「渡辺暁のチェス講義 戦略と考え方を学ぶ24のレッスン」

渡辺暁著 評言社









1999〜2001年の全日本チャンピオンであり、山梨大学准教授である著者が、中・

上級者向けに書かれた本で、チェスの考え方、その思考方法が分かりやすく書か

れている好著である。左の文献の続編だが、その内容は高度で、自戦記や名人達

の名局を通してチェスに対する著者の考え方を披露しており、著者のチェスの知識

を全て読者に伝えたいという熱い想いが伝わってきてならない文献である。


(K.K)



 








はじめに 

本書の意義、そしてなぜ終盤から始めるか、について

渡辺暁 本書より引用


チェスというゲームの魅力はなんでしょうか。その答えはやはり、先の展開を考えることの面白さ、という

ことになるでしょう。この「先の展開を考える」というのは、ただ単に手を読む(計算する)だけではありませ

ん。その局面が自分にとって有利なのか不利なのか、局面のなかで何が重要なのかといったことを考える、

局面評価と呼ばれる作業もとても重要なのです。そして、この局面評価を正しく行うためには、その評価を

下すための判断基準となる、様々な知識が必要になってきます。



この本の最大の目的は、日本の愛好者の方に、チェスを指すときに必要となる「考え方」を知ってもらうこと

です。一言でいえば、ただ漠然と先の展開を読むのではなく、それぞれの局面を理解しながら、試合を進め

られるようになっていただきたい、ということです。



局面を理解するためには様々な要素があります。たとえば、もちろん大事な要素として駒の損得があります。

そして、それぞれの駒がよくはたらいているか、あるいは協力しあっているか、ということも考えなければいけ

ません。また、キングを詰められてしまっては負けですから、キングの安全性ということも重要になってきます。

他にも様々な要素がありますが、こうしたいろいろな考え方について、私がこれまで経験のなかで得てきた知

識を、読者の皆さんに少しでもお伝えすることができれば、というのが私の願いです。



本書は二部構成になっています。第一部では終盤戦を扱います。チェスのゲームがどこに向かって進んでい

くのか、と考えると、結局、最後の決着は終盤戦でつく、ということに皆さんお気づきになると思います。したが

って、その最後の部分を先に勉強しておくことが重要となります。それが、終盤戦を第一部で扱う理由です。



第二部では、まず前半で中盤戦を、そして後半で序盤戦を扱います。終盤戦の基礎知識を持ったうえで、序盤・

中盤のより駒の多い局面でどのように作戦や手を組み立てたらよいか、その思考に必要な考え方をお伝えでき

ればと思います。



本書では最後に扱いますが、チェスの序盤戦はとても複雑で、しかも大変よく研究されています。ある程度高い

レベルで戦おうとすれば、かなりの量の定跡の知識が必要です。しかし、初級者・中級者にとって最も大事なの

はその根底にある考え方です。考え方がしっかりしていれば、自分の知らない定跡に誘導されても、ある程度

戦えるはずです。したがって、ここでも皆さんにお伝えしたいのは、序盤についての「考え方」ということになります。



この本は、私が試合や勉強のなかで自分なりに培ってきた、チェスにおける思考法を、日本の読者の皆さんに

お伝えする試みです。チェスに対する考え方は人それぞれであり、それをどう伝えるかも、人によって千差万別

です。



私は専門のコーチではありませんので、たとえば、若い人に一定の期間に、何をどのような順番で教えたら最も

効率的に知識を伝えられるかといった、教育メソッドについての知識は全くありません(正直なところを申しあげ

れば、そうしたメソッドにそれほど意味があるとも思っていません)。そして、扱っている内容が、私の好みに偏っ

ていることも自覚しています。しかし逆にいえば、そうして偏ったスタイルだからこそ、自分にお伝えできることは

ほぼ全て伝えることができたのではないか、という自負さえあります。



その試みが成功しているかどうかは、読者の皆さんに判断していただきたいと思います。本書を読み終えた読者

の皆さんが、少しでも自分にとって「勉強になった」、そして「おもしろかった」、「チェスをもっとやりたい」と思ってく

ださればいいな、と願っています。



2012年3月1日 渡辺暁



 



渡辺暁さんの国際戦棋譜(全146局)



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あとがき 渡辺暁 本書より引用


私の好きな序盤の本に、アイスランドのグランドマスター、ペトゥルソンが書いたキングスインディアン・ディフェンス

の本があります(本書では扱えなかった、アーヴェルバッハ・ヴァリエーションについて扱っています)。彼はその本

の執筆を最後に現役を引退したのですが、「私は自分の知っていることは全て書きつくした。グランドマスターなの

にその程度の知識しかないのか、といわれるかもしれないが、事実なのだから仕方ない」と述べています。本書の

執筆を終えた私の気持ちも、それに近いものがあります。少なくとも、私が読者の皆さんにこれだけは伝えたいと

意図していたことは、本書のなかに書きこむことができたのではないか、と思っています。



私は普段は大学でスペイン語を教えています。私の授業の中心は、もちろんスペイン語という言語を教えることで

すが、それと同時に、私がこれまで研究してきたラテンアメリカ、特にメキシコの政治やアメリカ合衆国におけるメ

キシコ系移民の話もするようにしています。スペイン語をやるからには、その言語が話されている土地について学

生さんたちに知ってほしい、という気持ちがあるからですが、そういう話をしているときのほうが、学生さんたちが

よく聞いてくるていると感じることもしばしばあります。彼らには、私がその話をしているときに自然と熱が入ってい

る様子が、伝わっているようなのです。



この本も、チェスの標準的な教本の体裁をとっていますが、バランスのとれた模範的な教科書というよりは、私と

いう個性を持った人間が、主観的に読者の皆さんに伝えたい、と思うことを書き連ねた本、といったほうが正確な

のだと思います。「はじめに」で本書は「偏った本」であると述べたのもそうのためです。しかし、大学の教師として

の経験上、そうした教師あるいは書き手側の主観が、読者の受け止め方に好影響を及ぼすと信じているからこ

そ、こうのような体裁をあえてとった、という気持ちももちろん持っています。そうした手法が成功しているかどうか

は、読者の皆さんの判断に委ねるしかありませんが、それが自分としてはベストの方法であったと今でも考えてい

ますし、教科書ではなく私のチェスについての「かたり」として読んでいただくことも、可能ではないかと思います。



私の初めてのチェスの本『ここからはじめるチェス』が出たときに、ある愛好者の方が、「初心者にはちょっと難し

いかもしれない。しかし、繰り返し読むことできっと実力がつくでしょう」とコメントしてくださいました。また、私が翻訳

に参加させていただいた、マルカム・ラウリーの『火山の下』という非常に難解な小説について書評を書いてくださっ

た、ある著名な詩人にして翻訳家の方が「一度読んでもわからない。二度読んでやっと少しだけわかってきた」と、

感想を述べていました。



この本も、ぜひ繰り返し読んでいただきたいと思います。多くの読者の皆さんは、本書の内容はそれほど難しくない

と思われることでしょう。しかし、一読してわかったつもりになっても、実際にその局面を盤に並べて自分で考えてみ

ると、自分で思ったほどは理解できていないことに気付かされるでしょう。実戦でその場面が出てきたりしたら、なお

のことそうでしょう。ここまで読んでくださった読者の皆さんには繰り返し勉強していただき、チェスへの理解を深め

ることによって、チェスをさらに楽しんでいただけたらと思います。



2009年にベトナム・ホーチミンシティーで行なわれた東南アジアゾーン選手権の最終日、フィリピンのグランドマス

ター、ユージーン・トーレ氏とお話しする機会がありました。理由は忘れましたが(多分、どうしても最後にあいさつ

をしたかっただったのだと思います)、彼の部屋に行き、そのまま30分ほど立ったまま話し込んでいました。



日本のチェスのレベルも上がってくるといいね、という話をするなかで、私が、「自分は仕事もあるし、年も年だし、

これ以上強くなるのは難しいけれど、日本の愛好者の人たちに自分がやってきたことを伝えたいと思っている」、

という話をしたら、彼は力強く、そして優しい声で、「それは君自身が強くなるよりも、もっと大事なことかもしれない

よ」とおっしゃってくださいました。彼自身も実力者でありながら選手としてだけではなく、コーチとしても運営者とし

てもフィリピンチェス界をリードしてきた人です。



私などは彼の足下にも及びませんが、日本のなかではチェスを勉強してきたほうだと思いますし、またこのあとの

「謝辞」でも詳しく申し上げるように、日本でも海外でも、いろいろな方にチェスを教わってきました。そうした私の

経験や思考を、少しでも読者の皆さんにお伝えすることができれば、本書はその最大の役割を果たした、といえる

でしょう。









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