「征服されざる人びと 酋長オセオーラとセミノール・インディアン」

ウィリアム・ハートレー エレン・ハートレー著 鈴木主税訳 現代史出版会 より引用





訳者あとがき 本書より抜粋引用


本書は、Osceola の翻訳である。内容は、ごらんの通り、アメリカ大陸南東部のフロリダ

半島に住むセミノール族が、傑出した若い酋長、オセオーラの指揮のもとに、アメリカ合衆国

の移住政策に抵抗して戦った記録である。これは、新大陸に渡った白人と先住土着アメリカ

人の交渉の歴史では、第二次セミノール戦争として知られている。独立国としての基礎固め

を一応終わったアメリカ合衆国は、この戦争にケリをつける(勝ったとは言えない)ことによっ

て、東部全域から先住民族をほぼ完全に駆逐したわけである(戦いの舞台は、このあと西部

に移り、1890年のウンデッド・ニーの虐殺によって、インディアンの武力抵抗がやむまで同じ

ような侵略と抵抗がくり返された)。


新大陸に渡った白人にとって、アメリカの自然は、征服し、西欧文明の技術によって最大限に

利用すべき対象だった。旧大陸を食いつめて海を渡ってくる白人が、それこそイナゴのように

ふえ、どんな手段を使ってもそれを養わなければならなかったからである。その白人の努力を

妨げたのは、きびしい気候や荒々しい自然だった。しかし、それよりももっと大きな問題は、自然

を征服すべきものとは考えず、そこにとけこんで暮らしている先住民であり、その生き方だった。

その後の両者の交渉の歴史を、ここでくわしく述べる必要はあるまい。白人は、恫喝、懐柔、

詐欺、殺戮など、あらゆる手をつくして、土着アメリカ人の土地を取りあげようとした。当然抵抗

が起こり、それは軍事力を駆使してのジェノサイドにつながった。 (中略)


白人の文明(現在のわれわれの文明)は、現在さまざまな面で破綻しつつあるようだ。どこかが

まちがっているのではないかという反省がなされるようになったのはごく最近のことだが、これ

まで西欧文明は科学技術によって自然を征服し、勝利を収めてきた。どんどんふえる人口を、

それによって支えてきたのである(新大陸の白人とまったく同じように)。ところが人口はイナゴ

のようにますますふえつづけていくのに、自然の資源は枯渇しはじめたというわけだ。エネル

ギーや食糧を確保するための開発・・・・自然征服・・・・の努力は、人口の圧力とあいまって、

環境にははなはだしい打撃を与え、汚染、公害などの問題をひき起こした。人間の傍若無人の

ふるまいに、自然が報復しはじめたと考えられなくもないのである。


新大陸の白人の文明をあくまで拒否し、自分たちの土地を追われた土着アメリカ人がこの結果

を予想していたと言えば牽強付会にすぎるだろうが、彼らが白人の文明にひどくまちがったとこ

ろがあると感じていたことはたしかだろう。現在、われわれが、新大陸の白人と土着アメリカ人の

交渉の歴史を読んで学びとれる最大の教訓は、正にそこにあるのではないだろうか。最近、アメ

リカで土着アメリカ人の過去にあらためて光をあてる作業がさかんに行なわれ、多くの成果をあ

げていることは、もちろん1960年代後半から盛りあがりを見せた彼らの権利回復の運動に触発

された結果ではあろう。だが、そこに現代文明にたいする深い反省がこめられていることも、見逃

してはなるまい。


セミノール族の暮らしぶり、その儀式、スポーツ、家庭生活、風俗などを、戦争そのものの経過と

同じくらい熱心に取りあげている本書の著者たちも、おそらくそれが白人の文明にたいしてもつ

アンチテーゼとしての意味を認識していたにちがいない。もっとも、本書全体の価値を損ねるほ

どではないにしても、「インディアン」とか「ニグロ」という言葉を(ニグロについては弁解はしてい

るが)かなり無頓着に用いているところにあらわれているごとく、本書の著者の土着アメリカ人の

生き方(文化)のもつ重要性にたいする認識には、限界が認められなくもない。読者には、その

辺のところを良く見きわめて、本書を読んでいただきたいと思う。


1975年4月 鈴木主税


 


目次

はしがき

1 私の署名のしかたはこれだけだ!

2 第一次セミノール戦争

3 ムールトリー・クリーク条約

4 ペインズ・ランディング条約

5 オセオーラ、宣戦を布告する

6 戦いはじまる

7 ワフー・スワンプとウィスラクーチー

8 ウィスラクーチーの第二の戦い

9 オセオーラのゲリラ戦術、奏効す

10 キャンプ・メロンからの逃走

11 ジェサップの裏切りにセミノール屈す

12 オセオーラの死

エピローグ

訳者あとがき








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