「白い征服者との闘い」

アメリカ・インディアン 酋長レッド・フォックスの回想

秋山一夫訳

サイマル出版会 1971年12月20日発行 より引用











既に絶版になってしまったこの文献の貴重さを上げるとするなら、まずウンデッド・ニー

大虐殺に至までの経過を詳しく記述したものであろう。これは同じ時代に生きたスー族

の聖者ブラック・エルクの証言と同じ貴重な証言として、その真実の姿を私たちに垣間

見させてくれる。そして西洋文化の中で生きる心の二重性に苦しみながら、インディアン

である誇りを失わなず、自尊と幸福とを手に入れるために注意深く見守らねばならない

ところの真実を探求してきた魂の遍歴の物語である。

「追記」 この文献の最も重要なウーンデッドニーの虐殺の記述は1940年に出版された

ジェームス・マクレガーというインディアン研究家の本からの書き写しであることが判明し

ています。この情報は北山耕平さんからいただきましたが、インディアンの文献の偽作の

研究書「Cheating and deception」 J.Bowyer Bell, Barton Whaley に詳しく書かれている

そうです。

(K.K)







コロンブスに大陸を「発見」されたばかりに、アメリカ・インディアンは、白人移住者

たちに虐殺され、土地を奪われ、居留地へと押しこめられてきた。インディアンを

野蛮人とみなすこと、それこそが、白人が自己の行為を正当化できた唯一の方法

であった。<輝けるアメリカ建国史>とは、白人征服者たちによるアメリカ・インディ

アン迫害の血ぬられた歴史だったのである。本書の著者、酋長レッド・フォックス

は、1870年、スー族インディアンの天幕小屋に生まれてから、一世紀におよぶ

波瀾と忍苦の人生をおくってきた、「失われゆく遺産」の歴史的証言者である。こ

の回想録は、インディアン最後の勝利となったカスター将軍=第七騎兵隊との戦

い、武器を放棄した数百人のインディアンが惨殺されたウーンデッド・ニーの大

虐殺をはじめ、自ら体験し、また叔父クレイジー・ホースから聞かされてきた幾つ

もの戦いと、大平原に創られたインディアン独自の思想と文化について、インディ

アン自らがはじめて語ったものである。酋長レッド・フォックスの数奇な生涯のモノ

ローグで、白い征服者との戦いの痛哭の抒情詩である本書は、インディアン復権

の書、さらには「アメリカ民主主義」への指弾の書でもある。(本書より引用)







アメリカ・インディアンたちのあいだには、部族やその地理的位置とは無関係に、

単一の宗教的概念があった。インディアンは、この世の有限なるもの無限なるもの

すべてが、すなわちある一つの普遍的存在から発するさまざまな表現にほかなら

ないのだ、と信じていた。その絶対的存在が人びとの道徳心と行為とに指標をあた

え、すべて生きるものたちの行動に動機をあたえていたのでる。その存在を人びと

は偉大な精霊と呼んでいた。多数のインディアン部族のあいだで調査を実施し、彼

らの言葉を研究した米国国立博物館のジョン・P・ハリントン博士は、あのモーゼに

話しかけた灌木のように、木が口を開いてインディアンに話しかけたとしても、その

インディアンは別に驚きはしないであろう、と言っている。インディアンは太陽を、彼

が崇拝する偉大な精霊の最大の象徴としてみなしていた。そして、自分の天幕小

屋の入口をかならず、太陽が朝まず最初に姿をあらわす、東の方角に向けて位置

させていた。インディアンは、しかし、ことさらに太陽を礼拝せず、また献身のため

の特定の日を設けたりもしなかった。彼の信仰は日常生活に融和し統合されて

いた。必然的にそうあらねばならなかった。なぜなら、彼の神は物みなのなかに

明白に現存しているが故であった。

(レッド・フォックス 本書より引用)







祈り(レッド・フォックス 本書より)


おお、偉大な精霊よ!

私があなたの領域に立ち入ることをお許しください。多分私がまだ私の限られた知能を

もってして人生の謎と取り組むなどということを差し控えるべきなのでしょう。しかし、私は

すでに百年を生きて、白人がこの大陸を征服するさまを目撃してまいりました。この大陸

は1492年の春には、あの幻の楽土アトランティス島のように白人世界から隔てられて

あったのです。それはまだ白人が、水の上に船をすすめるために風を使い、陸の上では

歩くか馬に乗るかしていたころのことです。白人が望遠鏡をあたえられ、重力の法則や

原子の神秘についても教えられる以前のことです。


精霊よ、あなたの領域に立ち入るについて私が疑問に思うのは、はたして白人はいま

まであなたからあたえられたさまざまな贈りものを正しい知恵をもって用いてきたのであ

ろうか、それとも彼は、それを単に彼が「進歩」と呼ぶものを達成する方便としてのみ用

いてきたのであろうか、ということです。もし、幸福こそ唯一の善であるとするなら、白人

はさまざまな利便やぜいたく品を所持することによってはまだそれを見出していません。

彼は昔荒野で馬に乗っていたころのほうが、ジェット機に乗って空をとびまわる現在より

も心が充ち足りていたのです。彼は世界を征服しました。しかし自分自身を征服してい

ないのです。


偉大な精霊よ、あなたはあなたがお創りになった土地の残りのなかからこの新しい大陸

を白人にお示しになりましたが、この大陸はいまや彼の貪欲な性質によって略奪されて

しまっているのです。彼はあなたの山々から金や銀を掘り出し、彼自らが呼吸している

酸素をつくりだすのに役立っている林や森を切り倒し、あなたの土地にはさし迫ったさま

ざまな災厄のもとに住んでいるいる人びとを充満させました。かつては清らかであった

流れも彼白人の廃物を海へと運ぶおおいのない下水にすぎなくなりました。そして、河口

周辺の幼稚園に群がり集まる海の生物たちは、内陸から流れてきた殺虫剤が原因で死

に絶えてゆきます。彼はいま沈黙しつつある春に直面しているのです。なぜなら、鳥たち

もまた、かつての原始的荒野に取ってかわった有毒な環境のなかで、消え去りつつある

からです。鳥たちは油にまみれ、波に運ばれて岸に漂着し、そしてその卵は大地を大気

をそして水を汚染する死の化学薬品によって、生殖力を失ってしまっているのです。


いまや真理に悲観主義が、予言に恐怖があるのです。あなたのお創りになったこの

世界にいま起こりつつあることは、おお偉大なる精霊よ、多分一つの陰謀なのでしょう。

人類の運命を予示する最後の災厄なのでありましょう。それとも、このように考えるのは、

いまやあますところなく完成してしまったこの世界に住む、もはや若くはない私という男の

苦い思いのゆえなのでもありましょうか。もし私たちの社会が、あのノーベル賞受賞生化

学のセント=ジェルジの信じているように、死に向かっているのだとするなら、この地上

における人類の生命の終結は避けられない運命です。しかし、この私は、人間には人間

自らが培った悪を克服するだけの知覚力と意志の力とが備わっているのだ、という希望

にしっかり取りすがっているのです。もし人間にその欲望さえあれば、人間は世界をつく

り直すことのできる技術をもっているはずなのです。体制に反抗する若者たちが無益な

自己宣伝癖にあがくことをやめて、その活力を、生存競争にとって肝要な目標に向ける

なら、それが可能かもしれないのです。


おお偉大な精霊よ、過去の知恵と、そして挫折の荒野に自己を見失う時間の無益とを、

白人の子どもたちにお教えてください。彼らに、真実と真実の友である諸徳とを崇めるよ

う、おすすめください。彼らに、大自然の単純さと驚異とを鑑賞する方法を、そして、愚か

しい残虐行為から自然の生命を守ることの必要性を、お教えください。そして、彼らの子

どもたちがやがて成人するとき、彼らの先祖たちを告発している闘争や戦争の破壊的な

無益へも、彼らの眼を開いてやってください。彼らの環境を傷つけてしまっているさまざま

な毒から、大気と水と土地とを開放させる処方を、彼らにおあたえください。


精霊よ、あなたはあなたの創造の手から、私たちインディアンの先祖たちに、二つの大洋

にかこまれたエデンの園をくださいました。私たちの先祖は彼らの眼と耳と思索とをもって、

あなたを崇めました。花や草の葉が彼らに語りかけ、木々のあいだを渡る風のバイオリン

の線のうえに、あなたのさまざまな歌が聞かれました。あなたによってこの大陸に置かれた

インディアンは、いま彼らの過去を嘆いています。彼らには、しかし、道徳と規律との強固

な背景があります。彼らを白人につくりかえようとした者たちをお許しください。そして、彼ら

インディアンの富である彼らの遺産を博物館のなかに葬ることなく、忘却に委ねることもな

く、いつまでも生気に満ちた力としてこの世の中に保ちお守りください。

これが私の祈りなのです!







コロンブスに大陸を「発見」されたばかりに、アメリカ・インディアンは、白人移住者たちに

虐殺され、土地を奪われ、居留地へと押しこめられてきた。インディアンを野蛮人とみなす

こと、それこそが、白人が自己の行為を正当化できた唯一の方法であった。<輝けるアメ

リカ建国史>とは、白人征服者たちによるアメリカ・インディアン迫害の血ぬられた歴史

だったのである。本書の著者・酋長レッド・フォックスは、1870年、スー族インディアンの

天幕小屋に生まれてから、一世紀におよぶ波瀾と忍苦の人生をおくってきた、「失われ

ゆく遺産」の歴史的証言者である。この回想録は、インディアン最後の勝利となったカス

ター将軍=第七騎兵隊との戦い、武器を放棄した数百人のインディアンが惨殺された

ウーンデッド・ニーの大虐殺をはじめ、自ら体験し、また叔父クレイジー・ホースから聞か

されてきた幾つもの戦いと、大平原に創られたインディアン独自の思想と文化について、

インディアン自らがはじめて語ったものである。酋長レッド・フォックスの数奇な生涯のモノ

ローグで、白い征服者との戦いの痛哭の叙事詩である本書は、インディアン復権の書、

さらには「アメリカ民主主義」への指弾の書でもある。(本書より引用)



Chief Red Fox(Photo: Ian Showell/Getty Images)

101歳の時の写真







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