「図説 シャーマニズムの世界」

ミハーイ・ホッパール著 村井 翔訳 青土社 より引用








シャーマニズムの偉構、図像、儀礼などから、シャーマンの衣装、

祭礼用具まで、シャーマニズム研究の第一人者が、自ら収集した

貴重な図版や写真資料に詳細な解説を加えた、シャーマニズム

研究の集大成。尚、本書に紹介されているのはシャーマニズム

発祥の地と言われているユーラシア大陸各地のものである。

(K.K)


1997.7/25 「インディアンの源流であるアニミズムとシャーマニズム」





「再興されたシャーマニズムは物質主義にとりつかれた、自己中心

的な現代の文化に、開かれた、利他主義のイデオロギーを対置

することに成功するだろう」   ミハーイ・ホッパール (本書より)


序論のエピローグ

これまで述べてきたことをまとめてみよう。シャーマニズムは単に

先史時代の脱魂の技術、宗教の初期発展段階、心理療法の現象

というだけにはとどまらぬ複雑な宗教体系である。この体系は信仰

と知識の両方を包括している。つまり、シャーマンの補助霊(シャー

マン神話の登場人物)を崇拝する精霊信仰と聖なるテクスト(シャー

マンの歌、祈祷、讃歌および伝説)を守り伝える知識とを。この体系

は脱魂の技術を習得するに際してシャーマンを導く諸規則も含んで

いるし、病気治療や占いのためにセアンスを行う際に必要とされる

道具類の知識も要求している。これらすべての要素が一緒になって

いるものと言えば、おおむね正しいだろう。


 


以下、本書より引用


当然ながらシャーマニズムにおいては、様々な起源をもつ諸要素が

混ざり合い、それらが併置されていることもしばしばである。たとえば、

私がサンクト・ペテルスブルグの民族誌学研究所の資料室で見た写

真では、シャーマンの墓の上に十字架が立ててあった。本書の図版

を見て、相いれないはずの要素が隣り合っている光景にぶつかって

も、読者は驚くにはあたらない。なぜなら開放性、一種な無批判な

混交こそシャーマニズム一般の特徴なのだから。



シャーマニズムが大宗教の布教者たちによる迫害を生き延びることが

できたのは、宗教体系として柔軟かつ開放的だったせいに違いないと

私は確信している。シャーマニズムは変化を受け入れ、ドグマというも

のをほとんど知らない。それだけに一段と大きな順応力を持っている

のだ。シャーマニズムはイスラム教、キリスト教、ラマ教、そして最後に

は共産主義によって繰り返された、力ずくで無慈悲な改宗の強制に

よって損なわれることはなかった。シャーマンは信仰のみならず、何よ

りもまず天職、社会的使命を持っているからである。私はシャーマニ

ズムが現代の行き過ぎた機械文明をも生き延びることを願わずには

いられない。そして人類が地球環境を取り返しがつかぬまでに破壊

してしまっても、シャーマニズムのメッセージを聞き取る人間を、たと

え一人でも二人でも地上に残してほしいと願わずにはいられない。

自然を敬いなさい、われわれの回りにある、目に見える、外なる自然

同様に、われわれ人間の、固有の、内なる自然を敬いなさいという

メッセージを。



シャーマニズムは目下、ルネサンスを経験しつつあり、それは様々な

形で現れている。一方ではシャーマニズムはそれが本来、民族文化

の一部であった地域で---それも長い沈黙と黙殺の後に---復活して

いる。そうした民族にとって、シャーマニズムは民族意識復興の重要

な、イデオロギー的基盤なのである。他方、都市部では現代と結びつ

いた、現代的で「都会風な」シャーマニズムが起こりつつある。ネオ・

シャーマニズムのこうした大衆運動については、すでに多数の図版

資料が集まっているにもかかわらず、本書で取り上げることはできな

かった。ここでは伝統的なシャーマニズムの文化遺産を紹介するに

とどめた。



再興されたシャーマニズムは物質文明にとりつかれた、自己中心的な

現代の文化に、開かれた、利他主義のイデオロギーを対置することに

成功するだろう。別の生き方、金のかからない自己療法、もう一つの

肯定的な生のプログラムを提供するだろう。韓国の大都会でも、北極

海のほとりに住むヌガナサン人やモンゴルのステップに暮らす羊飼い

たちにおいても、シャーマニズムは生きた現実である。もちろん、今と

なってはまず第一に「白装束に身を包み、白馬にまたがった」貴族的

な祭司=シャーマンを思い浮かべるわけにはいかない。他で生計を

立てるかたわら、病気治療にも携わるような、全く日常的な、貧困の

うちに暮らす人々が今日のシャーマニズムを支えている。奇妙に聞

こえるかもしれないが、彼らはわれわれの同時代人であって、われ

われ同様にラジオを聞けば、コーラも飲み、イワシの缶詰も食べる。

遠いタイガやツンドラで猟銃を使って狩りもするし、必要とあれば、

飛行機で旅行もする人々である。彼らの多くは写真やカセットテープ

は言うまでもなく、映画やビデオにも撮られているし、民族学、人類

学の論文にはもちろん登場している。なるほど彼らは例外的な人々

ではあるが、まぎれもなくわれわれの同時代人であり、その姿が

今日、記録されているにせよ、いないにせよ、今世紀の注目すべき

人物たちである。この書物は彼らのことを扱い、彼らの声を代弁する

ものである。       ミハーイ・ホッパール


 


目次

ドイツ語版まえがき

序論

シャーマニズムとは何か

シャーマニズムの起源

シャーマン神話

シャーマンの役割

シャーマンの人格特性

シャーマンのシンボルと道具

序論のエピローグ


1 太古の記念碑

2 18世紀、19世紀の図像

3 様々な民族とシャーマンたち

ウラル地方の諸民族

古シベリアの諸民族

テュルク系諸民族

モンゴルの諸民族

マンシュー・ツングース系諸民族

朝鮮

4 シャーマンのシンボル

衣装の象徴的意味

シャーマンのシンボル

シャーマン太鼓の象徴表現

ラップ人の太鼓

アルタイの太鼓

占い道具としての太鼓

ユーラシア・シャーマンの様々な太鼓

太鼓のばち

シャーマンの杖

シャーマンの木、世界樹

5 現代に生きるシャーマニズム


訳者あとがき

図版注

参考文献

索引

謝辞








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