「この大地、わが大地」

アメリカ・インディアンの抵抗史

J・コスター著 清水和久訳 三一書房 1977年発行 より引用









本書 まえがき ジョン・コスター より引用


この本は、三一書房を通じて日本のみなさんすべてに読んでもらいたいためにとくに書き下ろしたものである。

この本を通じて、ヨーロッパの植民地主義者を歓迎するという
愚挙を犯してしまったインディアンの悲劇的な

運命を日本のみなさんにお伝えする、こ
れが私の願いである。



ヨーロッパ人による北米インディアン征服の歴史を知ることは、
日本人のみなさんにとってとても大切なことと私

には思えるのだ。なぜなら、日本人は
インディアンと同じような運命にさらされることから辛うじて逃れたという

歴史をもって
いるからである。1614年、徳川家康はスペイン、ポルトガルの宣教師、貿易商人に日本の門戸を

閉じた。この鎖国の決定に影響を与えた要因として、高度に発達した
文明をもつインカ帝国をヨーロッパ人が

破壊したことを家康が知っていたという事実が
ある。彼にこのことを教えたのはイギリスのあるプロテスタントで、

スペインやポルト
ガルのカトリックの影響力を妬んでのことだろうが、宣教師のあとには必ず軍隊がくる、イン

ディアンの支配者は殺され、住民は奴隷にさせられ、病気で滅んでいった
というヨーロッパ人の征服の様子を

家康に語ったのだった。中南米のインディオの
運命から教訓を学びとった日本人は、同じ運命をたどることを

辛うじて避け、独立を
保つことができたのである。



北米のインディアンは、1614年当時はまだヨーロッパ
人の手から自由だった。しかし不幸なことに、日本人の

ように、門戸を閉じることが
できなかった。日本が鎖国をしていた2世紀半の間に、誇りたかい主権国家群から

成る北米インディアンの人口は、100万ないし300万から、25万に減った。そして、彼らの土地を奪い、資源を

掠めとり、命さえ容赦なく奪いとった白人征服者のお慈悲
にすがる哀れな貧民の境遇に落ちこんだ。この悲劇に

耐えぬいたインディアンは、
がんばりぬき、人口も増え、いまでは100万近くに盛り返している。



現代のインディ
アンはいまでも米国政府との闘争を強いられている。彼らに残された僅かなものを守り、自分の

生活を自分の力で営み、固有の文化と宗教を守り、再興するために
心身を砕いている。1973年のサウス・

ダコタ州ウンデッド・ニー占拠の闘争のよう
に、最近いくつもの事件が世界中に報じられたが、こうした事件は

彼ら現代インディ
アンの闘争の一部にすぎない。



現代のインディアンは、白人をアメリカの地から追い
だすことができるなどとはもう思っていないし、追いだす気

もない。彼らの願いは、
人種や宗教を異にするすべての人びととの平和的共存であり、他の人びとに示しつづ

けた尊敬の念と同じものを、自分自身のために確保することである。この願い
を実現するためには、米国人だ

けでなく、世界中の人びとの関心をひきつけること
が不可欠である。



この本を通じて、日本のみなさんにアメリカ・インディアンの真の
歴史を知っていただきたい。そうしていただけれ

ば、最初のアメリカ人が彼らにふ
さわしい尊敬と助力を手に入れる事業に、私にもなにがしかの手助けができる。

これが私の願いである。インディアンの有力な部族であるスーの宗教に、次のような儀式がある。祈り手は聖なる

パイプをもって祈る。インディアンにとって、この
パイプは天と地の結びつき、自然の世界と超自然の世界との

結びつきを象徴して
いる。このパイプが私にまわされ、私の日本人の妻に渡された。渡してくれたのは、インディ

アンの尊厳と幸福のために熱心に活動してきたスー族の聖職者レナード・
クロー・ドッグ氏である。本書を仲立ち

に、日本のみなさんへ、このパイプをお渡し
するというのが、私の切なる願いである。


 


本書 訳者あとがき より引用


この本の原著は、米国のジャーナリスト、ジョン・コスター氏が日本人の読者のために

書いた約800枚のタイプ原稿である。(中略) この本の前半が、過去の調査や研究に

多くを負っていることはあきらかだが、事実の提出の仕方や捉え方、組み合わせ方に

は独特のものがある。そして、いうまでもなく、圧巻は後半である。いわさか冗漫で未

整理な記述もあるとはいえ、コスター氏が1960年代後半以降のインディアンの抵抗

運動に共感しつつ、自分の目、耳、足で現場で取材し、抵抗者と交流した他に得難い

記録がここにある。1970年代に入って、日本の読者にも、ディー・ブラウン「我が魂を

聖地に埋めよ」(鈴木主税訳 草思社)、藤永茂「アメリカ・インディアン悲史」などをは

じめとして、いくつかのすぐれた書物が手に入るようになったが、最近10年間のイン

ディアンのたたかいをこれほど詳しくまとめあげた本は、当の米国にも見当たらないの

ではなかろうか。前に記したように、コスター氏には、この本にもしきりに登場するロバ

ート・バーネット氏との共著「ウンデッド・ニーへの道」があるが、氏は過去6年間、イン

ディアンの抵抗運動に強い関心をもって報道してきたジャーナリストで、氏の書く記事

は北米新聞連盟のシンジケートを通じて、米国やカナダの読者の手に渡っている。

訳者は「ニューズウィーク」誌や、インディアン自身の新聞「アクウェサスニー・ノーツ」

紙などで、氏の文章を読んだこともある。「ウンデッド・ニーへの道」は74年6月の発売

から一年間に10万部以上売れ、著者は、「シグマ・デルタ・カイ賞」を受けた。「報道

部門における公衆への貢献顕著」が受賞理由だったという。


 


目次

まえがき


T 先住アメリカ人

インディアンの起源

森林インディアンの特徴

五大湖周辺のインディアン

川のほとりのインディアン

馬の導入・女の役割・祭儀

山岳インディアンの生活

ナヴァホとアパッチの侵入

白人支配の序曲


U 300年戦争

土地を奪う白人

戦いの火ぶたが切られる

イロコイ部族連合の統合と分裂

フロンティアの残酷さ

傑出した指導者・テクムシ

西へと追われるインディアン

ブラック・ホーク戦争の結果

ゴールド・ラッシュとカリフォルニアの惨状

天然痘の恐怖

平原インディアンの最後の戦争

カスターの“栄光”と死

クレージー・ホースとシティング・ブル

ネズ・パース族の悲劇

ナヴァホとアパッチの抵抗


V 民族解体

指定居住地の起源

インディアン局(BIA)の設立

混血インディアン、パーカーの役割

条約無視と主権の侵害

指定居住地からも追放される

モドックの抵抗

インディアン事務所の権力者たち

カーライル・インディアン学校

ハンクパパ・スーの分散と集結

土地追い出しのための小農化政策

スポッテド・テールの死の反響

宣教師ヒンマンの策略

野牛絶滅と飢え

シティング・ブルの巡演旅行

マクローリンの策謀

牧畜業者の横暴から「ドーズ法」へ

グレート・スー居住地の解体

白人に好意的な部族の「死の冬」

白人の不安と焦燥

ラップス・アップ・ヒズ・テールの啓示

インディアンの牛殺し

「ゴースト・ダンス」と信仰

シティング・ブルの悲劇的な死

ウンデッド・ニーの大虐殺

スー戦争の終結

文明五部族の「共和制」

南北戦争の犠牲者

部族の再建

文明五部族の自治の破壊

絶望と鎮魂

強制的同化政策

「友好」と「敵対」のホピ族

白人用に保存されるインディアン文化

インディアンのスポーツマン

化石としてのインディアン

挑発と自衛

第一次世界大戦での愛国心

「忠誠」への報酬

詐欺師の横行

油田の発見と土地泥棒

BIAの破壊策動


W 改革・反動・反乱

大恐慌と改革の声

コリアー長官の「ニューディール」

第二次世界大戦と愛国心

日系人に対する迫害

マイアーの「終結政策」

保守化の背景

保守主義者の横行

都市へ追いやられるインディアン

部族の進歩派と保守派

居住地内での自治権を完全に剥奪

ダム建設で追われる部族

魚場を奪われる北部パイウート

北西部の漁業部族に対する迫害

白人に同化する組織の歴史

不幸な人びとの中で芽ばえる組織

AIMの結成

ラッセル・ミーンズの登場

雄弁、そして大胆な行動

アルカトラス島占拠

占拠闘争はつづく

抗議運動の連続的な展開

BIA本局の占拠計画

オナンダガの闘争

ミーンズへの毀誉褒貶

イエロー・サンダーの死

ミーンズの遍歴

バーネットと「破られた条約の旅」

占拠をめぐる分裂

「旅」への反応

パイン・リッジ居住地の悲惨

悪徳インディアンのウィルソン

カスター市での反乱

ウィルソン弾劾運動

第二次「ウンデッド・ニー」の勃発

協定の成立と裏切り

ウィルソンの「法律と秩序」

裁判と評議会議長選挙

「第二次ウンデッド・ニー」の反響

白人ハンター・釣人の横暴

リベラル派の欺瞞性

悪夢の進行

「おとなしい」インディアンの蜂起

マクドナルドの巧みな指導

終結政策廃止の動き

メノミニー戦士団の修道院占拠

クラマース族の成金と抵抗者

オナンダガ族の実力行使

モホーク族伝統派の移住

裁判とインディアンの主権

西部の白人が抱くミーンズへの憎しみ

ウィルソンの横暴とAIMの活動

一連の逮捕・起訴事件

スパイ潜入・AIM危機

BIAの「解決策」とその結果

ミーンズの重傷

FBIの介入

挽歌を拒む

今日の部族の分布と生活

貧困と健康状態の悪化

教育・文化・宗教の進歩

法的地位の向上をめざして

悲運と絶望の歴史に終止符を!


訳者あとがき








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