「ビジュアル版 世界お守り大全」

デズモンド・モリス著

鏡リョウジ 監訳 東洋書林









日本でもその著作が知られる世界的に著名な動物行動学者が紹介す

る世界中のお守りを紹介した本である。70カ国以上の国を旅し、その土地

で集めてきたコレクションも本書に紹介されているが、コレクションの写真

やその紹介文を見ているだけでも、こんなに多くのお守りが世界中にある

のかと驚いてしまう。日本人にとって、「お守り」はとても身近にあるものと

言える。神社のお守りを身体の身近に置いている人とか「交通安全祈願」

として車などにつけている人も多い。シャーマニズムと同じようにそこには

「魔除け、呪術的な力」が宿っていると無意識の中で感じ取っているのかも

知れない。本書で紹介される「お守り」を通して、その土地の文化や風習、

そして伝説を知ることができるのは貴重であると共に、その「お守り」に

込められた祈願を聞いたような錯覚さえ覚えてしまう。

(K.K)


 

 


本書 「序言」 より引用

人類という種を研究するために世界中を巡り歩く中で、どの地でも、人々がいろいろな

種類の幸運のお守りを持っていることに気づいた。お守りや魔除けの形状は、国や文化

によって実にさまざまだが、どこでもその地固有のお守りが、とても真剣に取り扱われ、

魔術的な特性をもって人々を助けていると考えられた。お守りは、時に持ち主を悪運か

ら守り、時にツキを招く。これらのお守りには、心ひきつけてやまない物語や象徴的な

背景がある。私はそれらを蒐集することにした。なぜならそれらが大切にされるのか、

理解したかったからだ。


人間の行為を記録し、テレビフィルムを作りながらの旅では、70カ国以上も訪れることに

なった。年を経るにしたがって私のお守りや魔除けのコレクションは増えつづけ、とうとう

数百点を数えるまでになった。アフリカの僻地での撮影では、女性たちが、妊娠するチャ

ンスが増えるようにと衣服に多産のお守りをつけているのをしばしば眼にした(避妊具を

持ち歩く我らがレディたちとはなんと違っていることか)。中東では、神聖な手形から刻印

されたコーランの一節にいたるまで、宗教的な魔除けの膨大な例に出くわした。南部イタ

リアでしぐさの研究をしている時には、邪眼から自分自身を守るための数世紀にわたる

慣習がいまだにはびこっており、そしてそれがまた、あらゆる種類の特別なしぐさやお守

りによって支えられている事に気づいた。スカンジナヴィアでは、たくさんの古代ヴァイキ

ングの伝説が、現代のお守りの中に息づいていた。カリフォルニアで、ヒーリング用のク

リスタルや宝石という形で、新しいお守りが生まれつつあるのを目の当たりにした。クリ

スタル・ヒーリングは、ニューエイジ運動流行の一翼を担い、現在ではアメリカ全土にわ

たって、またヨーロッパの多くの地に見られる。


私が集めたお守りと魔除けのほとんどが、いつでも身につけられるような小さなもの

だった。しかしながら、持ち主の馬や車、船や家を守って持ち主自身を守護しようとす

る、大きめの物もあった。多くの人びとは外出する時に安全を祈って、車の中に幸運

を呼ぶマスコットを吊るしている。地中海では船乗りたちは、邪眼を避け、沈没からの

がれられるようにと、海に出る時は必ず一対の眼をボードにつける。今日でもイギリス

では、悪の力からのお守りとしての真鍮の装飾金具を労働力としての馬につけている。

彼らは何世紀もの間、そうしてきたのだ。田舎のコテージや厩や納屋では、壁面や扉

の上に、いまだ堂々と幸運の蹄鉄が飾られている。これらは、科学的な思考と情報化

社会のこの現代の中で、原始的な迷信が生き残っているほんの一例にすぎない。お守

りという考え方を本気では信じない人々ですら、彼らに「幸運」をもたらす小さな物をい

つも持っているものだ。そういう人々は、魔術による守りという考えを冷笑し、自分の幸

運のお守りはもちろん冗談にすぎないと言い張るが、実はお守りにこだわっているの

だ。古い伝統は健在である。


この本を著すにあたっての私の中心的な関心は、20世紀末にも生き残っている、限り

なく魅惑的な人間の追及の痕跡を記録してゆくことであった。


私は自問せずにはいられない。「もし、この本を今から百年後に誰かが読んだとして、

彼らは我々の信じているものがなんと原始的であることかとびっくりするだろうか、それ

とも、彼らはうなづいて、今だってみんな同じことをしているじゃないかと言うだろうか」

と。人類は今日我々が抱いているマイナーな迷信のすべてを捨て去ることができるの

か。または魔法に関する全くあたらしい考え方が全人間社会に爆発的に拡がるのか、

予言するのは不可能だ。おそらくすべては、年月が進み、その技術的な進歩の結果と

して、我々がどのくらい安らぎを得られるようになるのか、また不安をおぼえるようにな

るのかによるのだろう。技術の進歩は我々に多くの利便をもたらし、安全の感覚を与え

てきた。しかしながら、病気、怪我、老化や死といった脅威に対する我々の恐怖が完全

に解消されるまで、超自然的な助力を何らかのかたちでわれわれは必要としつづける

だろう。暗く言葉に出来ない心配や不安にさいなまされる限り、おそらくいつも、我々の

生活の中に、それは奇妙な小物として存在するであろう。奇妙な小物、その名はボディ

ガード。 (本書より引用)






監訳者あとがき より抜粋引用

あなたは「お守り」をもっていますか? 何かこれがないと落ち着かない、という魔法の

アイテムを持っておられるでしょうか。もし「イエス」とお答えになるのが恥ずかしいと思わ

れるのなら、どうぞ、ご安心ください。かの有名な物理学者、量子力学の父の一人でも

るニールス・ボーアだって、幸運のお守りであるウサギの足をいつもそばに置いておい

たそうですから。物理学者とお守り、奇妙なとりあわせに思われるかもしれません。確

かにそうですよね。そこで、ある記者がいぶかしげにたずねたそうです。「先生、まさか

そんなものを信じていらっしゃらないですよね?」 ボーアは答えました。「もちろん、信じ

ているわけがないじゃないか。」 ほっとしたような顔の記者にボーア博士はほほ笑みな

がら続けました。「でもね、このお守りは信じていなくても効果があるそうだから。」


このジョークが本当にあったかどうか、事の真偽は僕は知りません。けれども、人が

お守り、魔除けに向かうときの、とてもすてきな態度を表しているように思うのです。

博識をもって知られるデズモンド・モリス博士は、本書で、人がお守りといかに強い

結び付きをもって生まれて来たか、その豊富なコレクションを紹介してくれることで、

示してくれています。本書「Body Guard」を開けば、お守りをめぐる人々の祈りと願い

と思いがどれほど深いものであったか、そして、その魂が現代にまでも生き残ってい

るか、すぐにわかるでしょう。そして、お守りにこめられた魔法の力の生命力に驚かさ

れるに違いありません。いかに社会学者が「呪術から解放されたのが近代」だと叫ぼ

うが、お守りは生き残り、人々の魂を潤し、見守り続けているのです。そして、表面的に

は人が魔法を「信じ」なくなった今でも、どこかで、その幸運の力を放っているのではな

いでしょうか。この本のページを開くだけで、現代人が忘れがちな魔法の潤い、不思議

に満ちた世界への感受性がよみがえってくるような気がします。

 
 


デズモンド・モリス

1928年イギリス生まれの世界的に著名な動物行動学者。バーミンガム大学動物学科

卒業ののち、オクスフォード大学大学院で魚の生殖行動を博士論文のテーマとする。

56年ロンドン動物園に勤務し、記録映画やテレビ番組を製作。生態学の分野では動物

の攻撃、セックス、親子関係などの状況での視覚的合図の解明に専心。観察対象は

トビウオからヒトにまでわたる。動物学の専門的論文から一般読者むけのものまで、

幅広い著作活動をつづけている。日本でも人気は高く、「裸のサル」「ジェスチャー・

しぐさの文化史」「人間動物園」「マンウォッチング」「ふれあい・愛のコミュニケーショ

ン」など多数紹介されている。



 


目次


序言

アルマジロ的なココロ

定義


獣の魔術

動物のボディガード

スカラベ 魚 蛇の守護者 兎の脚 歯と爪 幸運の象 孔雀の扇 真珠 聖パウロの舌

ふくろう まねき猫 角 子安貝 蛙 貝の殻 蜘蛛 紅珊瑚 叉骨 蛇石 馬の角

てんとう虫 蝶 猫 鹿 いるか 鳩 竜 卵 羽 狐 山羊 バッタ ライオン 雄羊 蠍 

陸亀・海亀 一角獣


古からの石

鉱物のボディガード

アメジスト オパール 水晶 天然磁石 孔雀石 血玉髄 黄水晶 ダイヤモンド 黒石 

ラピス・ラズリ 紅玉髄 エメラルド 翡翠 赤鉄鉱 碧玉 ルビー サファイア 瑪瑙

アクアマリン 黒曜石 月長石 蛇紋石 虎目石 トパーズ ガーネット トルコ石 縞瑪瑙

金 銀 水銀 銅 鉄 錫 鉛 馬の真鍮具 矢尻 ベゾアール石 ビーズ 生体電気シールド


植物の力

植物のボディガード

にんにく バジル 月桂樹 唐辛子 さんざし ヘンナ 匂い玉 トリプルナッツ どんぐり

くまつづら ココ・デ・マ ななかまど ヘンルーダ 聖ヨハネの草 四つ葉のクローバー 

シャムロック 琥珀 幸運の豆 マンドレーク 黒檀 しだ マリーゴールド マジョラム

タイム 夏咲き白エリカ にが蓬


神よたすけ給え

宗教的なボディガード

聖クリストフォルス アンク 笑み仏 蓮華生 キリスト教の十字架 古代の十字架 タウ十字 

トールのハンマー 三日月 雷電 車輪 カラ ピ・ディスク ソロモンの紋章 ロザリオ


身体の部位


言葉には言葉を

解剖学的ボディガード

心臓 男根 胎児 性器 脚 背こぶ


眼には眼を

じっとみつめるボディガード

ホルスの眼 舟の眼 瑪瑙の眼 青い眼


援助の手

仕草によるボディガード

いちぢくのサイン Vサイン アロハ 人差し指 親指かくし 指十字 角型の手 中指

モウツァ ファティマの手 リング・サイン


安らぎの家

家の護り

ドリーム・キャッチャー まんじ(鉤十字) わら人形 シーラ・ナ・ギグ ヤドリギ 赤いリボン

蹄鉄 エケコ 精霊の毬 エンドレス・ノット ハゴダイ


不思議に満ちた生


参考文献

索引

監訳者あとがき


 


本書より引用


てんとう虫(The Ladybird)


黒い班を持つこの小さな赤い虫は、てんとう虫(英訳名は ladybird または ladybug)と呼ばれ、

その地味なありようには不釣合いなほど、国際的な人気を博している。ladybird または ladybug

に加えてこの虫は、レディ・ビートル、全能の神の雌牛、聖母マリアの鳥、聖母マリアの虫とも呼ば

れる。フランスでは「神の小さな鶏」を意味する Poulette a Dieu、イタリアではポロミッラ、ドイツ

ではマリエンクッヘ、スペインではマルキッタと呼ばれる。



中世、てんとう虫は聖処女マリアに捧げられていた。幸運の象徴として幅広い支持を得ていて、

殺したり害したりすると最悪の運がもたらされるといわれていた。また、てんとう虫がとまっていた

ら、こんな歌を唄う伝統がある。



「てんとう虫、てんとう虫、すぐに飛んで帰れ、お前の家が燃えている、子供たちが焼け死ぬぞ」



いつものように昆虫にいらいらしたり、ぴしゃんと打ったり潰したりする代わりに、てんとう虫が

無傷で飛べるように声をかけてやる。幸運なことである。なぜなら、たまたまてんとう虫は、庭を

荒らす害虫を悩ます役にたつ虫であるからだ。



言いつたえによって、てんとう虫は、そのお守りを身につける者に大きな成功と財産を運んでくる

と信じられている。もし病気の人が身につけたなら、病気を吸収し、取り去ってくれると信じられて

いる。



こうのとりのように、てんとう虫も子供を運んでくるといわれている。そしていくつかの地域では、

てんとう虫が背中に背負った黒い斑点の数が、女性が産むであろう子供の数を示しているという。

この迷信は事実上、てんとう虫を多産のお守りに転換させている。









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