「北アメリカ大陸 先住民族の謎」
グラフィティ・歴史謎辞典15
スチュアート・ヘンリ著 光文社文庫
著者も書いているように、小さな文庫本ではインディアンの多くの部族の歴史と 現状を紹介することは出来ない。北東部とか南西部など異なった地域性を踏まえ ながら簡単な紹介しか出来ないのだろう。ただ、本書の良い点は図版などが多い ことにある。本書はインディアンだけでなく、イヌイットの北米大陸の先住民たちも この図版などを通して紹介されている。 (K.K)
|
本書 はしがき より抜粋引用
場所はカナダ北西準州のほぼ真ん中、北緯70度にある人口250人ぐらいの村 ペリーベイのはずれ、時は1975年の6月末、30人乗りの双発旅客機がツンドラ の砂利敷き滑走路を走り、もうもうと土煙を上げながら飛び立っていくのを見送り ながら、私は頭の中を懸命に整理しようとしている。ツンドラの真っ只中なのに、 見わたす限り雪はどこにも見あたらない。足元には可憐な黄色い花が咲いてい る。定期便が運んでくる郵便や生鮮食料品をもって村へ三輪オートバイに相乗り して去っていく十数人のイヌイットはジーパンとトレーナーにスニーカーという出立 ちだ。私がそれまでいだいていた北極のイメージといえば、年じゅう雪と氷に閉ざ されている世界、毛皮服を着こんだイヌイットが犬橇を走らせている、という世間な みの先入観だった。目の前に広がっている情景はあまりにもこのイメージとかけ 離れている。
本書では、ここからはじまった私の北極における考古学と民俗学調査の成果、 そして私自身の認識の変化をたどりながら、日本にはまだよく知られていない 北アメリカの先住民の歴史と現状を紹介したいと思う。とはいっても、先住民の 全民族を紹介するにはあまりにも頁が少なく、表面的な事柄を取り上げ、全体的 な時の流れを示すのにとどめざるをえない。
|
「60年代 新しいアイデンティティを求めて」 本書より抜粋引用
農地開拓に伴って、19世紀までインディアンが保留地に押し込められたり、あるいは 二流市民という立場にさせられたことについてこれまで述べてきたが、20世紀に入っ てからも軍隊による征伐はなくなったものの、インディアンのおかれていた状況が改善 されたとはいえない。基本的に政府の保護下におかれ、多くの場合、投票権を含む 市民権すら認められなかった。しかも、地下資源が保留地の中で発見されると、保留 地を縮小したり、インディアンを立ち退かせる暴挙はいくたびもくりかえされた。
ようやく1933年、経済復興と社会保障の増進を柱としたルーズベルト大統領政権の ニューディール政策のもとで、アメリカの先住民対策が抜本的に見なおされるように なった。1934年の「インディアン再編成法」では、1832年のマーシャル判決にうた われた先住民の主権が再確認され、それぞれの保留地における行政、司法、財政の 所轄する自治組織の設立が進められた。それに宗教の自由が認められ、職業訓練を ふくむ実利的な教育が実施されるようになった。
この政策に問題がなかったわけではないが、先住民の自立への準備段階であったと 評価しなければならない。しかし、1940年代後半から1950年代にかけて、一般国民 の間に依然として根強かった偏見と差別意識が再び台頭しはじめた。ニューディール 政策の人道主義的な内容は「好ましからざる原始的な習慣」を助長し進歩をさまたげる と批判され、インディアンを「解放」するとのスローガンのもとで保留地を解体してインデ ィアンをアメリカ社会に編入するという新しい政策が打ち出された。スローガンはいいが、 現実にはそれによってインディアンがかろうじて保有していたわずかな土地(保留地)が 奪われ、主流社会の偏見と差別の舞台に引き出されただけの結果をもたらした。イン ディアンとしての先住民ステータスを終結させようとしたこの政策は、地下資源などの 開発を容易にすることが本当のねらいだったとしか考えられない。現に、先住民ステー タス終結政策の責任者は戦時中、日系アメリカ人の強制移住と収容を指揮した人物 だった。
|
目次
本書で取り上げた地域
第1部 オーロラに抱かれて生きる フォト(ツンドラの夏 ツンドラの冬 ある日のイヌイット 住居 乗り物 ミイラ 服装 狩猟 器用さ アリューシャン)
オーロラに抱かれて生きる スチュアート ヘンリ 北米大陸の極北民族 イヌイット・ユイット(エスキモー) 絶滅のハンター アリュート民族
第2部 先住民族文化謎辞典
2−1 先史時代編 フォト・先史時代の遺跡 先史時代・・・・こうして人は新大陸に渡った アーリーマンの時代・・・・最初のアメリカ人 大型動物狩猟時代・・・・パレオ・インディアン文化 植物採集時代・・・・アーケイック文化 食料生産への道・・・・ここにも農耕の起源 先史時代から極寒の地に暮らした人がいた 植民地時代のはじまり・・・・西洋人との接触
2−2 インディアン編 フォト(北東インディアン 草原インディアン 高原インディアン グレート・ベースン 北方インディアン) インディアンってどういう人たちなの? 北東部/平和社会を築いた人々 南東部/武士道に生き、民主制を布いた人々 草原地帯/農耕と狩猟の混合経済に生きる フォト(南西インディアン 北西インディアン) 高原地帯/バッファローに生きる グレート・ベースン カリフォルニア/輝く山の麓に生きる 南西部/都市を築いた人々 北西沿岸/トーテム・ポールに祈る 北方/針葉樹林帯を駆ける
第3部 苦難の時を越えて フォト(苦難の足跡) 初期の植民時代/対等から征服へ 苦難の時代/征服・同化・絶滅へ 文化復興運動/ゴースト・ダンスを舞う 60年代/新しいアイデンティティを求めて 新条約時代/先住民政策の解決に向けて
主な参考文献 写真図版リスト
|