「オローニの日々」

サンフランシスコ先住民のくらしと足跡

冨岡多恵子訳 マルコム・マーゴリン著 マイケル・ハーニー絵 スタジオ・リーフ より引用











今日のサンフランシスコ湾岸地帯は200年前とは大きく異なる。グリズリー、エルク、

ハクトウワシ、ミサゴ、レイヨウ、狼、そしてコンドルはすっかり姿を消してしまった。

ヨーロッパから持ち込まれた一年生植物が土着のバンチグラスを駆逐し、また、タ

ンニン樹皮、薪、鉄道の枕木、塀くいなどの需要のために広範囲にわたって樹木が

伐採され、森の姿を一変させた。池や湖からは水がすっかり抜き取られ、川は用水

路と化し、広大な、沼地や湿地までもが破壊された。ガン・カモ、ペリカンの大群、鮭

やニジマスの大遡上、キウリウオの大群、そしてかつては無数にいたアザラシや鯨

も今は当時のほんの名残が見られるにすぎない。40をも超える小部族や、およそ

1万人のひとびとがいたオローニも、そのくらしもろとも消え去ってしまった。そして

科学技術的には確かに進んではいるが、多くの面において環境的にも社会的にも

精神的にも遅れた文明に取って代わられてしまったのだ。オローニについて調査、

執筆するのにほぼ3年を費やした。可能な限り深く彼らの生活について考え、ヨー

ロッパ人の手に落ちたその運命に思いをはせた。ほんのついこのあいだまで、今

私の住んでいるまさにこの土地で狩りをし、魚を捕り、草の種を集めていたひとびと、

私が毎日仕事へ行く途中に通り過ぎるこの木からドングリの実を集めていたひとびと

について考え、夜は夢にまで見た。その3年間の研究の末、私が感じたのはこのひ

とたちとその悲劇に対するいいようのない悲しみだった。悲しみについては説明する

までもないが、希望と喜びについては少し説明する必要があるだろう。この本の調査

を始めた頃、オローニがどんなひとたちかまったくわかっていなかった。単純で稚拙

な文化を持つ石器時代のひとたちを思い描いていた。それは衣をまとわず、小屋に

住み、せいぜいドングリを加工し、草で籠を編み、石を削って矢尻を作るといった程度

の技術で生き延びているひとびとだった。しかし、調査が進むうちにオローニが想像

以上の素晴らしい高い技術と、そしてそれ以上の何かを持っていることがわかって

きた。彼らの生活は知れば知るほどその文化の複雑さ、緻密さ、そして生活全体に

染み渡っている知恵に驚かされた。オローニがあらゆる点で理想的などと言うつもり

はない。オローニの世界には私たち現代人が受け入れることができない点も多い。

しかし、彼らは全体的にはじつに人間的で情の深い生活を達成していた。そして、

そんな生き方のために何世紀にもわたり、殺し合うことも、自然環境を破壊すること

もなく生きつづけることができたのだった。石器時代のひとびとにそのような思いも

けない知恵、美意識、そして高い精神性を発見したことはまさに目の覚めるような

思いだった。そのような生活様式が人間の可能性の一部であり、人間の歴史の一

部であったことを知って私は勝利にも似た喜びを味わったのだ。さらにオローニの

研究を続けていくうちに、その生活のある面が不思議と馴染み深いものであること

にさらに驚いた。自然環境と(搾取する関係ではなく)バランスのよい関係を保ち、

競争ではなく分かち合うということに基本を置いた経済構造。家族や共同体を大切

にし中庸と抑制をよしとする社会。広く芸術的な創造性を発揮する機会。抑圧せず

ひとのためにある統治。精神世界に対する深い理解。これこそまさに、今、私たち

の多くが私たち自身の文化の中で達成しようと必死で努力していることではない

か。皮肉なことにそのような理想が実現するのを心待ちにして、はっきりと見えない

未来にばかり目を向けているうちに、そのような世界があまり遠くない過去に、オロー

ニばかりでなく世界中の石器時代のひとびとによって達成されていたことが見えなく

なるのだ。けっして私たちがオローニのようになることを提案しているわけではない。

彼らの生活の仕方はあの時代、あの場所、あの環境において適切だったのであっ

て、そっくりそのまま再現できるものではない。エルクやレイヨウの群れが広大な葦

の沼地のはずれで草を食む姿が二度と見られないのと同様に。オローニが私たち

に残してくれたのは理想社会の実用的な手本ではなく、今まで軽視していた石器

時代のひとびとが実際に素晴らしい美と知恵の生活を維持してきたという認識なの

である。こう考えると不思議と豊かな気持ちになる。まるでほとんど知らない遠い親

類から大いなる遺産を相続したかのような、その遺産はもちろん物とか宝とかいう

ものではない。オローニはそんな物はほとんど持ち合わせていなかったのだ。そう

ではなく私たちが皆このような素晴らしい知恵と徳を持ち、環境に順応し、満足の

いく成功した生活を作り出したひとびとと同種の人間だということを知ったときの豊

かさなのである。

(本書 あとがき より引用)



目次

はじめに


1章 オローニとその環境

土地と生きものたち

村の一日

狩りの流儀

鹿を狩る人

水を跳ね上げて

ドングリの収穫

種の実る草原

歩きまわるくらし

安住の仕組み


2章 村社会

誕生と子供時代

結婚

分かち合って暮らす

交易

村の長

戦争


3章 スピリットの世界

籠を編む

シャーマン

聖なる時

死者の島

ダンスの意味


4章 1776年から現代へ

最後の2世紀


あとがき

日本語版ができるまで・・・・ななお さかき

参考文献

索引







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