「アメリカ南西部物語 こころの鼓動が聞こえる場所で」

高橋純著 海象社 より引用











本書 はじめに より抜粋引用


南西部の魅力としてもう一つ語らなければならないのは、大地のそうした吸引力とともに、

ここに住み続けてきた人々・・・・先住民族のことである。南西部には、ホピ、ズニ、アコマ、

タオスなど19のプエブロインディアン、トホノ・オォトハム、ウテ、パイウテ、アパッチ、そして

ナバホなどのリザベーション(居留地)があり、ナバホのそれは、2万5000平方マイルの

広さを持ち、他の部族の居留地とともに、インディアンカントリーともいうべき地域をかたち

づくっている。かれらの様々な文化が、南西部に独特の「場の気配」「場の雰囲気」を生み

出しているのは想像に難くない。その磁力に引かれるのである。


文化とは、具体的には、土器であったり、ジュエリー、アクセサリーなどの装身具であったり、

ラグやバスケットであったり、また、人形、呪物、さらには家、建物、祭りや踊り、そして神話

や物語であったりするのだが、じつは、独特の場の雰囲気を生み出しているもっとも本質的な

ものは、それらのすべての文化に内在する、目には見えないかれらの世界観、宇宙観、思考

の体系なのだろうと思う。自然をコントロールし、支配し、開発する、旧来の西洋的思考とは

まったく異なる、自然との共生思想、それに基づいた生活と行動の規範。それは、何千、何万

年という歳月、この風土の中で育まれてきたものだ。その思考の体系が、文化の中に写し込

まれている。


近代の、合理主義の、開発・進歩一辺倒の考え方、行ないが、いたるところでさまざまな不具合

を起こしている中で、遅れているとか、野蛮だとか、神話的とか、超自然的とかいわれてきたイン

ディアンの思考体系に、今あたたかい視線が注がれるようになってきている。野蛮とははたして

どういうことなのか、超自然的なのはむしろ近代の価値観のほうではないか、といった問いが生

まれるようになってきている。そしてその問いは、社会環境、教育環境、そして自然環境を考える

うえでの設問となってくるのだ。いわば、インディアンの思考体系が、近代の志向の体系を見直

す鏡ともなっている。ぼくの南西部の旅のもう一つのテーマは、この思考体系を知ることである。

その知恵の学びの場が南西部だ。とはいえ、単に知識としてならば、書物やテレビ番組で十分

である。そうではなくて、その知恵の本質を感じ、できれば自分もそうした知恵を授かり、知恵の

ある暮らしをしたい、というかすかな希望もあるのだ。


でも、それだけならば、これほど足しげく南西部に通うことはなかったかもしれない。さらにもう

一つ、二つわけがある。一つは、ヒスパニックの文化である。南西部の自然、インディアンの思考

体系とその文化の上に折り重なり、混じり合った文化。南西部は、コロンブス以来、長い間スペ

インの辺境であった。その後、メキシコ、そしてアメリカ合衆国の一部になってきたのだが、ラテン

の文化は、まるでかれらの好むチリソース、サルサソースのように、この大地、先住民の文化を

味つける。その意味では、そらにその後、大陸横断鉄道やルート66でやってきたアングロ文化。

いわゆる「西部」の、アメリカンな、ポップな文化は、南西部をさらに美しく見せるトッピングだ。

鉱山開発、ゴーストタウン、観光、西部劇、療養、リゾート、ニューエイジ、ヒッピー、自己の探求

者。そんなさまざまなトッピングが150年近くふりかけられてきたのが南西部だ。この、南西部

独特の文化の混じりあい、混沌ともいえる混じりあいを、ぼくはとても好きだ。それは、南西部の

めくるめく光と色に似ている。


ぼくは、キャニオンの地層のように織りなされた、あるいはキャニオンに吹きたまった、多色の

砂のような南西部の文化を、疾走する車の中で、台地の上で、キャニオンの底で、モーテルの

一室で、居留地で、サボテンの林の中で、石の渦の中で、踊りの輪の中で、感じるのだ。南西

部の知恵を、光と風の中で、土と石の上で、風のあとで、虹のもとで、コットンウッドの木陰で、

学ぶのだ。ある人がいった、南西部はぼくの「癒しの場」なのかどうかということには確信がも

てないでいる。が、少なくとも南西部はそう感じている人が数多くいることは、確かな事実であ

る。南西部とは「自己を探すために訪れる場所」といったのは、誰だったか。すくなくとも南西部

は、ぼくの居留地にふさわしい。





目次


はじめに・・・・南西部という場所


Part1 土と石と、光と風と、ときどき豪雨

Part2 ゆっくり歩く氏族

Part3 南西部的生活

Part4 旅のスケッチ

(南西部の旅人 ぼくはあの夏のユタで穴に落ちた ぼくがチキンを捨てた場所

バニーナですか、バニャーニャですか、それとも 「エル・ランチョ」の夜は更けて

ぼくはコヨーテをまだ見ていない プエブロ・イズ・クローズド ボーダーパトロール

道に迷ったら 南西部の音楽 カジノで食事)

Part5 こころの鼓動が聞こえる場所で

Part6 思索と癒しの荒野

Part7 「南西部の旅人」初心者講座[車・宿・水]


恋する南西部(あとがきにかえて)







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