「シャーマンへの道」

力と癒しの入門書

マイケル・ハーナー著 吉福伸逸監修 高岡よし子訳 平河出版社より








本書の著者マイケル・ハーマーを中心とする人類学者、一般人からネオ・シャーマニズム

には、大きく分けて二つの特徴がある。一つは古代から現代まで、各地で綿々と受け継

がれてきたシャーマニズムの伝統的形態を現代化 --- もしくは西欧化というべきか ---

し、誰もが体験できる形態に焼き直している点。これはシャーマニズムの民主化とも呼

びうるもので、六〇年代以降、西欧で叫ばれている宗教体験の民主化に呼応するもの

である。こうした民主化の動きは religion (宗教)という言葉の変わりに spirituality (精神

性/霊性)という言葉を使い、制度宗教と一線を画して、個的体験としての宗教性が強調

されていることによく現れている。もう一つは、ハーナーの「シャーマン的意識状態」という

用語からも明らかなように、シャーマンの旅に「意識」という角度からアプローチし、本来、

人類学の研究対象であった領域に心理学的要素を持ち込んでいる点である。

本書・解説 吉福伸逸 より






 
 


訳者あとがき 本書より抜粋引用


それでは、この「ネオ・シャーマニズム」の中心的存在であるマイケル・ハーナー自身

の話に移りたい。ワシントンD・C生まれ。生後まもなく、外国特派員をしていた父と作

家の母に連れられ、コロンビアの首都、ボゴタに移る。したがって、初めて覚えた言葉

はスペイン語である。その後アメリカに戻り、カリフォルニア大学バークレー校の大学

院で人類学の勉強をしていた頃、シャーマニズムの研究をするようになった。そして

アマゾン河上流に住むヒバロ族やコニーボ族のフィールド・ワークを通じて、白人シャ

ーマンの道を歩みはじめる。そしてコロンビア大学やバークレー校において人類学の

教授をつとめることに飽き足らず、1987年に大学を退官し、シャーマニズムの研究機

関を主宰、様々なワークショップを開催すると共に、伝統社会におけるシャーマニズム

の保存や復興に関わっている。


訳者は、監修者吉福と共に1988年10月にアメリカ、サンタローサにて開催された第10回

国際トランスパーソナル会議に参加し、スピーカーとして出席したハーナーにインタヴュー

することができた。彼はとても気さくでユーモアにあふれていたが、何よりも彼のパワフル

な存在感・・・・パーソナル・パワー・・・・が印象に残った。その際、ハーナーが力説してい

たのは、ヨーロッパや東南アジア、日本において、シャーマン霊媒がよく混同されていると

いうことである。両者の違いを端的に説明すると、霊媒は、訪れた霊に憑依されることに

よって、共同体の必要とする情報を得る。たとえば自動書記・イタコの口寄せなどがそうで

ある。これに対し、シャーマンは自ら非日常的リアリティへ旅する。そして霊に憑依される

というよりも、霊の力を利用する。したがって、霊との接触に関わる者がすべてシャーマン

というわけではない。こうした区分のしかたは賛否両論を呼ぶかもしれない。だが、シャー

マニズムの大家、エリアーデも霊媒とシャーマンを区別することを試みた。そしてネオ・シャ

ーマニズムの流れの中では、ハーナーの影響力の大きさもあり、こうした区別が重要なもの

として認識されている。 (中略)


ハーナーのシャーマニズムに対する姿勢は、きわめて柔軟かつ民主的である。前述した

シャーマニック・カウンセリングの背景ともなる考え方として、「精神的権威」を外に求める

のでなく、個個人が直接、自らの歩むべき道すじを知るべきであるというのがある。彼の

言葉を借りれば「ワークショップに来る人は、新しいことに対しオープンな心をもちながら

も、体験を通じて本当に理解するまでは、批判的精神をもつほうが好ましい。最初から

何の疑問もいだかずにシャーマニズムを実践している人がいるとすれば、それは単なる

信奉者にすぎない」。余談ではあるが、ハーナーは文化唯物主義者として名高い人類学

者、マーヴィン・ハリスと親しい。文化的進化を語るのに、唯物主義的なモデルをあてはめ

るハリスとの共通点は常識的には見出しがたい。しかしハーナーは、文化の進化プロセス

という視点に限ればそのモデルはもっとも有効であるとし、複眼的思考から文化にアプロー

チする柔軟性を見せている。


今後、ネオ・シャーマニズムはどのような展開を見せるのであろうか。それは、ドラッグに代わ

る意識変容の手軽な手段として、一時的な流行に終わるのだろうか。宗教人類学者、ジョアン・

タウンゼンドは次のようにいっている。「それはたんなる流行ではなく、従来の宗教に代わって

意味や方向づけを与えてくれる源泉である。社会の価値観を根底からくつがえす可能性をもつ、

重要な動向なのである」。



シャーマン的意識状態において習得すべきこととして、われわれが地球上の動植物、

さらには無機物にまで依存していることを謙虚に認識し、すべての生命形態に深い敬意を

払うということがある。シャーマンは、人間がすべての生命形態とつながっており、ラコタ・

スー族が言うように「みんな親戚」であることを知っている。シャーマン的意識状態と日常

的意識状態の両方において、シャーマンは家族的な配慮と理解をもって他の生命形態に

接する。彼はその歴史、連関性、特別な力を認識する。したがってシャーマンは、大自然、

野生の動植物の本来的な力、無窮の惑星的存在を通じて生存、繁栄する彼らの強い力

に対する尊敬の念をもってシャーマン的意識状態に入る。変性意識の中で尊敬と愛をもっ

て接すれば大自然は日常的意識状態では確かめえぬものをただちに明らかにしてくれる、

と彼は信じている。



シャーマニズムにおいては、結局のところ他人を助けることと自らを助けることの間に

区別はない。他の人を助けることにより、人はより強力になり、自己充足を果たし、

喜びにあふれる。シャーマニズムは、日常的リアリティからの自分だけの超越にとど

まらない。それは人類の役に立つという、より広い目的のための超越なのである。

シャーマニズムにおける光明とは他者が暗闇として認識しているものに光を当てる

ことのできる能力であり、それにより、自らの親族すべて --- このすばらしい大地の

植物や動物 --- との精神的つながりを失いかけている人類のために「見」て、旅を

するのである。最後にジョシー・タマリンの詩を紹介する。シャーマンの道を探求して

いる数少ないが、確実に増えつつある若い世代のひとりである。この詩は、誰も見

つけてくれない道を見つけることができるのはシャーマンの技法であることを思い出

させてくれる。ある霊がシベリアのサモエド族のシャーマンに語ったように、「シャーマ

ニズム」を実践すれば、自分の道は自分で見つけることができる」。・・・本書より



「旅の歌」

ジョシー・タマリンの詩



鷲が青と藍の色彩の中に飛びこんでいく

先の白い羽に黄金の光を受け

風と静寂のリズムに合わせ

気流や暴風と共に歌い、急降下し

ただひとり、遠くを見る者、空の踊り手

太陽の火が蛇のような下界に沈む

そして鷲が赤、藤、琥珀色の光に乗って降りてくる

夜ごと長い夢をつむぐ巣へと


翼の下に頭を休め

眠りに包まれた鷲

原初の親族たちに思いをめぐらす

うろこあるもの、とぐろを巻いたものとの関係を

それらは太陽を罠にかけてのみこむ

その間、失われた世界は闇と夢の中で待つ

そして夢の世界では神と女神が

祈りの脈を打つ

小さな火のそばで踊り

大きな光に向かってドラムを叩く

喪失の叫びから歌をつくる

心の残り火をあおり

色彩を愛でる

作物の緑、トウモロコシの金

鹿と大地の柔らかで豊かな茶

霧と太陽の虹のプリズム

そして奔放な春のアネモネ

秋に燃えつきた死せるレモンの黄色と黄褐色

夏の青白い熱

そして冬の静寂の中心にある白い静けさ


希望が明滅するにつれ

夜の果てしなく暗いトンネルの中で

鷲の夢が動きだし

夢のままに影の羽をもつ鷲の霊を起こす


その霊はみなのために飛びこんでいく

異質の存在の中へと

銀白色と黒色の底知れぬ海

水面下に突っこみ

三日月の鏡像が波に揺れる

海中を降下する螺旋状の旅

そして今こそ必要な鷲の鋭い洞察力

鷲は眼下の潮流を一瞥する

暗い形が集合し、渦を巻く

爆発するような力で

油断のない戦士たる熱狂した蛇たちが

太陽の光を取り巻き、捕らえる

くちばしと爪が曲がる

羽を潮の渦から守る

その力と共に、しかしそれに屈することなく

そして彼らは戦う

心臓は眠りのうちに永遠に停止する

ドラムはリズムを刻まない

羽やとぐろ、銀の毒牙、爪は

みなの夢の死において抱き合う

そしてその瞬間、太陽は開放され

輝きながら漂い始める

海と空が出合うあの薄い皮膜に向かって

はるか下方に凍りついた怒りのイメージを残し

最後に海面を突きぬけて炸裂する

沈黙と色彩のかすかな音と共に

夜明けが光の翼の上で支えられる


命がうごめく

光がみなを覚醒させる

そして鷲が太陽に向かって舞い上がる

目覚めの吐息に乗って


 


目次

序文

第一章 道を見つける


第二章 シャーマンの旅へ

最初の旅


第三章 シャーマニズムと意識の階梯

シャーマン的意識状態


第四章 パワー・アニマル

動物を呼び出す

開始の踊り

動物の踊り


第五章 力を取り戻す旅

パワー・ソング狩り

パワー・アニマルを取り戻す旅に出る

共時性

グループによるスピリット・カヌー


第六章 力の実践

パワー・アニマルに相談する

旅による予知

力を保つ

ビッグ・ドリーム

遠隔地にいる患者の力を取り戻す

骨のゲーム

パワー・オブジェクトと水晶


第七章 有害な力の摘出

植物のヘルパー

侵入した力を取り除く

一つの例

エシー・パリッシュの語る「異物を吸い出す医者」の仕事

タバコの罠

患者になる


結び

補遺A ドラム、ガラガラ、その他の補助用具

補遺B フラットヘッド、インディアンの手のゲーム








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