チェス思考に学べ!―チェスの十五大原則に学ぶビジネスと人生の戦略

ブルース パンドルフィーニ著 田村英男 訳 岡山徹 監訳 バベル・プレス より引用




はじめに(本書より引用)


チェス盤上の局面は単純にも複雑にもなります。しかし、どちらにせよ、それはたいした

問題ではありません。ある一人のプレーヤーがいて、自分が勝つと思っています。そして、

対戦相手も同じように考えています。両方とも正しいなんてありえるでしょうか。原子物理

学者のニールス・ボーアがいっています。「ある重大な真実の反対側には、もうひとつの

重大な真実がある」と。チェスの一手一手には、それがよく表われています。敵に狙われ

るキングが武器になることもありますし、弱いポーンがはるかに強いクィーンを攻撃する

ときもあります。さらにポーンは自分がクィーンになるケースさえあるのです。私たちには、

先を予測する能力があります。しかしそれには簡単な法則があるようです。それがあては

まらない場合もありますし、うまくあてはまったとしても、例外もあります。だから負けてしま

うのです。しかし、ある瞬間、すばらしい一手がひらめいたとしたら・・・・? 引き分けに持

ち込まれないかぎり、あなたは勝つでしょう。チェスがおもしろくないと思う人は、たいてい

何かひとつくらいのケチをつけます。たとえば、少ないはずが多くなったり、遠いのが近く

なったり、後手が先手になったり、などです。チェスのプレーヤーは有効だと思う手の両方

の側面を考慮し、意表をつくような法則に基づいて指します。彼らはダイアゴナルに、つま

り敵の裏をかくように考えるのです。チェス盤上の同じ色のマスが並ぶ斜めの列をダイア

ゴナル・ショートカット(敵の裏をかく簡単な方法)といいます。適切なダイアゴナル・ショー

トカットさえ使えば、他のどんな手段を使うよりも早く展開に持ち込めます。小さな可能性

を探すために、プレーヤーはダイアゴナルに考えます。先入観にとらわれて戦術を限定した

りしないのです。機知に富み、鋭い観察力を持ち、柔軟性があり、想像力豊かで、でも現実

で・・・・。プレーヤーたちは何もないところから何かを作り出し、また非常に複雑な状況もこ

れ以上削れないほどシンプルなものにできるのです。10代のころ、私はかつてのウォール

街のブローカーだったハリーの教えを受けました。ハリーはあらゆるものに対して格言めい

たことをいい、たいていは的を射ていました。しかし、ハリーは、自分がいった教訓を他の誰

かがまねると、即座にそれとは反対のことをいったものです。ハリーがいいたかったのは、

どんな問題にも少なくともふたつの側面があるということです。我々の大半が、あてはまって

もあてはまらなくてもそれと同じ原則に基づいて行動しています。しかしときには、片方だけ

が受け入れられて、もう片方が排除される場合もあります。ハリーはチェスを教える際、ウォ

ール街での経験から学んだことを取り入れていました。「すべてを検討しようとは思わず、

重要なものに的を絞りなさい」そういっていたものです。長年、市場の変動にもまれてきた

だけに、ハリーの教訓は理論的で鋭く、逆境とうまく付きあうこと、敗北から立ち直り、自分

の目標をもう一度設定することが大切だと教えてくれました。当然の流れとして、私はハリー

の多彩で巧妙なチェスの法則を逆にしてみようと考えました。すると、同じようにうまくいった

のです。イニシアチブをとれ、計画性をもって行動せよ、ライバルの動向に目を配れ、人材を

ムダにするな、小さなアドバンテージを求めよ、などチェスの法則はビジネス界にも的確な

提言をしています。ビジネスやチェスの世界で成功したいと思うなら、この提言に従わなけ

ればなりません。必要な能力はどちらの世界でも似たような言葉で表現できます。この本

は、チェスの15大原則を研究するためのエピソードとその考察からなっています。また、

チェスの歴史上、極めて偉大なプレーヤーたちの見識も盛り込みました。チェスの域を超え

て、あなたの人生におおいに活用してください。チェスプレーヤーの仕事とは、明白さとあい

まいさの両方を自在に操ることです。その法則はとらえどころがないと同時に明快です。

しかし、チェスは単に裏腹なゲームというだけではなく、そう、まさにビジネスのような戦い

でもあります。どんなゲームでも重大な真実は動かしがたい真実なのです。チェスとビジネ

ス。両者がこれほど似ているのでなければ、ふたつの世界はもっと違うものになっていた

かもしれません。また、成功のための法則がこれほど簡単でなければ、いずれの世界でも

成功するのは難しいでしょう。ひとつの真実を、そしてさらにもうひとつの真実を見つけてく

ださい。


 


ロバート・バーン(Robert Byrne) 対 ボビー・フィッシャー(Bobby Fischer)

USA Championship 1964

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以下、「チェス思考に学べ! チェスの十五大原則に学ぶビジネスと人生の戦略」

ブルース パンドルフィーニ著 より引用




ニューヨークのヘンリー・ハドソン・ホテルで行なわれた全米チェス選手権は、アメリカで最強のプレーヤーを

決める大会でした。その3回戦、ボビー・フィッシャー(1943年〜)が自信にとっても決して忘れられないゲームを、

ニューヨーク・タイムズ紙のチェスコラムニストであるロバート・バーンを相手に始めようとしていました。



私はトーナメントの期間中、1963年の12月から1964年の1月まで、会場で、ウォール・ボーイとして働き、観客が

ゲーム展開を追えるよう、壁に取り付けた大きなチェス盤上で駒を動かしていました。その日、幸運の女神が私

に微笑みました。私はフィッシャーとバーンの息をのむようなゲーム展開をとても近くで、じっくり味わうことがで

きたのです。



フィッシャーは、12手めでセンターに駒を進め、駒のトレードを誘いました。プレーヤーが行なうトレードは、同じ

価値、もしくは似たような価値の駒同士で行なわれます。好ましいトレードとは、通常、これ見よがしであれ、地

味であれ、アドバンテージに結びつくものです。プレーヤーは問題を解決するためにトレードを行なうのです。

また、時間をかせいだり、スペースや駒の機動力やキングの安全さを確保するために、もしくは、その他にも

戦局を好転させるためにも行ないます。



フィッシャーが誘ったトレードを多少まずい手のように思った人もいたでしょう。フィッシャーは、攻撃の体制を整

えましたが、同時に敵の攻撃のターゲットとなるような危険なポーンを抱えてしまいました。さらに15手めにフィッ

シャーは、「死の谷」へと踏み込んでいきます。ポーンの代わりにナイトを犠牲にしたのです。今度は駒を犠牲に

し、フィッシャーはもう一度攻撃に備えました。チェスの基本原則を守らず、確かな理由もなしにサクリファイスし

たかのように見えました。



しかし、フィッシャーはまたしてもチェスの原則を無視するつもりだったようです。わずか3手後、バーンのルーク

を取って駒やポーンの数を増やせたのに、フィッシャーはルークではなく、なぜか、ビショップを取ったのです。こ

れは、敵の裏をかくすばらしい戦略だったのでしょうか? それとも言語道断の手だったのでしょうか?



部屋中に漂う、はっとしたような雰囲気が後者と物語っていました。結局ルークはビショップよりもポーンふたつ

分の価値があるのだから、ポーンと引き換えにナイトを犠牲にして失った戦力を奪回するために、フィッシャーは

ビショップではなく、ルークを取るべきだったのです。私たちの多くが、次はどんなふうに原則を無視するのだろう

と考えました。



こうした不可解な動きのあと、フィッシャーは持ち駒だけを見ると、明らかにポーンふたつ分、劣っていました。

フィッシャーは、自分が取ったビショップが前に守っていたマスへとクイーンを進めましたが、何をやっても駒の

不足を補えるほどの有効な手があるとは思えません。フィッシャーが苦戦している。それを疑う者はほとんど誰

もいませんでした。



黒・フィッシャー

白・バーン



これは後日談ですが、近くの部屋である議論が行なわれていたと知りました。そこは、ゲームの進行を妨げずに、

マスターと呼ばれる強豪プレーヤーとうるさ方の見物人がゲームを分析できる場でした。二人のグランドマスター

が、フィッシャーは万事休すだと断言しました。駒も戦術も捨ててしまったのですから、敗北は決定的だと。そして

おそらくバーンが次の一手を指した後で、フィッシャーはリザイン(チェック・メイトの前に負けを宣言すること)する

だろう、と。



ちょうどそのときでした。二人に会場から知らせが届いたのです。フィッシャーはリザインできませんでした。なんと

バーンがリザインしてしまったのです。



じっくり戦局を分析したバーンは、フィッシャーの戦術に気づき、引こうとしましたが、打つ手がありませんでした。

フィッシャーの壊滅的な侵略はすでに始まっていたのです。バーンはそれに気づくことも、またそれを阻むことも

できませんでした。何が起きたのかわからなかった、と後にバーンはいっています。バーンの駒は、非常に良い

位置にあったのに、フィッシャーの猛攻に対してなすすべもなかったのです。



フィッシャーの勝利は、最高の賞賛と驚きをもって、世界中に報道されました。私の故郷ブルックリン出身の神童

は、最後の8試合を連勝し、全米チェス選手権を制しました。連勝してチャンピオンになったプレーヤーは後にも

先にもフィッシャーただ一人です。




目ざというるさ方がフィッシャーの作戦に気づかなかったのはなぜでしょう? それは、彼らが基本原則にとらわれ

ていたからです。原則を適用した後、考えるのをやめてしまったからなのです。



一般的なチェスの理論によれば、取られた分を取り返す、つまり同等か、それ以上の値打ちのある駒を手に入れ

る見込みがないなら、駒を交換すべきではありません。どんな取引も、後になって効果を発揮するような小さな

アドバンテージを得るために行なわれるのです。



しかしそのとき、フィッシャーはグランドマスターたちの予想とはあまりにも違う方法で最終目標に到達しました。

フィッシャーは、原則の細部ではなく、基本に従ったのです。注意深く適切に、効果的なときを選んで、原則を適用

しました。そして、グラディエイターのように、命がけで戦ったのです。



チェスのゲームに勝つには、時間をかせぎ、戦局を好転させ、多くの駒を取る以上の動きをしなければなりませ

ん。チェック・メイトに持ち込むためには、それらすべてを統合する必要があります。決まった戦術を繰り返し使う

だけではだめなのです。状況に合わせた戦術を用い、自分の頭のなかで具体化しなければなりません。原則に

従うのではなく、状況に応じて行動せよ。それがあなたの運命を決めるのです。



 







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