「ナヤ・ヌキ 大草原を逃げ帰った少女」

ケネス・トーマスマ著 浜野安宏監修 おびかゆうこ訳 出窓社 より










「モホ・ワット」に続くケネス・トーマスマによる邦訳二作目となる本書はショショニ・インディ

アンに長く伝わっている物語を著者の幾分かの脚色を交え世に出したものである。この

物語が実際に起こった年は1801年の夏、1600キロという途方もない距離をたったの

11歳の少女が故郷に生還する。ショショニ語の「ナヤ・ヌキ」という名前は、「逃げ帰った

少女」を意味し、その知恵と勇気をショショニ族が長く語り伝えてきたものである。語り部

として高い技能を持つ著者の文体は、読者の心を一気に200年前へと飛び込ませる。

(K.K)







自然と密着して暮らすインディアンの人びとは、幼いうちから大自然で生きぬく知恵を

身につけていた。とらわれた敵部族の村を脱出し、はるか1600キロも離れた故郷を

めざす11歳の少女も、地形や星で故郷の位置を知り、バッファローや灰色熊から身を

守り、自然のなかから巧みに食糧を探し出し、40日におよぶ危険な旅を成し遂げる。

また、ナヤ・ヌキと一緒にとらえられ別れ別れとなった親友サカジャウィアとの4年後の

劇的な再会は、アメリカ西部開拓史を彩る感動的なエピソードである。1986年度ワイ

オミング州児童文学受賞をはじめ、全米各州で大好評のシリーズ第2弾。(本書・帯文)







数日後に、一行は冬の居住地のレミ・バレーへたどり着いた。標高の低いこの谷間には、

雪がまったくなかった。その夜、ナヤ・ヌキの素晴らしい話を聞くために、巨大なかがり火が

焚かれた。バッファローの肉がふるまわれたあと、ナヤ・ヌキは語り始めた。初めは恥ずか

しくてうまく話せなかったが、すぐに話しがのってきて、夜がふけるまでしゃべり続けた。じっ

と耳をかたむける部族の人びとは、物音ひとつ立てなかった。なにもかも、にわかには信じ

られないような話ばかりだった。だれもが感心しながら聞き入った。ナヤ・ヌキのような幼い

少女が、こんな作り話をでっち上げられるはずがない。少女の語ったことは、まぎれもない

真実だった。このとき、人びとはまさに人生最高の素晴らしい物語を耳にしていたのであっ

た。ナヤ・ヌキの物語は、その夜のかがり火を囲んでいた多くのインディアンたちによって

語りつがれ、広められていった。そして何年もの時を経て、この少女と彼女の自由を求める

旅は、ひとつの伝説となったのだった。ナヤ・ヌキが話し終ると、首長たちは集まって相談

し、少女に新しい名前を与えることにしたと人びとに告げた。このときから、少女は「ナヤ・

ヌキ」と呼ばれるようになった。それは、ショショニ語で「逃げ帰った少女」という意味だった。

この勇気ある旅に出発する前のナヤ・ヌキの呼び名を我々は知らない。部族の習わしで、

特に勇敢な行いをした者には、こうして新しい名前が与えられるのだ。こんなにも力強い

勇気と部族への深い愛をつらぬいた十一歳の少女は、おそらく「逃げ帰った少女」、ナヤ・

ヌキをおいて他にいないであろう。





「タブ・バ・ボーン」(白人)がやってきたのは、それから4年後の8月のことでした。その頃、

探検隊のルイスとクラークは、ショショニ族をさがしていました。太平洋まで探検をつづける

のに、彼らの馬がどうしても必要だったからです。肌と髪の毛の色が薄く、不思議な格好

をした男たちがやってくると、ショショニ族の部落は大騒ぎとなりました。なんといっても記念

すべき最高の日は、1805年の8月17日です。その日、ルイスとクラーク探検隊は、ようや

くショショニ・インディアンの部落へとたどり着きました。そのときの様子をルイス隊長は次の

ように書いています。


「我々が部落へ近づくと、ひとりの女が人びとの群れをかきわけてサカジャウィアのほうへ

走り寄ってきた。ふたりはお互いに相手が誰なのかわかると、これ以上ないというほどの

優しさと愛情を込めて抱き合った。この若いふたりの女性の再会には、何か格別の感動

があった。ふたりの様子があまりにうれしそうだったこともあるが、それだけではない。

女性たちの境遇がとても興味深かったのだ。幼ななじみだったふたりはミネタリー族との

戦いで共に敵部族に捕まり、とらわれの身となってからも互いに励まし合っていた。とこ

ろが、ついにひとりは、白人に売られた親友と再会できるかすかな望みを胸に、ミネタリー

族の村から逃げ出したというのである。」

『ルイスとクラーク探検隊』メリウェザー・ルイス著より


ナヤ・ヌキとサカジャウィアには、話したいことが山ほどありました。ナヤ・ヌキは、サカジャ

ウィアがたどってきた人生と、シャルボノーというフランス人と結婚したことを知りました。

シャルボノーは、太平洋まで歴史的な探検旅行を成功させたルイスとクラークに雇われ

ていたガイドです。ナヤ・ヌキは、サカジャウィアの幼い息子を胸に抱きました。こうして、

よろこびに満ちた歴史的な日に、サカジャウィアとナヤ・ヌキはついに再会を果たしたの

です。 (本書 エピローグより引用)



目次

1 大草原へ向かって

2 敵部族の来襲

3 長くつらい東への旅

4 奴隷としての生活

5 決行の夜

6 危険な夜の旅

7 油断できない昼の旅

8 墓場

9 灰色グマの恐怖

10 毛布と食糧

11 病魔とのたたかい

12 再び西へ

13 故郷の山々

14 雪嵐

15 忘れられない日

エピローグ


訳者あとがき

監修者あとがき 浜野安宏

解説 想像力の翼を与えてくれる物語 西江雅之





ケネス・トーマスマ・・・1930年、ミシガン州、グランド・ラピッズに生まれ育つ。小、中学校の

教師および校長として44年間、教育関係の仕事に従事。その傍ら、ネイティブアメリカンの

伝承に魅せられ、自ら採集してまとめた「すばらしきインディアンの子供たち」シリーズは、現

在7冊が出版され、ワイオミング州児童文学受賞を始め、全米各地で高い評価を得ている。

現在は、ワイオミング州、ジャックソン・ホールで暮らしながら、プロの語り部として、アメリカ

全土、デンマーク、オランダなどの国々で、語り聞かせと書き方教室のプログラムを展開して

いる。(本書より)







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