「渡辺暁のチェス講義 戦略と考え方を学ぶ24のレッスン」
渡辺暁著 評言社
1999〜2001年の全日本チャンピオンであり、山梨大学准教授である著者が、中・ 上級者向けに書かれた本で、チェスの考え方、その思考方法が分かりやすく書か れている好著である。左の文献の続編だが、その内容は高度で、自戦記や名人達 の名局を通してチェスに対する著者の考え方を披露しており、著者のチェスの知識 を全て読者に伝えたいという熱い想いが伝わってきてならない文献である。 (K.K) |
はじめに
チェスというゲームの魅力はなんでしょうか。その答えはやはり、先の展開を考えることの面白さ、という
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あとがき 渡辺暁 本書より引用
の本があります(本書では扱えなかった、アーヴェルバッハ・ヴァリエーションについて扱っています)。彼はその本 の執筆を最後に現役を引退したのですが、「私は自分の知っていることは全て書きつくした。グランドマスターなの にその程度の知識しかないのか、といわれるかもしれないが、事実なのだから仕方ない」と述べています。本書の 執筆を終えた私の気持ちも、それに近いものがあります。少なくとも、私が読者の皆さんにこれだけは伝えたいと 意図していたことは、本書のなかに書きこむことができたのではないか、と思っています。 私は普段は大学でスペイン語を教えています。私の授業の中心は、もちろんスペイン語という言語を教えることで すが、それと同時に、私がこれまで研究してきたラテンアメリカ、特にメキシコの政治やアメリカ合衆国におけるメ キシコ系移民の話もするようにしています。スペイン語をやるからには、その言語が話されている土地について学 生さんたちに知ってほしい、という気持ちがあるからですが、そういう話をしているときのほうが、学生さんたちが よく聞いてくるていると感じることもしばしばあります。彼らには、私がその話をしているときに自然と熱が入ってい る様子が、伝わっているようなのです。 この本も、チェスの標準的な教本の体裁をとっていますが、バランスのとれた模範的な教科書というよりは、私と いう個性を持った人間が、主観的に読者の皆さんに伝えたい、と思うことを書き連ねた本、といったほうが正確な のだと思います。「はじめに」で本書は「偏った本」であると述べたのもそうのためです。しかし、大学の教師として の経験上、そうした教師あるいは書き手側の主観が、読者の受け止め方に好影響を及ぼすと信じているからこ そ、こうのような体裁をあえてとった、という気持ちももちろん持っています。そうした手法が成功しているかどうか は、読者の皆さんの判断に委ねるしかありませんが、それが自分としてはベストの方法であったと今でも考えてい ますし、教科書ではなく私のチェスについての「かたり」として読んでいただくことも、可能ではないかと思います。 私の初めてのチェスの本『ここからはじめるチェス』が出たときに、ある愛好者の方が、「初心者にはちょっと難し いかもしれない。しかし、繰り返し読むことできっと実力がつくでしょう」とコメントしてくださいました。また、私が翻訳 に参加させていただいた、マルカム・ラウリーの『火山の下』という非常に難解な小説について書評を書いてくださっ た、ある著名な詩人にして翻訳家の方が「一度読んでもわからない。二度読んでやっと少しだけわかってきた」と、 感想を述べていました。 この本も、ぜひ繰り返し読んでいただきたいと思います。多くの読者の皆さんは、本書の内容はそれほど難しくない と思われることでしょう。しかし、一読してわかったつもりになっても、実際にその局面を盤に並べて自分で考えてみ ると、自分で思ったほどは理解できていないことに気付かされるでしょう。実戦でその場面が出てきたりしたら、なお のことそうでしょう。ここまで読んでくださった読者の皆さんには繰り返し勉強していただき、チェスへの理解を深め ることによって、チェスをさらに楽しんでいただけたらと思います。 2009年にベトナム・ホーチミンシティーで行なわれた東南アジアゾーン選手権の最終日、フィリピンのグランドマス ター、ユージーン・トーレ氏とお話しする機会がありました。理由は忘れましたが(多分、どうしても最後にあいさつ をしたかっただったのだと思います)、彼の部屋に行き、そのまま30分ほど立ったまま話し込んでいました。 日本のチェスのレベルも上がってくるといいね、という話をするなかで、私が、「自分は仕事もあるし、年も年だし、 これ以上強くなるのは難しいけれど、日本の愛好者の人たちに自分がやってきたことを伝えたいと思っている」、 という話をしたら、彼は力強く、そして優しい声で、「それは君自身が強くなるよりも、もっと大事なことかもしれない よ」とおっしゃってくださいました。彼自身も実力者でありながら選手としてだけではなく、コーチとしても運営者とし てもフィリピンチェス界をリードしてきた人です。 私などは彼の足下にも及びませんが、日本のなかではチェスを勉強してきたほうだと思いますし、またこのあとの 「謝辞」でも詳しく申し上げるように、日本でも海外でも、いろいろな方にチェスを教わってきました。そうした私の 経験や思考を、少しでも読者の皆さんにお伝えすることができれば、本書はその最大の役割を果たした、といえる でしょう。
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