「アメリカ・インディアンの神話 ナバホの創世物語」
ポール・G・ゾルブロッド著
金関寿夫・迫村裕子訳 大修館書店 より引用
本書 訳者あとがき より引用
ところでそのナバホ族にも、他の多くの民族同様、じつにすばらしい神話がある。 それが本書に含まれている<ナバホ族創世神話>にほかならない。そしてこの 神話は、著者の「序文」にもあるとおり、もともとワシントン・マシューズというすぐれ た白人の民俗学者が収集記録し、それを著者が再話したものである。そしてこれ は、人間、天体、動植物のすべてが、いわば宇宙的一体感をもってこの世に生ま れ出て、ゆっくりと一つの大きな「ネーション」を形作っていくいきさつを、一篇の壮 大な叙情詩として物語っている。しかしまず大事なことは、この物語は、こうして本 の形に印刷されてはいても、本来は口承の物語であることだ。私たちが今こうした 形で読むのは、文字というものを持たなかったナバホ族(インディアンの殆んどの 部族には文字がなかった)が、代々口承で語り継いだ物語の英語による記録しか ないからで、その点の事情は、今私たちが日本語で「読む」アイヌの「ユーカラ」の 場合と、似通っている。しかし物語の本来の生命は、著者も指摘しているように、 それを語る人の声の出し方、息の継ぎ方、休止など、つまり今の言葉でいえば パフォーマンスという、いわばトータルな力にかかっている。しかもインディアンの 詩や物語が、元来呪術的、祭式的色彩の濃いものである以上、本来ならば、そ の場に居合わせ、その神話を共有し、それが朗読されるのを自分の耳でじかに 聴くのが、おそらく一番望ましい。しかしそんなことは、文化的にも技術的にも、と てもできるはずはないから、私たちは、そのことに十分留意しながら、ゾルブロッド 氏が英語で再話したもの(今の場合それをまた日本語化したもの)を、こうして「読 む」しかないのである。それで失うものも多いが、それによって文学の最も原初的 なものを、いくらかでも回復できることを希望したい。
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目次 序文 第一部 出現 第二部 第五世界 第三部 怪獣退治 第四部 集まりくる部族 訳者あとがき
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