「伝説の日々 汚れなき儀式 暁の星をおびて」 <幻の馬物語>Vol.1〜3

ジュマーク・ハイウォーター作 金原瑞人訳

ベネッセ より


  







この「<幻の馬>物語」シリーズは現在「伝説の日々」「汚れなき儀式」、そして本書の

「暁の星をおびて」の三冊が刊行されている。著者はインディアンの血をひいて産まれる

が、父親の交通事故死により白人の家に引き取られ、白人とインディアンの文明の狭間

で悩み苦しんできた。その意味でこの「<幻の馬>物語」シリーズは、著者の自伝的な

要素が強く反映されたものと言えるし、多くのインディアンが通過しなければならなかっ

道でもある。白人が作った「インディアン学校」に、親から強制的に引き離された子供た

ちが数多く収容された。そこでは部族の言葉や習慣は禁止され、白人の宗教や価値観、

生活習慣が叩き込まれた。この白人による同化政策による自己基盤の破壊は、今でも

インディアンの社会に暗い影を落としている。本書の主人公もそのような時代を生き、

多くの大切なものを失う。しかし、祖母が最後まで生き抜いたインディアンの道は、主人

公の辛く苦しい日々の中でも絶えず希望の光を灯しつづけていた。美しい夢と自分自身

であることをこよなく愛した主人公、そして著者の見事な構成力、語り部としての才能、

清かさと気迫が本書を真に感動的なものとしている。

(K.K)







ぼくがみんなから隠していた絶望と困惑・・・・・・・ぼくは自分が自由でだれにも頼る必要

などないと思いこんでいた。ほかの連中がぼくを受け入れてくれなくても平気だ・・・・・・・

ぼくのほうが頭がいいし、すばらしい人間なんだと信じていた・・・・・・・。だが、それでも、

ぼくは心の奥深くにある、だれかに愛されたいという強い強い気もちから逃れることはで

きなかったのだ。それを思い知らされた痛みが、通りをかけぬけるぼくから、叫び声とな

ってほとばしっている。それはもはやぼくの声ではなく、人間すべての声だった。







ぼくはおばあちゃんをみた。おばあちゃんの目には思い出があふれている。その顔は

まるで海ガメみたいに茶色でしわだらけだった。世界中でいちばん年を取っているよう

にみえた。しかしそのきれいな黒い瞳は、若さと力に輝いている。おばあちゃんはジャ

ガイモを水のなかに落とした。水が大きな音をたててはねた。ぼくたちは声をあげて

笑った。「ウー・ネ・ケ・・・・・・・牛乳を・・・・・・・、牛乳をお飲み。どうしてわたしたちが

すべてをなくしてしまったか、それを話してあげよう。わたしたちの祖父たちの時代の、

最後の素晴らしい日々のことを話してあげよう。祖父たちが月と星を胸に抱いて死ん

でいったさまを話してあげよう」 それからおばあちゃんは深く息を吹いこんだ。キッチ

ンでひとつずつジャガイモの皮をむいては水をはった大きななべに落としているおば

あちゃんのからだのなかに、青い光が現れた。おばあちゃんは目を閉じて、からだの

なかにある物語を呼びおこし、語りはじめた。「昔、ナ・ペ・クー・ワンたち・・・・・・・あの

よそ者たちが・・・・・・・、まだあまりいなかったころ、草はまだ連中の足を知らず、大地

は連中の手を知らず、たくさんの動物がいて、大地にはおいしいものが満ちていた。

動物たちはわたしたちの友であり師であり、わたしたちに知恵をさずけてくれた。そ

の知恵が大地を緑にし、雨をもたらし、太陽を呼んでくれた。すばらしい日々だった。

だが次第に草は枯れはじめ、動物は話しかけてくれなくなってしまった。大地にはよ

そ者があふれ、わたしたちのすばらしい日々は失われてしまった。今では風がヤナ

ナギの葉をゆさぶるだけだ。霧! 稲妻! 竜巻き! 暑さに岩が鳴っている。岩が

山の高みで鳴っている。いまや太陽の金色の光も消えようとしている。偉大なる太陽

は西に死んでいく。しかしわれわれはよみがえる。ふたたびよみがえるのだ。





ジュマーク・ハイウォーター・・・・・・・チェロキー族とブラックフィート族の血を引いて

生まれる。著書は「伝説の日々」を始めとして、「アンパオ − 太陽と月と大地の物語」

(ベネッセ刊)、「闇の目」などの物語、「大地の詩 − アメリカインディアンの絵画」など

のノンフィクション等、20冊をこえる。教職、講演、TV、各種イベントなどを通じて、情熱

的にインディアン文化を広めるとともに、新しいインディアン芸術をも生み出している。

1979年にカナダのブラックフィート族の大会で、インディアン文化への貢献をたたえて、

「鷲の息子」という意味の新しい名前をおくられた。・・・・・・・(本書より)







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