「解け出した氷の下の歴史 先住民ユピック」

 ナショナル ジオグラフィック 2017年4月号 より写真・文 引用








本書 より抜粋引用

文=A・R・ウィリアムズ(英語版編集部)
写真=エリカ・ラーセン



米国アラスカ州の南西部に位置するヌナレクの遺跡には、先住民ユピックを恐怖に

陥れた、ある運命の瞬間がそのまま冷凍保存されている。約400年前、突然の襲撃

を受け、多くの命が奪われたのだ。



かつて芝土でできた大きな建物があった場所の周囲に、住人をいぶり出すために火をたいた痕跡が残されている。

50人ほどの人々がここを拠点に、狩猟や漁、植物の採集などをして暮らしていた。生存者は一人もいなかったようだ。

うつぶせになった女性や子ども、高齢者の骨がまとまって発見されたのは、彼らが敵に捕らえられ、殺されたことを

示唆している。



遠い昔の悲劇は、時に現代の研究者に貴重な発見をもたらす。考古学者たちはヌナレクで、これまでに2500点以上の

遺物を掘り出してきた。ありふれた食器もあれば、儀式に使われた木製の仮面、セイウチの牙でできた入れ墨用の針、

カリブーの歯を連ねたベルトなどの珍しい物もある。1660年頃から凍土に埋もれていたため、どれも驚くほど保存状態

がいい。



かごや敷物は、繊細な編み目まで当時の姿をとどめている。泥だらけの包みを開いてみると、中から鮮やかな緑色を

した草の葉が出てきた。「この草はシェークスピア時代に刈られたものですよ」と、調査隊を率いる考古学者のリック・

クネヒトは感嘆する。



英アバディーン大学に籍を置くクネヒトは、この地で起きた惨劇と、現代のユピックの人々が伝える昔話との間には関連

があるとみている。ユピックの人々は、歴史家が「弓矢の戦争」と呼ぶ時代の記憶を語り継いできた。ロシアの探検家が

1700年代にアラスカに到達する以前、ユピックの共同体の間では血みどろの戦いが繰り広げられていたという。ヌナレク

の遺跡は、数世代にわたるこの凄惨な時代の考古学的証拠と確たる年代を、初めて明らかにした。



それらの戦いは気候変動の結果だったと、クネヒトは考えている。ヌナレクに人々が住んでいたのは、地球が550年間に

わたって冷え込んだ小氷期のことだ。アラスカが最も寒冷化した1600年代は悲惨だったに違いない。おそらく食糧の略奪

も頻繁に起きていただろう。



「気候が急激に変化するときには、食糧が手に入る時期が大幅にずれることがよくあります」とクネヒトは言う。「小氷期

や現代のように、極端な気候の変動が起きると、適応が追いつかなくなることがあるのです」


(中略)


アザラシとクジラ


8月のある日、発掘隊のトリシア・ギラムが、特に珍しい品ではないが、非常に芸術的な遺物を見つけた。それは一般に

ウルと呼ばれる女性用の刃物で、粘板岩の刃に木彫りの握りが付いている。それまでもさまざまなウルが見つかっていた

が、この発見には誰もが息をのんだ。手で握る部分が優美なアザラシの形をしていたのだ。ところが後になって、この握り

にはもう一つのデザインが隠されていることがわかった。クジラの形にも見えることに気づいたのだ。



そのウルはユピックの基本的な世界観を示していた。「万物は変転の途上にあり、何ものも単一かつ不変の存在ではない」

というものだ。同じ思想を体現した出土品には、セイウチにも人にも見える仮面や、カヤックにもアザラシにも見える木製の

小箱などがある。



「彼らの暮らしにはそうしたダイナミズムが常に存在します」と、クネヒトは言う。「気候変動もその一部なのです」



ユピックは、周囲の環境は流動的な存在で、調整や適応が必要と見なしてきた。自然界で起こるさまざまな変化を生き延び

るのは、彼らのような人々だろうと、クネヒトは考えている。


(中略)


ユピックであることの誇り


クインハガックの村人全員が同意するもの、そして、よく話題にするものが一つあるとすれば、それは奇妙な天候がもたら

す、さまざまな変化についてだ。



事務所で話していると、「20年前に長老たちが言い始めたんです。地面が沈んでいるとね」と、ジョーンズが言った。



「ここ10年ほどの変化があまりに大きいので、今では誰もが気づいていますよ」。昔なら川が凍るはずの2月の厳寒期に

ボートに乗れるのだからと、ジョーンズは語る。最も奇妙なのは、3年続けて冬に雪が降っていないことだという。



暖かくなる冬のことを別にしても、今の子どもたちの暮らしは、年長者たちの時代とは大きく異なっている。カニアトック社の

会長で66歳のグレース・ヒルは固有の言語が消えていくといった変化の流れを懸念している。



「小学校に入ったとき、私はユピック語しか話せませんでしたが、今の子どもは英語だけです」。ヒルは学校で習った、流暢

だが少しなまりのある英語でそう話す。もちろん、あらゆる場所であらゆるものを変えていくテクノロジーの存在も大きい。

「子どもたちはコンピューターに夢中で、自分たちの文化を忘れつつあります」と、彼女は危惧する。



ほかの年長の村人同様、ヒルも最初はヌナレクの発掘に反対していた。先祖の眠りを妨げてはならないというのが、ユピック

の伝統だからだ。しかし今では、考古学がより大きな恩恵をもたらしてくれると、彼女は信じている。「子どもたちが自らの

ルーツに関心をもつきっかけになってくれたらと願っています」


(中略)


毎年、発掘期間が終わると、考古学者たちは出土品を梱包し、保全のためにアバディーン大学に送ってきた。だが、すべて

の出土品は今年中に送り返されることになっている。古い校舎を改装した村の資料館に収められるのだ。ジョーンズは、人々

がそこで見事な細工が施された先祖の品々を見たり、手に取ったり、語り合ったりできるようになる日を夢見ている。



「大学にいっている村の若者たちが、将来、資料館を運営してくれたらと思っています。そして、これは自分たちのものだと

いう誇りをもってもらいたいのです」と、ジョーンズは言う。その夢が実現し、資料館がオープンした暁には? 「真っ先に

入館して、おおう言いますよ。『私はユピック。これが私のルーツだ』と」





世界各地の先住民族の声・アラスカ・ユピック族・・・・ハロルドの言葉 を参照されたし。









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