「パウワウ」

アメリカン・インディアンの世界

 写真・文 菊地東太 新潮社 より引用









アメリカ先住民のパウワウ、住居、食、ヒーリング、自然と人間について豊富な写真を

織り交ぜながら紹介している文献である。著者は27年にもわたってアメリカ先住民に

ついて取材し、特にナバホのトレーシー一家との深い交流により彼らの日常的な生活

の場面をも記録している興味深い文献である。

(K.K)








ナバホのメディスンマンが病気の治療にあたるときには薬草を使う。日本や中国で使われている

漢方薬のようなものだ、ということは前に書いた。まじないのチャントの後に薬草が投与される。風邪

をひとミルトンに与えたナバホの薬草汁を飲んでみたら苦かった。解熱剤なのかもしれない。実際に

ミルトンの風邪は治ってしまったのだから、なんらかの効果があったのはまちがいない。ミルトン夫婦

とその娘と一緒にグランド・キャニオン国立公園に行ったことがある。家から車で四時間たらずの距

離だ。観光に行ったわけではない。薬草の採集が目的だ。グランド・キャニオンのそばにはいい薬草

があるというので、出かけて行ったのだ。途中、川にかかった橋を渡るとき、ミルトンは車の窓を開け

チャントを唱えながらトウモロコシの花粉を撒いて、旅の無事を祈っていた。国立公園のゲートの手前

で舗装していない道路にはいり、言われるままに車を停めた。布袋を持ってミルトンはスタスタ歩き出

した。前にも来たことがあるような歩きかただった。足をとめしゃがみ込むと、ポケットから小さな革袋

を取り出し、トウモロコシの花粉をひと摘みばらまいた。お清めの儀式だ。まじないの言葉を唱えてい

る。そして小さな草を大切そうに地面から引き抜き、布袋に入れている。二本目は少し離れたところ

から。そうやって薬草を五・六本採集した。1か所から何本もとったりはしない。しかもほんの少しだ

け。同じ薬草は沢山生えていたのに。また車で移動し別の種類の薬草を同じような方法で少しだけ

採取した。こんな作業を一時間ほど続けて、薬草の採集は終わった。ほかのメディスンマンも同じよ

うなやり方で採集をしている。自分で必要なぶんをとるだけで、大量に持って帰って商売をしたりは

しないそうだ。この薬草採集小旅行ではいやな体験をした。グランド・キャニオンはアメリカの代表的

な国立公園の一つだ。だから観光客も非常に多い。ここへ来て生まれて初めて本物のインディアン

を目にする人も沢山いる。ビューポントに車を停め、四人で夕日に輝くキャニオンを眺めていた。ミル

トンの妻、ルーシーは赤いベルベットのブラウスにサテンのスカート、銀とトルコ石のアクセサリーを

いっぱい身につけている。ミルトンも娘もブレスレットやネックレスをつけている。彼らが町に出かけ

るときの格好だ。オレたちの後ろでガヤガヤと騒ぐ声が聞こえた。「あっ、見てよ。インディアンがい

る」という声も聞こえた。そのとき背後でフラッシュが光るのを感じた。アメリカは肖像権という意識が、

日本とはケタ違いに発達した国だ。人の写真を撮るときには相手の承諾を得なければならない。今ま

でオレはそのことに気をつかってきたつもりだった。そんな気持ちを思い切りぶちのめされた思いが

した。カッとして、抗議をしようと振り向こうとしたとき、ルーシーに強い力で肩をつかまれ、ひきとめら

れた。「よしなさい。いつも白人はああなんだから。怒ったってまたその顔を撮られるのがオチよ。あの

人たちはインディアンが動物園の野獣のように珍しいんだから。それよりごらん。あの美しい夕日を」 

そのあと、何もなかったかのような顔で帰途についた。

(本書より引用)







キュアリング・セレモニーでナバホのメディスンマンが唱えるチャントには数多くの種類がある。

その中には創生の神話の一部が含まれていることが多い。ナバホの創生の神話の一部を紹介

する。「人類最初の男と女はトウモロコシから創造された。彼らが太陽と月と星をつくりだし、世

の中に光というものを与えた。人類最初の男と女が、不思議な光で照らしだされたゆりかごの中

の女の赤ん坊をみつけ、それを育てた。その子はあっという間に大きくなり、四季や自然の摂理

をとりきしるチェンジング・ウーマンになった。またの名をターコイズ・ウーマンともいう。彼女が岩

山の上で昼寝をしているとき、暖かい太陽に照らされて身篭もり、双子の男の子を産んだ。この

双子は大きくなると、世の中の邪悪の化身を退治にでかけ、ことごとくやっつけて帰ってきた。ただ

四つの邪悪の化身、つまり、年をとらせる女、貧乏神、飢えた男、冷やす女を退治しそこなった。

だから、現世には老い、貧困、飢え、寒さという四つの苦悩が存在する。この双子の母親、ナバホ

の始祖といえるチェンジング・ウーマンは後に太陽に求婚された。チェンジング・ウーマンは相手と

自分の平等と調和を条件にだした。太陽はその条件を承諾し、話はまとまった。それ以降、太陽

が西の海の彼方のトルコ石造りの家へはいると夜がくるようになった」 神話というものは、自分

たちをとりまく自然環境や伝統文化と自分たちの考え方や根本原理をリンクさせながら、超自然

な神や英雄を登場させ説いた話といえる。なぜ、この神話の中で四つの邪悪の化身を退治しなか

ったのか。退治しておいたほうが、人々は快適な日々を送ることができたのではないか。ナバホ

の考えでは老い、貧困、飢え、寒さといった苦悩は人間をより大きく、強く、思慮深くするために

必要な要素だというのだ。ナバホの父は太陽だ。母であるチェンジング・ウーマンとは一体何者

なのか。四季や自然の摂理をとりしきるということは、森羅万象、自然界のすべて、もしくは地球

そのものということになる。いいかえれば万物の母なる大地、マザーアースだ。父なる太陽と母な

る大地。自然界と心身の調和がとれていれば、病気になったり災いにもあわずにすむというのが

ナバホの根源的な考えだ、とこの神話は語っている。求婚された女、チェンジング・ウーマンが男

である太陽に対して、互角に自分の要求を述べ、男と女の平等を認めさせるあたりも、ナバホの

社会的な哲学というものが表されている。ちなみにナバホは本来、母系社会だ。誰かが病気に

なる。それは自然界とのバランスがくずれたからだ。そこでメディスンマンが神話にもとづいた

チャントを唱え、偉大なる精霊に相談し、自然界から採集したハーブ、薬草を患者に投与する。

そうすることによって、自然界とのバランスをとりもどした患者は病気が治癒する。

(本書より引用)



目次

前書き

第一章 パウワウ

パウワウ

パウワウの衣装

イーグルの羽

ジングルドレス

ナバホのファッション


第二章 住居

ホーガンはナバホの伝統的な家

アパート式の住居、プエブロ

円錐形のテント、ティピー

木の枝で造った住居、ウィキアップ

高床式の家、チッキー


第三章 食

ナバホとトウモロコシ

現代の主食、フライブレッド

ナバホは羊を飼う遊牧民

スイカとメロン


第四章 ヒーリング

メディスンマン

ナバホの薬草

キュアリング・セレモニー

スウェット・ハウス

サンド・ペインティング

ナバホの神話

絵馬と般若心経


第五章 自然と人間

海抜千八百メートルの高地

デザートとバッドランド

雨が降ると大地の匂いがする


第六章 トレーシー一家との二十七年

出会い

最初の一週間

一年後の再会

グアンマ

グランパ

久しぶりの訪問

夜中の電話

墓参り


トレーシー家 家系図

参考文献







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