「母なる大地の声」
アメリカ・サウスウェスト プエブロ・インディアンの美術
名古屋ボストン美術館 より引用
本書・あとがき(名古屋ボストン美術館 坂本伸子)より引用
プエブロの美術は、2千年以上昔から現代まで脈々と培われてきた、アメリカ美術 のなかで最も歴史のある美術のひとつです。今回の展覧会では、プエブロ土器を 中心に850年頃から現在までのプエブロ美術の流れをたどっています。土器に 表される一つ一つの形、色、そしてそれらが統合されて生まれる全体の構図は、 その歴史において、プエブロの人々が表現してきた生活と美的観念と信仰の表現 です。出品作品は、先史時代からのそういった伝統がしっかりと受け継がれ、現在 も人々の中に息づいていることをはっきり示しています。プエブロ美術を鑑賞する うえで重要なことは、プエブロ社会における美術の役割です。基本的に作品は作家 個人の表現としてよりも共同体の思想を伝えるために創られてきました。そのこと は土器だけでなく、バスケット、ジュエリーなど形態は変わっても同じであり、作品 に表現されるテーマは共通しています。それは、雨乞いと豊穣の祈りという、人間 の生存に関わる最も根源的かつ大きなテーマであり、抽象的・具象的文様を使っ て洗練された形で表現されています。さらに、展覧会のテーマのひとつであり、強調 したい点は、プエブロ美術をかたちづくられる背景です。プエブロ美術とは、自らの 存在を自然の一部としてとらえ、自然を変えるのではなく受け入れることを信条と する人々が創り出してきたものであり、人々は自然から採れる材料でつくられる 土器が単なる実用具や美術品ではなく、それ自体に魂が宿る存在と考えているこ とです。日本人もかつては、万物に精神性を感じ、自然を崇めかつ恐れ、自然を 対象にした季節の儀式を大切に繰り返してきました。しかし、いつの頃からか、 人々の考えは、自然を支配するものというように変わっていきました。21世紀を 目前にした今、プエブロに代表されるアメリカ・インディアンの思想が新たに評価 されています。先祖の残した教えを大切にし、自然のサイクルのなかで逆らうこと なく生きるインディアンの自然観・世界観は、過去を振返ることもなくあわただしい 日々を過ごす現代のわれわれに問いを投げかけます。
「スピリットの器」プエブロ・インディアンの大地から 徳井いつこ著 地湧社
プエブロ・インディアンと呼ばれる人たちが作る土器を通して語られる インディアンの精神世界と大地の美しい歌声。多くの陶芸作家の声 の中には大地への祈りと感謝が満ち満ちている。「私は、祈りの力 信じています。ええ、本当に信じていますよ、単純に。朝であれ、夜 であれ、それがいちばん主要なことです。野焼きのときは火に祈り、 採土のときは土に祈る・・・。祈ることは、それを感じることです。火を 感じ、土を感じ・・・地球のあらゆるものを感じることです」。本書は、 土器を通してインディアンの深い精神世界を垣間見させてくれる好著 であり、大地の豊かな恵みを肌で感じることが出来なくなっている私 たち文明人への感銘深い警鐘の書でもある。
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