「癒しのうた マレーシア熱帯雨林にひびく音と身体」
マリナ ローズマン著 山田陽一&井本美穂 共訳 昭和堂 より引用
本書 訳者あとがき より引用
民俗音楽学の観点からすると、本書の特色はつぎのような点にあるといえる。 まず、民俗音楽学と医療人類学を有機的に結びつけていること。音楽は音楽の みで成立しているわけではなく、だからこそ民族音楽学はこれまで、音楽と社 会、音楽と儀礼、音楽と信仰、音楽と感情など、さまざまな音楽的な結びつきの 解明をこころみてきたのである。本書もまた、そうした結びつきの解明を音楽民 族誌的な基盤としている。だが、そうした基盤のうえに立ちながらローズマンは、 音楽と癒しという、テミアーの社会と文化におけるさらに深い次元の結びつきに 果敢に踏みこもうとした。本書はその先鋭的な試みの成功例なのであり、音楽k と癒しの力とのつながりを、本書ほど精微に、かつ説得力をもって論じた例はほ かにない。
本書のもうひとつの特色は、「音」という聴覚領域をほかの感覚領域と統合的に 関連づけている点にある。テミアーの音がもつ癒しの力とは、たとえば「影」とい う視覚領域や「匂い」という嗅覚領域との相互作用をとおしてはじめて発揮され るのであり、その相互作用を綿密に記述することによって、本書は感覚人類学 のひとつの優れたモデルとなっている。また本書が、さまざまな感覚をつなぐ基 盤として「身体」をとりわけ重視していることも、これからの民俗音楽学にとって 欠くことのできない視点をあたえてくれている。人間にとって、音を生みだし、そ れを受けとめるという音の経験は、身体的経験にほかならない。本書は、テミア ーの音の経験が、魂や匂いや影とともにいかに身体に根ざし、いかに身体から 立ちあらわれ、いかに身体と響きあうかを、じつにダイナミックな筆致で描きだし ているのである。
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目次 謝辞
1 テミアーの人びと 森の小道と精霊のうた 音楽と医療の結びつき 理論的考察 オラン・アスリ(先住民)
2 存在の概念 頭の魂 心の魂 匂い 影 精霊、音、もの、自己
3 治療師になる 夢をみること 風景の歌い手 「ハラー」に熟達すること 「ハラー」とリーダーシップ 妻と女たちのとりうる策略
4 演じられる夢 守護霊の種類 音の社会的な構造化 男の霊媒と女のコーラス 象徴的分類と音のメタファー 象徴的転換・・・・日常生活と儀礼的パフォーマンス
5 宇宙を動かす・・・・病気の原因と治療の方法 病気の原因 食べられるものと社会的宇宙を関係づける規則 まわりの環境にいる邪悪な存在 宇宙を動かす 変換としての歌唱
6 忘れることと思い出すこと・・・・思い焦がれの美学 忘れることと思い出すこと 思い焦がれの美学 夕暮れどきに思い焦がれる・・・・楽器を使った音楽 揺れの美学・・・・踊りと動き 魂の喪失 音楽形式、感情、意味
7・精霊の生きる世界のうた きずなとしての身体 世界に魂を吹きこむ
テミアー用語解説 訳者あとがき
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