「大いなる語り グアラニ族インディオの神話と聖歌」

ピエール・クラストル著 毬藻充訳 松籟社 より引用


 






アマゾンの奥地に住むグアラニ族の人々。神から選ばれてこの地に生き、そしていつの

日か神の懐へと昇っていくため、その試練の道を何千年もかけて守り続けている人たち。

部外者には殆ど語られることがなかった彼らグアラニ族の人々の聖歌と神話は実に深く、

その普遍性はインディアンのホピ族に伝わるものと匹敵するであろう。著者クラストルは

フランスを代表する人類学者の一人で、その思想はドゥルーズ、ガタリに多大な影響を与

たと言われるが、1977年に交通事故により死去してしまう。ただ訳者も書いているよう

に、クラストル自身が解説した部分は「ごつごつした文脈のぶっきらぼうさ」があり、読み

づらいところがあるのがとても惜しまれる。

(K.K)


 




Pierre Clastres (1934-1977)


本書 序論 より抜粋引用


〈美しき言葉〉・・・・グアラニ族のインディオたちは、自分たちの神々に訴えるために

役立つ言葉を、このように名づけている。それは美しい言語であり、大いなる語りで

あり、神々の耳に心地よく響く言葉、神々が自分たちにふさわしいと評価する言葉

である。霊感を受けたシャーマンがこの言葉を発するとき、その口には厳粛な美しさ

があり、シャーマンに耳を傾ける男たちや女たちの心には、その言葉の格調の高さ

に陶酔が広がる。これらのネエン・ポラン・・・・〈美しき言葉〉・・・・は、いまでもまだ

最も秘境の原生林にこだましている。そこには、いつも自分たちのことをアヴァ・・・・

〈人間〉・・・・と呼ぶ者たちがおり、こう呼ぶことによって自分たちを人間性の絶対的

な受託者であると断言する者たちがいる。彼らは、それゆえ自分たちが正真正銘の

人間であると主張しているわけであり、途方もない英雄的な傲慢さで、自分たちのこ

とを神々に選ばれた人間である、神の印を刻まれた人間であると主張しているので

ある。そしてまた彼らは、自分たちのことをジェグアカヴァ・・・・身を飾った者・・・・とも

言うのである。彼らの頭に飾られている冠の羽は、神々の栄光を讃える踊りのリズム

に乗ってかすかな音を立ててざわめき、この冠は、偉大なる神ナマンドゥの燃えさか

る頭髪を再現するのである。


グアラニ族とは、いったい何者であるのか? 16世紀の初頭には、その諸部族は数

十万の人びとを擁していたが、もはや今日では、その大民族の没落だけしか残されて

いない。たぶん5〜6000人のインディオがいるだけである。彼らは小さな集団にばら

ばらになり、白人の世界から離れたところで生存しようと試みている。彼らの生活は何

と奇妙なものだろうか。彼らは焼畑で農業を営み、彼らの生存は、庭にできるキャッサ

バとトウモロコシのおかげで、どうにかこうにか成り立っている。そして金銭が必要にな

ると、彼らは、その地方の裕福な素材生産者に手を貸す。そして望みの金額を手に入

れるのに必要なだけの期間が経過すると、彼らはまたひっそりと、森林の奥に通じる狭

い小道へと姿を消していくのである。なぜなら、グアラニ族インディオたちの真の生活が

繰り広げられるのは、白人の世界の周辺部においてではなく、そこからはるかに遠い

場所だからである。そこには、いまなお古代の神々が君臨し続け、大いなる語りには縁

のない冒涜者の眼差しのために、彼らの儀式の威厳が損なわれる恐れなど何ひとつ

ないのである。


これほど激しく生きられる宗教心、伝統的祭式へのこれほど深い愛着、そして自分た

ちの存在の聖なる部分を秘匿しようとするこれほどまでに張りつめた意志、こうしたも

のを示す民族は、他にほとんど例がない。宣教師たちの、ある時は狡猾に才け、ある

時は粗野な企てに対して、彼らはつねに尊大な拒否をもって対峙する・・・・「あなたた

ちは、あなたたちの神を持ち続けたまえ。われわれには、われわれの神がいる!」。

彼らの宗教的宇宙は、彼らの生きかたの源泉そのものであり、目的そのものである。

彼らはこの宇宙をあらゆる穢れから守ろうとするのであり、この気遣いはあまりにも

強固であったため、はくじんの世界は、つい最近まで、この未開と呼ばれる世界につ

いて、その思想について、まったく何も知らなかったのである。この思想をより見事な

ものにしているものが何であるのか、この思想が持っている厳密な意味での形而上学

的な深さがどれほどであるのか、あるいはこの思想を述べる言語の壮麗な美しさがい

かなるものであるのか。グアラニ族は、自分たちの信仰の体系のまわりに途方もない

沈黙の壁を張り巡らしており、宣教師たちの執拗なまでの熱意も、決してこの壁を揺り

動かすには至らなかった。グアラニ族が、この沈黙の壁に穴を開けることに同意する

ためには、一人の〈白人〉を待たねばならなかった。この〈白人〉が、彼らから無条件

の信頼をかち取ることができ、そこに大いなる友情が芽生え、そしてそれが獲得され

る必要があった。この友情は、インディオたちと、パラグアイ人レオン・カドガンとの出

会いから生まれたものであった。彼らの友情は年月が流れても決して弱まることはな

く、それに終止符が打たれたのは、グアラニ族が、われらの炉の場所に自分の場所を

持っている、われらの真の道連れ、と呼んでいた者に死が訪れたことによってでしか

なかった。それは昨年のことであった。非常にまれな知的寛大さを備えたこの男性は、

われわれに友情にあふれた好意を示してくれた。そのおかげで、われわれはグアラニ族

の賢者たちと面会することができた。 (以下略)


アマゾン・グアラニ族・・・マルカル・チュパの詩を参照されたし




朝の讃歌


わが父よ! ナマンドゥよ!

あなたは新たにわたしを立ち上がらせる!

同じくあなたは新たに

ジェグアカヴァ族を立ち上がらせる

身を飾っている男たちすべてを。

そしてあなたは彼女たちもすべて

新たに立ち上がらせる

ジャチュカヴァ族、身を飾っている女たちすべてを。

そしてあなたが決してジェグアカを与えなかった者たち

そのすべてもまた、あなたは新たに立ち上がらせる。

そして、ほら、私は問いかける

身を飾っている者たちについて

身を飾っていない者たちについて

これらの者たちすべてについて。


カライ・ル・エテよ、それでもあなたは

これらすべてについて少しも言葉を発してくれない

わたしに向かっても

いかなる卑劣さによっても損なわれない

不滅の大地

永遠の大地

そこに住むように定められた

あなたの息子たちに向かっても。

われわれの力の未来の規範が宿っている言葉

われわれの熱の未来の規範が宿っている言葉

あなたはそれらを発してくれない。


なぜなら、本当は

わたしは不完全な仕方で存在しているからだ。

わたしの血は不完全なものである

わたしの肉は不完全なものである

わたしの肉はおぞましきもの

わたしの肉にはどんな素晴らしさも欠けている。


ものごとはこんな具合になっているので

不完全なわたしの血が身を震わせ

不完全なわたしの肉が身を震わせ

その不完全さを遠くに投げ捨てるために

勇敢なる心を目ざして

わたしは膝を折り

わたしは頭を下げる。

それなのに、ほら、あなたは言葉を発してくれない。


だから、これらすべてのために

わたしは

力の未来の規範の言葉

勇敢なる心の未来の規範の言葉

情熱の未来の規範の言葉

わたしはあなたの言葉を必要としている

もちろんこれは少しもむだではない。


あらゆるものごとのなかで

もはやわたしの心に価値を吹き込むものは何もない

わたしの存在の未来の規範に向かって

わたしに合図するものはもはや何もない


そして不吉な海、不吉な海

あなたは

このわたしがそれを渡るようにしてくれなかった

そのためである、本当にそのためである

もはやわたしの兄弟たちが少数しか残っていないのは

もはやわたしの姉妹たちが少数しか残っていないのは。


ほら、ここに少数の者が残っていることについて

わたしはわたしの嘆きを聞いてもらおう。

彼らについて、わたしは新たに質問する

なぜならナマンドゥが彼らを立ち上がらせるからだ。


ものごとはこんな具合になっているので

立ち上がる者たちのすべては

自分たちの未来の食糧に目を向けている

そして彼らが未来の食糧に目を向けることによって

彼らすべては存在する者たちになる。


あなたは彼らの言葉を羽ばたかせる

あなたは彼らの問いかけを鼓舞する

あなたは彼らすべてから

大いなる悲嘆の声を舞い上がらせる。


だが、ほら、わたしは、

わたしの努力で立ち上がっている

それなのに、あなたは言葉を発してくれない

そう、本当にあなたは言葉を発してくれない。


だから、カライ・ル・エテよ

ほら、これがわたしの言いたいことだ

かつてあなたは

彼らが本当に問いかけるようにしたのだ

少数ではなかった者たちに

いかなる卑劣さによっても損なわれない

不滅の大地

永遠の大地

そこに住むように定められた者たちに

そこにいるすべての者たちに

彼ら自身の存在の未来の規範について。

そしてきっと

彼らはかつてそれを完全に知ることができたのだ。


そして、わたしについて言えば

もしもわたしの本性が

いつも通りの不完全さから解き放たれるとすれば

もしもわたしの血が

昔からの不完全さから解き放たれるとすれば

それはきっと

悪しきものごとからではない

不完全なわたしの血が身を震わせ

不完全なわたしの肉が身を震わせ

それらの不完全さを

遠くに投げ捨てるからである。


だからあなたは

いかなる印によっても

分割されていない顔を持った者に向かって

たっぷりと言葉を発してくれるだろう

超越した魂の言葉を。

おお! カライ・ル・エテよ、カライ・チ・エテよ

あなたはいかなる卑劣さによっても損なわれない

不滅の大地

永遠の大地

そこに住むように定められた者たちすべてに向かって

たっぷりと言葉を発してくれるだろう

あなた、あなたたちよ!


 


目次

序論


第一部 永遠の時間

第一章 ナマンドゥの出現・・・・神々

第二章 〈言葉〉の基礎・・・・人間

第三章 最初の大地の創造

第四章 黄金時代の終わり・・・・大洪水


第二部 不幸の場所

第五章 イウイ・ピアウ・・・・新たな大地

第六章 双子の冒険

第七章 火の起源


第三部 最初の〈身を飾った者たち)であった者たちの最後の者たち

第八章 美しく身を飾った者たち

第九章 万物はひとつである

第十章 わたしは不完全な仕方で存在する


訳者あとがき








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