「ポカホンタス」

スーザン・ドネル著 池田真紀子 訳 竹書房文庫 より引用


   









本書 「著者まえがき」 より引用


ポカホンタスの物語が初めて私の心をとらえたのは、10歳くらいのころだった。バージニア

に住んでいたそのころ、兄弟やいとこたちとよく、「ポカホンタスごっこ」に興じていた。筋書き

はそのときによっていろいろだったが、それでもポカホンタスは危機一髪のところで必ずジョ

ン・スミスを救い出すのだった。


史実として見たとき、ポカホンタスとジョン・スミスが恋人だったのかどうかについては見解

が二つに分かれる。私は、二人は愛し合っていたと強く信じている。というのも、何年か離

ればなれになったあとにイギリスでスミスと再会したとき、ポカホンタスが感情を抑えきれ

ずにうろたえたことは、厳然たる歴史的事実だからだ。そして何より、もしこの二人が惹か

れあっていなかったとしたら、スミスや、あかの他人である仲間の冒険家たちの命を何度

も救った、ポカホンタス自身の命をかけてまでの勇気ある救出劇はなかっただろう。


彼らの生きた時代には、人生は過酷で短く、そして冒険に満ちていた。ときに編集者がこ

んな感想を漏らすこともあった。「登場人物にいろんな事件が起こりすぎます。現実離れ

してますよ!」 だが、私は譲らなかった。そういった事件はすべて、史実なのだから。


文献をひもといていくなかで、もう一つ私を惹きつけたことがある。イギリス人のインディアン

に対する姿勢だ。彼らは異なった人々として、だが平等に扱われていた。パウアタン族は、

高度な農耕技術(イギリス人をも指導した)を持った農耕の民であり、自然の材料で建てた

住宅の集まった町に住み、厳しい戒律を固持し、イギリス人よりもはるかによい食事をし、

神への崇拝を示すために毎日必ず沐浴をしていた。毛布、羽毛、雌鹿のなめし革などを

使った贅沢な服を身にまとい、パウアタン首長(イギリス人は大王とか皇帝と呼んでいた。

首長のお気に入りの娘ポカホンタスは、王女と呼ばれていた)が専制君主として君臨し、彼

の配下の町それぞれに首長専用の家が設けられていた。申し分のない自然環境に生きる、

非常に健全な人々だった。二つの民族の長い戦いが終わってからは、新たな偏見が生まれ

ることもなかった。


私は、日々の暮らしや世界中を飛び回る生活に忙殺され、何年もの間ポカホンタスのこと

を忘れていた。そんなころ、私が深く愛したバージニアの実家が火事で焼けてしまい、いろ

いろな事情から建て直すことができなかった。私の一族は、250年にわたってその土地で

暮らしてきた。当時、私はイギリスに住んでいたが、ひどく打ちのめされたような気がした。

急いで自分のバックグラウンドを再確認しなくてはならないという衝動にとらわれた。いま、

自分のバックグラウンド、すなわち家族の歴史を何冊かの本にまとめようと思っている。

私は机に向かうと、歴史にその名を残すパウアタン族の王女について書き始めた。私から

数えて14代前、直系の先祖であるこの王女について。





本書 「著者あとがき」 より引用


ポカホンタスの死後まもなく、ジョン・ロルフはバージニアに戻った。いとこのルイス・

スタックリー卿と弟のヘンリーに預けた息子にあてて、定期的に手紙を送った。ロルフ

はトーマスの教育のことと、彼が相続する財産を手つかずで残すことに心を砕いた。

遺産については、親友のエドウィン卿に手紙を書いて、バージニア会社からポカホンタ

スに支払われていた給付金をそのまま息子に支払ってもらうように頼み、息子が安定

した暮らしが送れるようにした。また、エドウィン卿への手紙の中に、ポカホンタスの

死を知ったときの入植者や原住民が深い悲嘆に暮れたことも書いた。それからロルフ

は内陸へと旅をして、パウアタン大王に娘の死を報告した。年老いた大王は深く悲し

み、弟のオピチャパンに王位を譲って、イギリス人の町からもっとも遠いパタウォミーク

族の村に移り住んだ。だが、大王は翌年の1618年、亡くなった。


ロルフはタバコの改良を続け、のちには植民地の最大の輸出品目に育て上げた。彼

はエドウィン卿と数多くの手紙をやりとりし、エドウィン卿は何百人もの新世界への移住

者を送り出した。4年も経たないうちにオピチャパンから王位を譲られたオペチャンカナウ

は、パウアタン大王のように賢い王ではなかった。イギリス人とパウアタン族の緊張が高

まり、ついに1622年、血なまぐさい戦闘と虐殺へと発展した。この虐殺事件で300人の入

植者が殺された。その中にジョン・ロルフも含まれていた。


若いトーマス・ロルフは、1635年に生家バリーナ荘へ帰ってきた。パウアタン族は彼のた

めに、ポカホンタスとパウアタン大王がそれぞれに遺した何千エーカーにものぼる広大な

土地を手つかずで守りぬいていた。また、ジョン・ロルフは、イギリス国王から公有地譲渡

書をもらい、息子とその土地の所有権を確実なものにしてあった。トーマスは時折パウアタ

ン族の村を訪れたが、ずっとイギリス人の町で暮らし、「美貌の」イギリス少女ジェーン・

ポイトレスと結婚した。この二人の子孫には、何世代にもわたって多くの政治家、議員、

学者、大臣がいる。そのほとんどはバージニアお3つの名家、ランドルフ家、ボリング家、

ブレア家のいずれかの出身だ。


ジョン・スミスは、1619年、探検のために一度ニュー・イングランドを訪れた。その後は

イギリスに戻り、そこで1631年亡くなった。彼は生涯一度も結婚しなかった。





本書 「訳者あとがき」 より引用


ここ数年、大人も楽しめる質の高いアニメーション映画を発表し、第二の黄金期を

築いたと言われているディズニー。この夏公開される、ディズニー33作目の長編アニ

メーション映画が「ポカホンタス」である。アメリカでは、映画公開前から「ライオン・キ

ング」「アラジン」「美女と野獣」を凌ぐ盛り上がりを見せ、ディズニー映画の長い歴史

の中でも最大のヒットの一つとなるのは間違いないと言われている。ディズニーのア

ニメーションで実在中の人物を取りあげるのは初めてということも、しかも、「あの」

ポカホンタスを取りあげたということも、話題となった。


今年、1995年はポカホンタス生誕400周年にあたる。インディアンの少女である彼女

の故郷バージニアでは、秋に「ポカホンタス生誕400周年祭」が大々的に催されると

いうし、アメリカで彼女の名前を知らない人はいないというほどの人物。ところが、日

本ではまったく知られていないに等しい。ポカホンタスって誰? というのがごく平均的

な日本人の反応ではないだろうか。


本書でも物語の大きな軸となっている、アメリカでは小学生が歴史の時間に学ぶとい

うポカホンタスの逸話がある。植民地建設のためにやってきたイギリス人探検家ジョ

ン・スミスが、白人が何としても追い払おうとするポカホンタスの父パウアタン大首長

にとらえられ、処刑されようとしたまさにその瞬間、ポカホンタスが身を投げだしてスミ

スを救ったという話である。このポカホンタスの勇気に心を動かされた大首長は、そ

れ以降、白人を攻撃することもなく、飢えに苦しむ白人たちとの食糧と武器の取引に

も積極的に応じるようになったという。このことからポカホンタスは、その後のバージ

ニア植民地の発展、あるいはアメリカ合衆国の成立の最大の功労者と言われている。


しかし、実はこの救出物語そのものがスミスの作り話だとの見方をする歴史家もいる。

スミス自身の証言以外に証拠がないからだろう。また、著者自身が本書の前書きでも

触れているように、ポカホンタスがスミスを救った動機は愛情からなのか、それとも純粋

に白人とインディアンの平和を願う心からなのか、それもはっきりとはわからない。


だが、私は、ポカホンタスへの救出劇は真実だったと信じたい。そして、それはスミスへ

の愛情ゆえの行為だったと思いたい。たった一つの愛がのちの大国の運命を決めた、

そんなロマンスがあったっていいじゃないか、と思う。憎しみによって一つの国が消える

ことがあるなら、愛によって生まれることがあってもいいじゃないかと。


本書の著者スーザン・ドネルは、ポカホンタス直系の子孫である。子孫が書いたからと

いって、数あるポカホンタス物語の中で本書こそが真実の姿であるとは断言できない

ことは承知している。それでも、ポカホンタスの純粋で偏見のない美しい心と、愛のため

にはときには残酷な行為も辞さなかった彼女の暗黒面との両面を、これほどリアルに

見事に描ききった作品はなかったのではないか。これまで、ともすれば過剰に美化され

て伝えられきたポカホンタス。それを考えると、私は、本書こそが「もっとも真実に近い」

ポカホンタス物語なのではないかと確信している。


1995年6月 池田真紀子







1616年のSimon van de Passeによる銅板画。生前唯一の彼女の肖像である。
下段には「マトアカ、またはレベッカ、ポウハタンの万能の王子にしてバ−ジ
ニア皇帝、アッタノウコモウクの娘、キリスト教に改宗し洗礼を受けた、ジョー・
ロルフ氏(Mr. Joh Rolfe)の妻」と標題がつけられている。

ウィキペディア ポカホンタス より引用)


真実のポカホンタス

ウィキペディアの次の項目を参照されたし

ポカホンタス

ポカホンタス(映画)

ジョン・スミス (探検家)









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