「21世紀に残したい沖縄の民話 21話」

文・遠藤庄治 絵・安室二三雄

琉球新報社




沖縄各地から聴取した七万話の民話の中から、沖縄県民の方たちが選んだ21話を紹介

し、それぞれの民話の背景を詳しく解説している。子供たちにとって読みやすい絵本に

仕上がっており、この民話が出来た背景を知ることによって、より深く沖縄の文化や生活

を感じることが出来るかも知れない。

2000年9月10日 (K.K)

「魅せられたもの」1997.6.20 「霊的な戦士」を参照されたし





ハブの恩返し

(本書より引用)


むかしは、とうふを作るときは、海の水でとうふがかたまるようにした。あるとき、

ひゃくしょうの女の人がとうふを作るために海にしお水をくみに行った。ておけに

しお水を入れ、それを頭にのせて帰ってくると、近くのアダンの林の中からパチ

パチという音がした。「なんだろう。」 けむりが上がり、いきおいよくアダンのかれ

はがもえるほのおが見えた。「かじだ。今のうちにけさないとたいへんなことにな

る。」 女の人はしお水を入れて重くなったておけを持ってかけだした。もえてい

る火のまん中にはとても大きいハブがいた。そのハブは、もうすっかり火にかこ

まれてにげることも出来ないでいた。「さあ、助けてやるからね。これからは悪い

ことをしたらだめだよ。」 女の人は頭にのせていたおけの中のしお水をザザァ

とかけて火をけした。女がもういちど海からしお水をくんで帰ってくるときには、

そのハブのすがたは見えなかった。ある日、その女の人があかんぼうをつれて

いもをほりに、はたけに行くとあかんぼうが泣いてばかりいた。そばに行って

だいてあやしてやると泣き止むのだが、はなれていもをほりはじめるとまた泣

き出した。女は仕事がはかどらないので困ってしまった。それで、仕方がないの

であかんぼうが泣いていても、かまわずにいもをほっていた。するといつのまに

かあかんぼうが泣かなくなった。それどころか、あかんぼうはニコニコ笑ってい

た。「まあ、どうしたんでしょう。あんなに泣いていたのに、こんどは一人できげ

んよく笑ったりして。」 あかんぼうのところに行って見ると、あかんぼうのそば

には大きなハブがいた。あわてて、ハブをおいはらうぼうをさがしたが見つから

ない。あかんぼうがまた笑っているので、もういちど見るとあかんぼうは、ハブ

の首のところをギュッとつかんで、ハブのしっぽが目の前でゆれるたびに笑い

声を上げているのだった。それは、この前かじになったときに助けたハブだっ

た。ハブは助けてもらったお礼にあかんぼうのお守をしていたのだった。女が

あきれて見ていると、ハブがいった。「ごおんがえしに、あんたにハブにかまれ

ないまじないをおしえてやろう。ハブにあったり、ハブがいそうなところに行った

ときは、ひといきで、しおくみのしそんだよ。水くみのしそんだよ。上の道をとおっ

たら下の道をとおれ、下の道をとおったら上の道をとおれ、ジュホー、ジュホー

と三回いってください。そう言えば、決してかまれないでしょう。」 女は、それか

らどんなハブが多いところでもハブにかまれたことがなかった。ハブの首は、

このときあかんぼうに強くつかまれたから細くなっているのだそうだ。


 
 


解説(本書より)


動物が恩返しをする話を「動物報恩譚」という。恩返しをする動物としては、牛、馬、

犬、狐、鼠、鶏、金の鳥、メジロ、雀、雲雀、烏、蚊、ヤドカリ、蛙、魚、亀、鮫、龍、猫

など様々な動物が登場する。このハブが恩返しをする話型は沖縄本島の大宜味村

のほかに、名護市、恩納村、具志川市、読谷村など主に沖縄本島の中北部で聴取

され、離島では伊平屋島で聴取されている。また、ハブが赤ん坊のお守りをする話

は久米島にも伝えられている。すなわち、この話型と類似の話型は、ハブの住む島

にしか伝えられず、ほとんどの話は、恩返しとしてハブ除けの呪文を教える内容に

なっている。なお、ハブに関する話が最も多いのは渡名喜島である。ハブは怖がら

れるだけではなく、神の使いとして敬われる場合もあった。また、ハブは人に見られ

ないで長生きすると、天に昇って龍になるという話が沖縄の各地に伝えられている。








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