「ジャック・ピノーのダイナミックチェス入門」
ジャック・ピノー著 山海堂 より引用
この本を読むにあたって (本書より引用)
“教える”というのはたいへん難しいことです。私にとって呼吸のようになっているチェスの 記号やルール、基本的なテクニックを、ABC順に並べ直して体系的に説明するという試み は、ともすると複雑な定跡や名人のゲームの解説を、早く皆に知ってもらいたいとはやる 気持ちに押され、多分にブレーキを要することでありました。本の主旨としては、初心者か ら中級レベルまで楽しく読めることを目標にし、内容の難易度がなるべくなだらかなカー ブを描くように心がけました。しかし、例外として4章のゲームNo8「フィッシャーVsラーセン」 の解説があります。これは難解の上、ビショップ、ナイトの相互関係が複雑で、理解するの が難しいのかもしれませんが、オープニングの素晴らしさに加え、このゲームの流れの美 しさをどうしても皆さんに見せたくて、敢えて載せました。
1章ではチェスについての基本的な知識がすべて書いてあります。一般的にはチェス駒の 価値を数字に換算している書物も多いのですが(例・キング=∞無限、クイーン=9〜10、 ルーク=5、ナイト、ビショップ=3〜3.5、ポーン=1〜というように)私にはこの数値は少々 アブストラクトで、チェスの真理から離れているように思えるので、その分説明を多くし、そ の価値は自分で決めていただこうと考えました。
2章「エンディング」は、どのように駒を動かしてチェックメイトにもっていけるか、という項目 です。駒の説明のあとにいきなりエンディング(終盤戦)がきて、フルコースのメニューの、 前菜のあとにすぐデザートが出てきたようでびっくりするかもしれません。しかし、チェックメ イトに持っていく駒のタイミングの感覚は、先の見えにくい定跡以前にマスターしていただき たいのです。
3章では「オープニング」における基本的な知識を、私が知っている限り載せました。3つの テーマに分けましたが、これは次章の定跡と名人のゲームを理解する予備知識として、ぜ ひとも覚えていただきたいものです。
4章では、世界的名人級プレーヤーの試合と、定跡の説明を併せて載せました。名人のゲーム ともなると私たちでも理解するのに一苦労です。しかし、わかってみるとそこは時間とスペースを 駆使した、まさに芸術そのものの世界です。選んだ20ゲームの大半は私が自分で分析し、いろ いろなコメントを入れましたが、この章のポイントは「いかにポーンの構成力を強め、深めていく か・・・」にかかってくると思います。一手一手に説明を加えていくと限りがなく、言い残したことは 山ほどありますが、私の同国人であるアンドリアン・フィリドールの言葉を繰り返さずにはいられ ません。<ポーンはチェスの魂だ!> これはすべてが要約された、革新的な言葉です。4章は 難解だとは思いますが、この言葉をかみしめ、いつでもこの章に立ち返って、新しい発見をしてく ださい。
5章では元祖チェス、ともいうべき「シャトランジー」を実際に体験してみましょう。また、芸術的な 「詰チェス」にも少々寄り道をしてみます。ともするとチェスは“二人の戦い”というコンセプトにとら われがちですが、チャップリンの芸術のような、遊び心の真髄を感じてほしい。
最後に天才詰チェス作家、ロイドの素晴らしい作品を推理小説風に解説しました。一手詰めの説明 に数ページも費やすほど複雑なもので、私自身この問題を理解するのに3日3晩かかりました!タイ トルの「アンパッサン」はフランス語で“通りながら・・・”の意味があります。この最後の章はチェスの 世界を一緒に散歩してきたインストラクターが通りすぎながら“また会いましょう、がんばって”の意味 を込めて書いたものと思ってください。 ジャック・ピノー
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