「センス・オブ・ワンダー」
「沈黙の春」の著者 最後のメッセージ
レイチェル・カーソン著 上遠恵子訳 新潮社より
本書より引用
「子供たちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみち あふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄み きった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あ るときはまったく失ってしまいます。もしもわたしが、すべての子どもの成長 を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子ども に、生涯消えることのない”センス・オブ・ワンダー =神秘さや不思議さに 目を見はる感性」を授けてほしいとたのむでしょう。この感性は、やがて大 人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から 遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、 変わらぬ解毒剤になるのです。」 レイチェル・カーソン(本書より)
「沈黙の春」を執筆中にガンにおかされた彼女は、文字通り時間とのたたかい のなかで、1962年、ついにこの本を完成させた。「沈黙の春」は、環境の汚染 と破壊の実態を、世にさきがけて告発した本で、発表当時大きな反響を引き起 こし、世界中で農薬の使用を制限する法律の制定を促すと同時に、地球環境 への人々の発想を大きく変えるきっかけとなった。この本は初版後三十五年に なろうとする現在でもなお版を重ねているロングセラーである。彼女が発した 警告は、今日でもその重大さが失われていないばかりかさらに複雑に深刻に なってきている環境問題への彼女の先見性を証明している。レイチェル・カー ソンは、「沈黙の春」を書き終えたとき、自分に残された時間がそれほど長く ないことを知っていた。そして最後の仕事として本書「センス・オブ・ワンダー」 に手を加えはじめた。この作品は、1956年、”ウーマンズ・ホーム・コンパニ オン”という雑誌に「あなたの子どもに驚異の目をみはらせよう」と題して掲載 された。彼女はそれをふくらませて単行本としての出版を考えていたのであ る。しかし、時は待ってくれなかった。彼女は1964年4月14日に五十六歳 の生涯を閉じた。友人たちは彼女の夢を果たすべく原稿を整え、写真家チャ ールス・プラットやその他の人の写真を入れて、レイチェルの死の翌年、一冊 の本にして出版したのである。(本書・「訳者あとがき」より引用)
人間を超えた存在を認識し、おそれ、驚嘆する感性をはぐくみ強めて いくことには、どのような意義があるのでしょうか。自然界を探検する ことは、貴重な子ども時代をすごす愉快で楽しい方法のひとつにすぎ ないのでしょうか。それとも、もっと深いなにかがあるのでしょうか。 わたしはそのなかに、永続的で意義深いなにかがあると信じていま す。地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろ うと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてない でしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとにであったとしても、 かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこび へ通ずる小道を見つけだすことができると信じます。地球の美しさに ついて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き 生きとして精神力をたもちつづけることができるでしょう。鳥の渡り、 潮の満ち干、春を待つ固い蕾のなかには、それ自体の美しさと同時 に、象徴的な美と神秘がかくされています。自然がくりかえすリフレ イン---夜の次に朝がきて、冬が去れば春になるという確かさ--- のなかには、かぎりなくわたしたちをいやしてくれるなにかがある のです。 (本書より レイチェル・カーソン)
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