「インディアンの愛」
メディスン・ストーリー著 大坪奈保美訳 地湧社
インディアンに伝わる伝説・英知を交ぜながら、著者の個人的体験の言葉・ 「愛」・が優しく心に響く。「愛とは、美と同じ霊源から湧いてくる感情」で在る と共に「愛とは聖なる輪の意味である」、そしてこれらの教えは「自然を見つ めれば、誰にでもわかる」ことと断言しています。著者はナブスコセット族の メディスンマン・ストーリーテラーとして世界中でセミナー活動を行い、無報酬 で刑務所を回りつづけています。 (K.K)
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訳者あとがき より引用
1992年の3月、誕生日のプレゼントとしてアメリカの友人から「インディアンの愛」 の原本が送られてきました。絵と詩と伝説、部族に伝わる英知、そして作家の個人 的体験としての物語といったおもしろさもさることながら、「さよなら」のかわりに「ウー ニッシュ(美を生きてください)」という人々がいることに、まず何よりも感動を覚えま した。私の「奈保美」という名に、「美を保って生きるように」という両親の願いが込 められているせいもあり、改めて美という言葉の意味について考えさせられました。
「愛は、美と同じ霊源から湧いてくる感情」であり、また、「愛とは聖なる輪の意味で あり、人間と天地一切のものをつなげているもの」であると、メディスン・ストーリー は言っています。男女間のロマンティックな幻想や宗教の教祖や政治的指導者の 個人的な英雄行為だけが、愛といってもてはやされる今日ですが、この本にある愛 はそういったものではありません。親から子への愛、同性同士の姉妹愛や兄弟愛、 子から親への愛、老人への尊敬を通して得られるコミュニケーションへの愛、リーダ ーシップを自分で引き受けることで見えてくる天地万物への愛と自分自身への愛と いう、みんなの中にある日常的なものです。また、メディスン・ストーリーは、聖なる 教えについても、「自然を見つめれば、だれにでもわかる」と言っています。読者の みなさんは、苦行や聖典、理論とは無縁なこれらの愛の実在を知り、かつ愛を公の 目標としていた社会が昔にあったという事実を知って、心がホーッとしたのではない でしょうか。平凡すぎて愛と認めることをためらっていた愛、競争社会で生きていく ために殺してきた心の中の美しい感情である愛が読者のみなさんに戻ってくること を心から願っています。
私には二歳の子供をもつ姉がいますが、姉も、メディスン・ストーリーのように、自分 の子供が人々の愛に包まれ、だれもが信頼され尊敬されるような世界、くだらない ゴシップによって傷つかずに無限に才能をのばしていけるような世界で生きていくこ とを願っています。子供たちの無邪気な寝顔や笑顔をみている親たちは、みなそう 思っているのではないでしょうか。この本に書かれているワンパノーアグ族の実践 的な子育てや生き方が、親の立場に現在いる人々や、また私のようにやがて子を 生み、命を育てる立場になる人々に役立ってくれればと思います。
1992年9月、私はメディスン・ストーリーとスロー・タートルに会いにボストンとニュー ハンプシャーへ行きました。十年の間、無報酬で四ヶ所の刑務所を週一回ずつまわり つづけているふたりですが、重々しい長老というよりも、子供の部分をたくさんもった ユーモアあふれる人たちでした。いっしょに話をしている最中に庭の水飲み場に鳥が きた時、「この鳥を、まだ子供たちは見たことがないんだ」と言った彼の言葉が、今で も印象に残っています。ふたりにインディアンの予言について聞くと、「予言そのもの よりも、今、自分が何をするかが大切なんだ」という同じ答えが、微笑みといっしょに 返ってきました。
インディアンの伝統と現代文明の両方を生き、黙々と刑務所をまわっているふたりは、 部族の伝統に生きる人々というよりも、未来と過去の間の橋渡し的存在のように思い ます。本文でメディスン・ストーリーが言及しているように、部族の英知を活かしつつ も、部族、民族、国を越えた普遍的な人間のあり方を具現化することをめざしているの でしょう。編集にあたって内容が重複している部分などを省き、この翻訳本は原本の コンパクト版となりました。メディスン・ストーリーは、難しい言葉を使うことなく、ただ 物語を使って読者を誘導しています。おそらく本を読み終えた時、何がどうだという 理論的な回答を得た人は少ないと思います。けれど、彼が体験をして得た英知は非常 に実践的なので、そのひとつひとつが知識を越え、むしろ感覚として読者のみなさんに 戻ってきたのではないでしょうか。
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目次 はじめに
第一章 魔法の羽根 第二章 スエットロッジ 第三章 天地万物への回帰 第四章 オリジナル・インストラクション 第五章 聖なる輪 第六章 愛の社会 第七章 美の道 第八章 目覚めて、生きる 第九章 インディアンの子育て 第十章 長老たちへの敬意 第十一章 天地万物の娘たち 第十二章 大地と空の息子たち 第十三章 インディアンの夢 おわりに
用語集 地図 訳者あとがき
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