「精霊の呼び声 アンデスの道を求めて」
エリザベス・B・ジェンキンズ著 高野昌子訳 翔泳社 より引用
(本書 訳者あとがき より引用)
本書は、著者エリザベス・ジェンキンズの魂の渇望から生まれた、精神世界への 冒険物語である。カリフォルニアの大学院で臨床心理学を学んでいたジェンキンズ は、学問で満たされない心の「渇き」を体験する。目に見える世界の彼方に、もう 一つの世界があることを直感した彼女は、本能に導かれるまま、南米ペルーの クスコへと移り住む。のっけからアンデスの呪術的世界に放り込まれた読者は、 インディオの儀式の闇に降臨する山の精霊、アプの魅力に取りつかれるに違いな い。著者とアプとの緊迫した駆け引き、アプの住む山への巡礼、仲間割れ、さらに アルゼンチンへと舞台を移す息をのむストーリー展開は、まさに冒険小説顔負け の迫力に満ちている。アンデスの土着信仰に根ざしたアプとは、呪術師の起こす まやかしか、それとも現実か。聖なる秘物コズミック・プレートは、中世騎士伝説 に登場するあの聖杯なのか・・・・。数々の謎を秘めたまま、物語はいよいよ「アン デスの道」の秘儀を明かす後半へとなだれ込む。本書の舞台の中心となるクスコ 市は、16世紀にスペイン人に征服されるまで、インカ帝国の首都として繁栄の歴 史を宿している。町のそこそこに、インカ時代の石組みが顔をのぞかせ、近郊には 世界に名だたる遺跡が散在する。インディオが大地の臍、すなわち「コスコ」と呼ぶ この都市は、アンデスの呪術的エネルギーの集約する中心点にほかならない。西 欧合理主義の教育を当たり前のように受けてきた著者が、疑い、悩み、戸惑いつ つも呪術的世界を受け入れていく過程は、精神世界の新たな地平めざして飛び立 とうとした経験のある読者には、深い共感を呼び起こすかもしれない。後半に登場 する「アンデスの道」の案内人、ファン・ヌニェス・デル・プラドは、父親のオスカル・ ヌニェスとともに、インディオの研究で知られる実在の人類学者である。ファンは研 究調査の途上で情報提供者として紹介された老呪術師、ドン・ベニート・コリワマン と出会い、呪術の世界に開眼してその弟子となった人物だ。著者ジェンキンズは 「呪術師」ファンによって、闇の精霊の跋扈する迷妄の世界から救い出され、アメ リカから連れてきた仲間とともに、古代インカ人の透徹した世界観に裏打ちされ た、アンデス呪術の真髄を開示されるのである。現在クスコ市には、さまざまな 位階に属する呪術師がおり、民間療法や占いに頼るインディオたちには、なくて はならない存在になっている。近年では、精神世界に興味を持つ国内外の人た ちが、アンデス的世界への入り口としてクスコに注目するようになってきた。いわ ゆる神秘観光の市場が裾野を広げるにつれて、外国人観光客に瞑想や儀礼の 場を提供する動きが、呪術師の世界にまで波及してきていることも事実のようで ある。しかし、本書の中の呪術師たちは、観光市場とは無縁の世界に生きてい る。特に今は亡きドン・ベニート・コリワマンは、カルロス・カスタネダの著作に登 場ヤキ・インディアンの老呪術師、ドン・ファンを彷彿させる奥深い魅力をたたえて いる。ファンが初めてドン・ベニートを訪れ、土産の酒を酌み交わしながら不思議 な交流をおこなった話、『ナショナル ジオグラフィック」誌の記者を前に、ドン・ベ ニートが見せた驚くべきわざなどは、カスタネダの呪術的世界に魅せられた読者 には垂涎のエピソードかもしれない。「アンデスの道」の背景には、高度な精神文 化を築いたインカ帝国の復活という予言が秘められている。ファンによれば、それ はアンデス的文脈、すなわちインディオの土着信仰に限定された意味での復活 ではない。人類の発達した意識が大自然のエネルギーと一つに結びつき、この 世界を新しい理想郷へと導く一大変化の、いわばその震源が「インカ」なのであ る。
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目次 第1部 パチャママの呼び声 第1章 山の精霊 第2章 アンデスの呪術師 第3章 オージェイ山での儀式 第4章 バースデーパーティー 第5章 巡礼 第6章 コズミック・プレート 第7章 クラック・アクリク・・・・第4レベルの呪術師
第2部 ハトゥン・カルパイ・・・・大いなるイニシエーション 第8章 インカの種子 第9章 プトゥイ・・・・芽生え 第10章 ウィニャイ・・・・開花 第11章 パチャママ・・・・母なる大地 第12章 ウィルカニュスタ・・・・黒い光の王女 第13章・・・・死の神殿 第14章 インカ・マリュク・・・・第五のレベル 第15章 インカの復活
エピローグ・・・・インカリの神話 用語解説 訳者あとがき
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