「シャーマンの弟子になった民族植物学者の話 上下巻」

マーク・プロトキン著 屋代通子訳 築地書館 より引用


 







著者紹介 マーク・プロトキン


1998年12月14日付けの(タイム)誌上で「地球を救う英雄」と称された民族植物学者

マーク・プロトキン博士は、過去15年にわたり中南米地域で古くからの伝統を受け継ぐ

シャーマンに教えを乞い、病を癒す植物について学んできた。ハーヴァート、イェール、

タフツの各大学で民族植物学を修め、ハーヴァート大学植物学博物館で民族植物学伝

承保護の研究助手を務めた後、世界自然保護基金の植物保護部門責任者、ワシントン

のコンサベーション・インターナショナル副代表を歴任。現在はスミソニアン研究所の植物

学部門で研究員を務めるかたわら、民間非営利団体(NPO)のアマゾン・コンサベーション・

チームの代表として活躍している。アマゾン・コンサベーション・チームとは、熱帯雨林の

豊富な生態系と奥深い文化を守ろうとする組織である。プロトキン博士はこれまで数多く

の論文を発表しており、1994年にはサンディエゴ動物園から自然保護活動の功績を称

えられ、金メダルを授与されている。これまでにも、動物学者のジェイン・グドール、英国

の科学番組で知られる俳優のサー・デイヴィッド・アッテンボロー、世界自然保護基金

総裁エジンバラ公フィリップ殿下などが受賞している名誉ある賞である。プロトキン博士

の仕事ぶりは、全米公共テレビPBSのノヴァ・シリーズやエミー賞を受賞したフォックス・

テレビのドキュメンタリー番組として紹介されている他、ニュースでも、NBC、トゥデイ、CBS

などで報道されている。さらにはライフ、ニューズウィーク、スミソニアン、エル、ピープル、

ニューヨーク・タイムズなど新聞雑誌で取り上げられたほか、ナショナル・パブリック・ラジオ

でも放送された。英語版は現在15版を重ね、英語のほか、オランダ、ドイツ、イタリア、スペ

イン各国語で出版されている。プロトキン博士が主演したIMAX映画「アマゾン」は1997年

の末に公開され、アカデミー最優秀短編ドキュメンタリー賞の候補となった。

(本書より 抜粋引用)


 


(本書 序 リチャード・エヴァンズ・シュルツ博士 ハーヴァード大学植物博物館 より引用)


1941年から1953年までの13年間アマゾンに住みつき、1954年以降はほぼ年に

一度のわりでかの地を訪れてきたわたしは、学者としての時間の大半を、熱帯雨林と

そこに住む人々に捧げてきた。熱帯雨林は非常に独特の魅力をもち、かつ、とても複

雑な世界である。そしてまた、わたしたちの住むこの惑星の上でもとりわけ美しい場所

だ。そのアマゾンについて、われわれがなかなか理解できない領域は多々あるが、

そのひとつが、森のインディオと植物の緊密さだ。しかし異文化と接触していない先住

の人たちは、純粋に科学的な調査に対して、しばしば非常に関心を示し、喜んで協力

しようとしてくれる。インディオの「奥義」、ことに動植物に関する神秘的な知識は、無

理やり聞き出さなければ決して明かしてもらえないと広く信じられているけれでも、そ

れはだいたいにおいて誤った思い込みだ。マーク・プロトキンは、きわめて誠実な態度

で現地の人に接している。彼はまた、インディオを信頼してともに働くことのできる人物

だ。「シャーマンの弟子」が傑出した作品になっているのは、まさにこのマークの人柄

に負うところが大きい。マークは1970年代の終わりにはじめてアマゾン流域に足を

踏み入れたが、その時点では本を書こうというもくろみはなかった。彼を派遣したの

はわたしで、アマゾン北西部で民族植物学の現地調査を行ない、熱帯雨林に住む

人々が、熱帯雨林の植物をどのように利用しているか、記録してもらうことが目的だっ

た。インディオから学ぶ気持ちをもったマークは、首尾よく植物を採取しただけでなく、

儀式や祭礼などにも参列させてもらい、他所者にはめったに味わえない経験をするこ

とができた。民族植物学者として、マークがとりわけフィールド調査に優れているのは、

ひとつには、ひとたびインディオの中に入れば自分は生徒であり、インディオが教師で

あることをきっちり認識していればこそだ。この本について、特に指摘しておきたい魅力

がふたつある。何千年来アマゾンのインディオたちに受け継がれてきた先祖伝来の暮

らしを、ほぼそのままの形で見ることのできる民族植物学者は、マーク・プロトキンの世

代で最後になるだろ。植物性の毒を塗った矢を番えた弓を持つふんどし姿の男たちと

獣を追って森を駆け抜け、椰子の葉を葺いた小屋で病人を癒す呪医に出会い、女た

ちががりがりとカッサバを挽く音が村じゅうに響き渡り----こうした情景や背景音は、

チャールズ・ウォータートンやアルフレッド・ラッセル・ウォレス、ロベルトとリヒャルトの

ションバーク兄弟といった、19世紀の博物探検学者たちの手記を髣髴させる。マーク

はこの懐かしい風景を、現代の読者の前に心憎いまでに生き生きと描きだしてみせて

くれた。もうひとつの魅力は、著者であるマークが、飛び抜けた歴史観をもっていると

いうことだ。わたしはかねがね、文明化の歴史は有用植物の歴史の観点から捉える

ことができると考えていたのだが、この点に着目した歴史学者はほとんどいない。フラ

ンスの昆虫学者、J・H・ファーブルは「本能のふしぎ」の中で次のように書いている。


歴史学は死の舞台である戦さの野にばかり脚光を浴びせ、われわれが糧を得るべく

耕す野には言及しようともしない。国王の庶子たちの名前ならいくらでも挙げられのに、

小麦の原種の名は知らないのだ。


「シャーマンの弟子」を世に問うには、いまが絶好の時期であろう。環境がとてつもない

勢いで破壊され、人口が目の回るような勢いで増えつつあることを考えると、熱帯雨林

と、その周辺に暮らす人々のこわれやすい文化を保護するためには、少なくとも今世紀

末までになんらかの手を打たなくてはならない。作家としての才能と科学者としての洞察

力に恵まれた著者の手になる魅力的な本書は、熱帯雨林保護のために大きな役割を

果たすことだろう。マークは、熱帯雨林とそこに住む人々が存在することの意味の重さ

を、人の心を動かさずにはおかない、痛切な言葉で訴えかけている。したがってこの本

は、植物学、民族植物学のみならず、人類学、熱帯医学、シャーマニズム、そして熱帯

地方の環境保護に関心のある方ならどなたにも読んでいただきたい傑作となっている


 


目次

上巻

謝辞

第1章 エメラルドの扉を開けて

第2章 ブラック・カイマンを探して

第3章 マルーン族とともに

第4章 二重の虹の下で

第5章 毒の製法

著者紹介


下巻

第6章 シパリウィニのサバンナの彼方

第7章 ワヤナ族の呪医

第8章 太陽の種子

第9章 クワマラに還る

特別附録「本書に登場する植物名解説」

索引

著者紹介








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