「スピリット・ジャーニー」

バリの大地からのメッセージ

マディ・クルトネゴロ著 武内邦愛訳 アート・ダイジェスト より引用






訳者あとがき 武内邦愛 より抜粋引用


現在バリに住む人々の大部分はイスラムに追われて14世紀頃ジャワ島から移住して

来たマジャパイト王朝の末裔たちだ。インドネシアの多くの地域がイスラム化したのとは

対照的に、バリでは全人口の90パーセントがヒンドゥー教徒である。しかしインド・ヒンド

ゥー的要素はかなり外面的なものであり、どちらかといえばバリ本来のアニミズム的要素

が強く、ヒンドゥー、仏教、アニミズムが混在した観がある。バリ人の生活は公私を問わず

すべて宗教に裏打ちされたものであり、島中に何万という寺院があり、毎日どこかで祭礼

が行われている。バリの宇宙観を一言で表わすならば、それは『善と悪、生と死、光と闇

の二元論宇宙』であり、この世はその両者の終ることのない闘いの上に成り立っていると

いうものだ。そうした宇宙観はこの作品の底流にも一貫して流れているような気がする。


さて、マジャパイト王朝の人々がバリに渡来する600年ほど前に、いちはやくジャワから

移住してきた人々がいた。それが現在“バリ・アガ”と呼ばれている人々である。バリ・アガ

の村はバリの中にも数箇所あるが、バリ島東部にあり、三方を山に囲まれたタガナン村は

中でも特異な村といわれている。本書の原題は、“The spirit Journey to Bali AGA,Tenga

nan pegringsingan”となっており、物語の語り部である「霊魂」が、タガナンに住む一組の

父子の家に舞い降り、村の歴史を父が語って聞かせるのを耳にするところから劇中劇が

展開して行く。民話集としての形式をとってはいるが、その裏には深い精神性が流れてい

る。「霊魂」が著者の全くの想像上の産物なのか、あるいは現実の霊的経験によるものな

のか定かではない。彼の著作は米国、西独でも出版されており、特に米国版「スピリット・

ジャーニー」はスピルバーグ監督作で有名な「カラー・パープル」の原作者アリス・ウォー

カーの発掘により、彼女の所属する出版社から発行され、アリス自身が紹介文を書いて

いる。


ここ数年のエスニック・ブームも手伝ってかバリに魅かれる人は多い。だがいざバリ文化

について知りたいと思うと、似たような旅行ガイドか、はたまた難解な文化人類学の本ば

かりで、気楽に読める民話の様な本は皆無といってよかった。現在バリは観光開発で大

きく変わりつつある。開発が文化破壊の一面を持っているというのは皮肉な事実であり、

異国を旅する者としてはその様な破壊活動にできる限り荷担しないよう努めるべきだと私

は思う。金にまかせて土産物を買い漁るのではなく、文化を学ばせてもらうという謙虚な

態度こそが旅行者に最も求められるのではないだろうか。触れ合いの旅を志向する“スピ

リット・ジャーニー(精神の旅人)”の心のガイドブックとして本書が少しでもお役に立てれば

と、訳者として祈る次第だ。



 


目次

第一章 スピリット・ジャーニー

第二章 タガナン村の起源

バリアガの誕生

角のある馬の失踪

第三章 アムク!

第四章 タコノキ合戦

バリ地図

もうひとつのスピリット・ジャーニー

用語解説

訳者あとがき








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