呪い 戦争に勝利する呪い 北部の種族の幻影 呪い師 司祭者 来世 世界観 二 平原先住民の儀式 儀式の要素 儀式のタイプ タバコ結社の儀礼 太陽の踊り 先住民の願い
エピローグ 索引
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