「パスキ・ナナ ナゾをといた少女」

ケネス・トーマスマ著

浜野安宏・監修 おびかゆうこ・訳 出窓社より引用










いつも失敗ばかりし、ふさぎこんでいる8歳のクーテナイ族の少女パスキ・ナナ。この少女は

自分を変えるため、守護精霊を探しに一人で村を出る決意をする。しかし、その旅の途上、

村を裏切る男の現場を目撃したために殺されかける。知恵と勇気をもってこの危機を乗り

乗り越えていくこの少女の物語は、1780年代の歴史的事実を織りこんだ創作だが、息を

抜かせないその語り口にはひきずりこまれてしまうだろう。1993年度ワイオミング州児童

文学賞シリーズの第三作目。

(K.K)







パスキと動物たちとの不思議な出会いは、張りつめた逃亡劇のなかでも、ほっとする場面

です。ハクチョウの愛情と、カワウソの知恵、どちらも少女にとって大切な宝物となりました。

こうした知恵と愛情は、クーテナイ族が代々敬い、大切に伝えてきたものです。クワイエット・

ワンは、パスキにこんな言葉をのこしてこの世を去りました。「わしらの愛を、その胸にしっ

かり受けとめるんだよ。そして、いつかその愛を、おまえの子どもたちに分け与えてやって

おくれ」 こんなふうに愛することを伝えてこの世を去ることができたら、またその愛を受け

継ぐことができたら、どんなにすばらしいでしょう。新しい世代に何をのこし、どんなことを

伝えていくか。人間にとってかけがえのないものは何なのか。クワイエット・ワンの言葉は、

パスキだけでなく、この物語を読む人それぞれの胸に深くきざまれることと思います。人情

にあつく、困っている人がいたら必ず手をさしのべるクーテナイ族の人びとは、とても魅力

的です。カット・イヤーズの言葉を信じて村に迎え入れたのも、クーテナイ族ならではの人

のよさでしょう。著者のトーマスマさんによると、クーテナイの人びとは、今もそんな部族の

性質をまったく失っていないとのこと。少しはにかみながら微笑むパスキのような女の子も

きっといるにちがいありません。自分が他の子より劣っていると思いこんでいる子どもたち

を、パスキの物語はこれからもずっと励ましつづけることでしょう。(訳者あとがきより)







クーテナイ族の少女は、いつの日かかならずひとりきりで山へこもらなければならなかった。

自分の居場所を見つけ、何日間もたったひとりで過ごすのだ。そこでは、食べることも、飲む

ことも、眠ることもゆるされない。そして、少女は幻想世界にいざなわれ、そこで自分の守護

精霊に出会うのだ。精霊は、たいてい動物の姿をしてあらわれ、少女たちに何か必ず素晴ら

しいことを教えてくれるのだった。トゥー・バーズの言葉が、パスキの頭の中でこだました。

「・・・・おまえもそろそろ村を出て、自分の守護精霊をさがしにいく時期かもしれない・・・・

そろそろ村を出て、村を出て、・・・・」 <うん、わたし村を出る! きっと守護精霊を見つけ

てみせるわ! 自分の人生を変えるときが来たんだわ。わたしを生んでくれた母さん、わた

しを最期まで愛してくれて、ありがとう。おばあちゃん、いつもやさしい言葉をかけてくれて、

ありがとう。それから、わたしを育ててくれたトゥー・バーズ母さん、ほんとうにありがとう。

守護精霊をさがしに行くようにと教えてくれたこと、心から感謝します!> パスキは、そう

声に出して叫びたかった。気持ちが高ぶり、体がふるえた。今日が運命の日、旅立ちの日

なのだ! 午前中はずっと、いつもどおりに忙しく働いた。昼ご飯のしたくも手伝った。パスキ

は今やらなければならない仕事に、なんとか気持ちを集中させようとした。しかし、なかなか

うまくできなかった。どうしても村を出ることばかり考えてしまうのだ。「今日出発することを、

おばあちゃんに伝えておこう」 とパスキはひとりつぶやいた。「村を出て、何日間も帰らな

いんだもの。きっと何かためになる話しをしてくれるわ。わたし、守護精霊を見つけて、自分

を変えたいの! 新しい人生をふみだしたいの!」 パスキがこんな思いにとらわれている

ころ、もうひとり別の人間が、まったく別の理由で、村を出ていく計画をたてていた。パスキと

この男は、おたがい一番会いたくない場所で出くわすことになる。少女にとって、それは信じ

られないほどの恐怖の引き金となるだろう。もちろん、そのことをパスキはまだ知らなかった。





訳者あとがき より抜粋引用

なにをやってもうまくいかずに、失敗ばかりしてしまう女の子、パスキ・ナナ。「悲しみ

がりや」の自分の気持ちをもてあまし、まわりの人からどんどん離れていく内気な少女

は、部族のなかの「落ちこぼれ」でした。周囲にうまく溶け込めない居心地の悪さは、

だれでも経験があるはずです。おそいくる試練をのりこえ、だんだんと成長していく

パスキの姿は胸をしめつけられるほどいじらしく、いつかの自分がそこにいるようでも

あり、応援しないではいられません。


パスキが暮らしていたクーテナイ族の村では、男の子と女の子と役割がきっちり区別

されていました。狩りの名手になるために、男の子たちは幼いころから遊びのなかで

弓矢の腕をみがきます。しかし、女の子は、そんな遊びの武器にさえ手をふれることが

ゆるされませんでした。パスキは、弟に正しい弓の持ち方を教えてあげたい一心で、

この掟をやぶっていまいます。やってはいけないと知っていたはずなのに、なぜパスキ

はこんな軽はずみなことをしたのでしょう。魚をひとりでゆでようとしたときも、母親のい

いつけを守るより、母親をよろこばせたいという自分の気持ちのほうが先にたっていま

した。よく考えず感性で行動してしまうパスキのような子は、規則やまわりの期待に

自分を合わせるのがむずかしいのかもしれません。


女の子だけが守護精霊をもとめて山にこもるというのも、とても興味深い風習です。なか

には山で死んでしまう子もいたことでしょう。そのぶん、強く、たくましくなって帰ってきた

女の子は、部族の繁栄にかかせない立派な女性とみなされたのだと思います。そして、

クワイエット・ワンのように、強い霊力をもつ特別な女性を見いだすためにも、この風習

は部族にとって、とても重要だったにちがいありません。パスキは強力な守護精霊にみ

ちびかれ、数々の試練をのりこえます。失敗ばかりしていた少女は、実は人並外れた

霊力の持ち主でした。ケガをした少年を助け、姉の身を案じるパスキに、かつての「悲

しがりや」の面影はありません。守護精霊をさがしあてたことで、少女は他の人のこと

までも自然に思いやれるようになったのです。


パスキと動物たちとの不思議な出会いは、張りつめた逃亡劇のなかでも、ほっとする

場面です。ハクチョウの愛情と、カワウソの知恵、どちらも少女にとって大切な宝物と

なりました。こうした知恵と愛情は、クーテナイ族が代々敬い、大切に伝えてきたもの

です。クワイエット・ワンは、パスキにこんな言葉をのこしてこの世を去りました。「わし

らの愛を、その胸にしっかり受けとめるんだよ。そして、いつかその愛を、おまえの子

どもたちに分け与えてやっておくれ」



目次

はじめに


1 悲しがりやの少女

2 大失敗

3 あやしい馬

4 裏切り者

5 傷の痛み

6 守護精霊の力

7 ハクチョウの愛情

8 カワウソの知恵

9 ケガをした少年

10 しのびよる魔の手

11 最後の賭け

12 クワイエット・ワンの魂


訳者あとがき

モンタナとロッキーの自然・・・・浜野安宏







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