「コロンブスが来てから 先住民の歴史と未来」
トーマス・R・バージャー著 藤永茂訳
朝日選書 より引用
本書 訳者あとがき より引用
コロンブスのアメリカ「発見」によって始まった、南北両アメリカの先住民に対する 五百年の残虐の歴史は、まことにすさまじい。まさに「テリブル」である。このコロン ブスの影、ヨーロッパの白人たちの影は、黒々と今も南北のアメリカ大陸をおおっ ている。しかし、本書を読むことで、あらためて白人に対する怒りをたしかめ、白人 をさげすみ、それによって一種のカタルシスを、快感を味わうつもりならば、その人 は失望に終わるだろう。本書では、私たち日本人も「白人」の中に組みこまれて いるからである(本書第六章、第十一章)。インディアンに対する残虐行為の昔話 は読みあきた、映画でも見あきた、と思う人もあろう。ちょっと待っていただきたい。 本書の第九章を、とにかく読んでいただきたい。バルトロメ・デ・ラス・カサスが四百 五十年前に描述したインディアンの虐殺が、今、この私たちの時代に、グアテマラ の山中で進行中なのである。インディアンの苦境に同情し、インディアンを愛し、彼 らの「自然と一体」のミスティックな生活様式にほれこんだ人たちに対しても、本書 は、苦い薬を用意しているかもしれない。この著者は「先住民を愛し、いつくしめ」と は、ひと言も言わない。ただひたすらに「わが身を糾(ただ)せ」と、私たちに迫るば かりである。動物愛護の先頭を切ると自負する人たちは、まず第一〇章を開かれ るとよい。この本は、過去についての書物ではない。現在について、未来について の書物である。先住民について語る以上に、私たちについて語っている。問題は、 人権の問題である、と著者トーマス・バージャーは言い切る。本書の「エピローグ」 は、コロンブスの大陸「発見」五百年を機に綴られた、最も美しく力強い文章の一つ であろう。それは、四百五十年前のラス・カサスの言葉「人類は一つである」に呼応 する。トーマス・バージャーは現代のラス・カサスである。
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目次 第一章 ラス・カサスとインディアンの権利 第二章 バリャドリードでの論戦 第三章 疾病と死 第四章 インディアンと奴隷制・・・・ブラジルとカロライナ 第五章 同盟者としてのインディアン・・・・イロコワ族 第六章 ジョン・マーシャルとインディアン 第七章 インディアンに対する戦い・・・・合衆国とアルゼンチン 第八章 保留地・・・・カナダ、アメリカ、チリ 第九章 グアテマラ・・・・黒い伝説の再誕生 第十章 最後のとりで・・・・自足経済の存続 第十一章 先住民の所有主張と法の支配 エピローグ 各章についてのノート 訳者あとがき
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