「ビジュアル博物館 アメリカ・インディアン」
デヴィッド・マードック著 スタンリー・A・フリード監修
日本語監修・富田虎男 翻訳・吉枝彰久 同朋出版
「写真でみるアメリカ・インディアンの世界」(「知」のビジュアル百科)
デヴィッド・マードック著 スタンリー・A・フリード監修
日本語監修・富田虎男 翻訳・吉枝彰久 あすなろ書房
南西部のプエブロに住む部族から北極圏の狩猟民イヌイットまで、北米先住民 の豊かな文化を豊富なカラー写真で紹介している。これら掲載された資料は、 恐らくアメリカの博物館に所蔵されているものと思われるが、その多くが白人に よって強制的に取り上げたものであることは歴史の語るところである。「聖なる パイプ」に代表されるように代々部族の中で受け継がれていくべきものの多く を、つまり精神的支柱とも言うべきものさえも搾取したきた歴史を考えると、い つか、これらのものを「在るべき」場所に帰していかねばならないのではないだ ろうか。考古学的に、人類学的に貴重なものであっても、それらを奪われた(す でに絶滅しているかも知れないが)人々に返還することにより、先住民族として の誇りを再び思い起こさせるものとなればと思っている。それ程、昔からの伝統 的な生き方を頑なに守っているインディアンは数少なく、アメリカ政府の同化政 策はキリスト教も手伝って徹底的に行われたのである。この本の豊富な資料に 驚くとともに、そこに流された血と涙を思わずにはいられない。このリペイトリエ イション(帰還)については「森と氷河と鯨」の項目を参照されたし。 (K.K)
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魅力にあふれる北米先住民の諸文明を再発見するための楽しい入門書です。 目をみはるような頭飾りや美しいビーズの刺繍を施したモカシン靴、洗練された 銀細工、見事な陶器など、豊かな文化を多くのカラー写真で紹介します。
監修者の言葉(本書より) 太古の昔、インディアンの祖先はアジアからアラスカを通ってアメリカ大陸へ移動し、 約一万年前までについに南米の最南端に達した。実に何万キロに及ぶはるかな旅路 であった。彼らはマンモスやマストドンや大型野生動物などの大動物狩猟民であった が、氷河期が終わって大動物が絶滅してゆくにつれ、新しい環境に適応した生業を営 み、やがてトウモロコシなどの農耕を開発した。この農耕を基礎に、メキシコやアンデス などで高度の文明が築かれたが、北米各地でもその影響下に多様な文化が発展した。 最近の人口動態学の研究成果によれば、コロンブスの到着当時のアメリカ大陸には 5000万人以上の先住民が住んでいたと推定されている。これは全ヨーロッパの人口 に匹敵する。北米には200万から500万人いたという。先住民はこれほど大勢の人口 を養うに足るだけの食料や生活物資を生産していたわけである。ところがアメリカは、 無知蒙昧で残虐な少数の「野蛮人」が徘徊する「未開の荒野」、持ち主のいない「空き 地」と描かれてきた。そのようなイメージは、ヨーロッパ人が先住民を征服し排除して、 その土地を奪い取るのに都合がよいようにこしらえた固定観念であり、実像とはほど 遠かった。それでもこのイメージは、圧倒的な欧米文明の支配の下で世界に流布し、 我々のなかにも受け容れられ、ハリウッド西部劇によって強化されてきた。このような 固定観念を拭い去り、自らの眼で先住民の文化と歴史の実像を直視する上で本書は 大いに役立つであろう。なお、1960年代以来の北米先住民の民族自決運動の盛り 上がりを反映して、コロンブスの誤認から生まれた“インディアン(インド人)”という呼称 をやめて、“ネイティブ・アメリカン”と呼ぼうという動きがある。ところが、“ネイティブ・ アメリカン”にはハワイのポリネシアンなどの米国領土の先住民も含まれるだけでなく、 外国生まれと対比して米国生まれのアメリカ人全部を指す場合もあって、彼らと特定 できないうらみがある。また北米では彼ら自身の呼称として“インディアン”が現在でも 一般に用いられている。そこで本書では“アメリカ・インディアン”と呼ぶことにした。
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目次 アメリカに人類が住み始めた 広大な大陸 メディシンと霊的世界 北東部地方 イロコイ部族同盟 三姉妹・・・・トウモロコシ、かぼちゃ、豆 オハイオ川流域地方 五大湖地方西部 南東部の定住民 文明五部族 ダコタ族(スー族) マンダン族とダーツァ族 戦争と平和 サンダンス 高原地方 大盆地地方 カリフォルニアの狩猟採集民 素晴らしい南西部地方 プエブロ諸部族 アパッチ族とナヴァホ族 パパゴ族とピマ族 トーテム・ポールの国 至高の芸術 ポトラッチの力 北方の狩猟民 氷結した北極圏 現代の先住民 索引
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「森と氷河と鯨」ワタリガラスの伝説を求めて
リペイトリエイション(帰還)とは、この世を心としてとらえるか、それとも物として とらえるか、その二つの世界の衝突のようにも思われた。人類学者が、墓を 掘り返し、骨を収集し、その研究をするという行為をクリンギット族の人々は おそらく理解できないだろう。そしてその逆に、人類学者は霊的世界の存在 を本質的には信じることが出来ないのかもしれない。10年という歳月をかけ、 見捨てられていた墓地をたった一人でコツコツと復元し、約5000に近い墓 を救ったボブの無償の行為は、多くの人々に光を与えていた。誰も寄りつ かなかった荒れ果てた墓地はすっかり見違え、今、そこでは子どもたちが 遊んでいる。「ある時、母親の墓を50年以上も捜しているという老人がやっ て来た。自分がその墓を見つけ、そこに連れて行ってあげた。老人はその 場で泣いていたが、しあわせそうだった。その一週間後に老人は死んで いった」 そんなこともボブは言っていた。そしてこの10年の間で、シトカの クリンギット族の社会も変わりつつあった。若者たちが伝統的な文化に目覚 め始め、自らのアイデンティティを取り戻しつつある。古老たちを敬い、彼ら が消えてゆく前に多くのものを吸収しようとしている。それはボブの無償の 行為ときっと無縁ではない。そこに目には見えない”たましい”の力を感じ ることはできないだろうか。リペイトリエイションにより、遠い祖先のスピリット がこの土地に戻って来た時、人々はさらに良い方向へ導かれてゆくだろう とボブは信じている。
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