完全チェス読本1 偉大なる天才たちの名局 ラスカーからカスパロフまで

監修・日本チェス協会

マイク・フォックス&リチャード・ジェイムズ著 若島正訳 毎日コミュニケーションズ




最強(本書より引用)


この章ではチェスの最高クラスの話題をあつかう。最強クラスのグランドマスター、偉大なる

天才児たち、おそるべき老人プレーヤー、驚異的な目隠しチェスの戦績、史上最も熾烈なトー

ナメント・・・さらにカパブランカはカスパロフを負かすことができるだろうか? フィッシャーだっ

たら? アリョーヒンだったら? 誰もが最高最強の名人だろう? といった回答不能と思える

設問に対する慎み深い回答も用意している。この章は著者の大好きなページでもある。過去

にプレーされた最高のゲームの中から64局を選んでお目にかける。これらの名局に対して

棋力のあまり高くない私たち著者の注釈をつけ加えることは、非礼であると考えたので控える

ことにした。しかしながら親愛なる読者諸君が、暇な折などにご自分で、これらの名局を分析

し講評されることを心からおすすめする。この作業はあなたの棋力に何の害もないことだから。


偉大なる天才児たち(本書より引用)


まず初めにチェス盤のウルトラ餓鬼諸君をご紹介しよう。彼らは同年代の子供たちがルドや

ロゴにうつつをむかして遊んでいるとき、バッド・ビショップとかスマザード・メイトに夢中になっ

ていて、自分たちよりずっと年上のプレーヤーたち(おそらくずっと強いと思われている)を打ち

負かし、新聞の見出しに名をつらねているのだ。


偉大なる者の伝説(本書より引用)


チェス史上の偉人達の成果を検証する前に、最高級レベルには達していないが、すべての

グランドマスターの中でおそらく最も驚くべきプレーヤーについて手短に述べておこう。彼の

名前は、ミール・スルタン・カーンと言い、1905年にパンジャブに生まれた。少年期にインド

風のチェスを学び、21歳までその州のベストプレーヤーであった。1926年にウマール・

ハヤト・カーンが目をかけ、家族として家庭に招き入れ、西洋チェスを教え、1929年には

英国に連れて行った。その年に、スルタン・カーンは英国チャンピオンになった。1932、

1933年にも連覇の偉業を成し遂げ、他のトーナメントでも世界最強クラスに、それほど劣っ

ていないことを示した。カーンは、西洋チェスの文献を読めないことと、マラリアの発作がしば

しばあるというふたつのハンディキャップを抱えていたのに。1933年、彼はインドに帰り、

1935年に他のインド人プレーヤーとのマッチを行なったことを除けば、チェス界から完全に

引退してしまう。1966年、結核のため亡くなった。カーンがチェスマシーンと呼ばれたカパ

ブランカをどんな風に負かしたかは、「名局ベスト64」を参照。


名局ベスト64(本書より引用)


この章ではこれまでにプレーされたもっとも有名なゲーム、とりわけ素晴らしいゲームなど、

ベストゲーム64局を選りすぐってお目にかける。すでにご承知の読者にはお詫びしなければ

ならないが、自分なりのリストを作って楽しんでみてはいかがだろうか。はじめてこれらの名局

に出合われる読者には、驚きとスリルと、そして敢えて言うのだが、有益な知識が用意されて

いる。


未来(本書より引用)


チェスファンにとってはエキサイティングな時代になった。この本の初版以来、若い世代のカラ

フルなプレーヤーたちが、世界の舞台に登場するようになった。東ヨーロッパ諸国からだけでは

なく、インドや中国のような国からも。旧ソ連やユーゴも分割されたため、団体戦の競争はより

激しくなった。ライバルたちを地図の上で見つけるのが難しくなったウズベキスタンは、1992年

のオリンピアードで銀メダルを獲得した。大会運営者は、さらに大衆にアピールするシステムを

模索中である。ノックアウト・トーナメント、もっと制限時間を短縮する方法、ショーアップして人目

をひく舞台装置など、すべてはパブリシティーとチェスへの関心を高めるために役立っている。

ジュディス・ポルガーと彼女の姉妹は、女性であることはもはやチェス界での成功を妨げる壁で

はないことを証明した。より若い子供たちがどんどん強くなっていく。いっぽうでコンピューターが

世界最強のプレーヤーの実力に迫りつつある。この章では今世紀も終わりに近づいた今、将来

話題になるであろうプレーヤーを紹介しよう。


終末?(本書より引用)


ガルリー・カスパロフは、最近「フリッツ2」という80ポンド以下で購入できるコンピューター・ソフト

ウエアとの非公式な早指戦で何局か負けたことを認めた。スコットランドのインターナショナル・マス

ターのデイビッド・レヴィが「世界中のどんなコンピューターでも負かしてみせる」と初めて宣言して

有名になった1968年のことから考えれば、はるばる来つるものかなという感慨が深い。ヴォル

テールはかつて、チェスは人間の機知にとって最大の名誉であると言ったことがある。現在では、

おそらく鉄のモンスターの開発者やプログラマーは、カスパロフやフィッシャーと同等の尊敬を受け

ても不思議でない。チェス・マシーンの歴史は実際には200年以上前までさかのぼる。最初のチェス

をする自動機械は、1769年の昔に作られたものである。その機械は、マジックの世界に革命をもた

らし、カートライトの力織機の発明を促し、エドガー・アラン・ポーの成功に間接的に花を添えたので

ある。この章では、チェス・マシーン「トルコ人」やその後継者たちの驚くべき歴史が語られる。世界

ではじめて本当にチェスを指すマシーンが、信じられないかもしれないが、1890年に作られた話や、

英国のトッププレーヤーが第二次世界大戦の勝利に貢献した話や、それによってコンピューター革命

の種を蒔く手助けをしたことなどもお読みいただきたい。最後には、今日のシリコン仕掛けのスーパー

スターの栄光と悲劇についてもお話ししよう。世界で最も強力なコンピューター上で走るプログラムか

ら文明社会の家庭に必ずといってあるマイクロ・コンピューターのプログラムに至るまで。


 
 


目次

用語解説

表記法


最強

偉大なる天才児たち

輝ける老雄たち

偉大なるものの伝説

名局ベスト64

未来

終末?

現代の名局ベスト10・・・・日本語版特別編集


人名索引

オープニング索引

訳者あとがき



「完全チェス読本1 はまってしまった人々」

「完全チェス読本3 盤上盤外こぼれ話」








麗しき女性チェス棋士の肖像

チェス盤に産みだされた芸術

毒舌風チェス(Chess)上達法

チェス(CHESS)

天空の果実