「アメリカ・インディアンの生活」

カラーイラスト 世界の生活史 32

フィリップ・ジャカン著 フランソワ・ダボ イラスト

福井芳男・木村尚三郎 監訳 東京書籍 より引用








アメリカ・インディアンの生活全般を豊富なカラーイラストで紹介

している本で、著者は「アメリカ・インディアン 奪われた大地」

の書籍でも知られているが、他の文献の記述と照らし合わせて

見た時、事実誤認やある特定の部族の習慣を全てのインディア

ンに適用している点など疑問が多く残る書籍であると感じてい

る。確かに著者のジャカンはインディアンの歴史においては詳し

いが、インディアンの生活や精神世界の領域に関して言えば、

それほど精通しているとは言い難い。勿論私自身インディアンに

関しては専門家でもないのでこの判断は見識のある方にお任

せしなければならないと思っている。

(K.K)




 


本書より引用


17世紀に北アメリカのインディアンを初めて観察した人々、とくに聖職者たちは、彼らがどこから

やって来たのだろうかと考えた。聖書はインディアンについて何も語っていない。人間社会の創造

と進化の過程にどこに彼らを位置づけたらよいのだろうか。この問題は、インディアンたちが一見

「信仰も法律もなしに」生きているように見えたことからますます深まった。つまり彼らの社会が無

秩序に任され、めいめいが勝手なふるまいをしているように見受けられたのである。その宗教は

といえば、ただのまじないと、水や大自然の力にやどる精霊たちへの「馬鹿げた信仰」の寄せ集

めにすぎない。おおかたのヨーロッパ人には、インディアンは「愚かな野獣」のごとく生きているよ

うに思われた。というのは南の隣人であるアテスカ人やマヤ人と異なり、彼らは「文明」を築き上

げていなかった。「森の奥で狩りをしているだけ」の北米インディアンは、社会進化の初期段階に

ある野蛮人だと思われたのである。こうしたヨーロッパ人の侮蔑的な見方は、17世紀のあいだ

にインディアン社会についての知識がはっきりしてくるにつれて変っていった。宣教師たちは「未

開の良識」とその道徳を「発見」し、彼らの連帯感の強さに感心し、ついにはインディアンにも法

律や宗教や習慣があること、そしてそれらを決して捨て去ることはできないということを理解した

のである。旅行者や宣教師たちはインディアン社会を高く評価するようになった。とくにイエズス

会の宣教師たちは、「野蛮人」のキリスト教化を続ける資金を集めるためにヨーロッパへ送った

書簡集の中でも彼らを誉めたたえたのである。1703年、カナダに滞在したフランス人貴族の

ラ・ホンタン男爵は、ある対話集を出版した。その中でヒューロン族のアダリオという登場人物

が、フランス社会を批判している。アダリオはまず未開状態と文化的な状態を比較する。そし

て、私有財産や、金持ちの横暴や身分の不平等を告発し、自然宗教がキリスト教より優れてい

ることや、文明社会のさまざまな拘束が自然の道徳にかなわないことも証明してみせるのであ

る。ラ・ホンタンは宣教師たちと同じように、「母なる大自然に従うゆえに、自由で健康で幸福な」

未開人の人物像を広く世に知らせた。こうして「良き野蛮人」は啓蒙の時代を啓蒙していくことに

なる。ジャン=ジャック・ルソーはこの思想に着想を得て、1755年に「人間不平等起源論」を著

した。ルソーは自然と文化との関係について考察し、技術の進歩がかならずしも人間としての価

値を高めるわけではないこと、すべての人間の生活の向上につながるわけでもないことを、アメ

リカの未開人の例を用いて示した。数年後にはディドロが同じように「未開であることの幸福」を

発見し、こう記している。「ひとつの見事な逆説を教えましょうか。僕はこう確信しているのです。

人類が本当に幸福でいられる社会とは、王もなく、裁判官も聖職者もなく、君のものの僕のもの

もない、土地も財産も所有せず、悪徳もなければ美徳もない、そんな世界なのだと」。このよう

に哲学者たちはインディアン社会というモデルを利用して王制を批判し、18世紀のフランス社

会の特権階級の批判を行った。つまりインディアンを例に引いたことが、強大な王権の支配す

るヨーロッパに自由、平等、博愛の精神を広める働きをしたと言えることになる。


 


目次

北アメリカの征服

文字のない民族の歴史

インディアンの土地、アメリカ

精霊信仰

創世物語

国家のない社会

巧みな話術

血縁関係

贈り物による交流

征服と栄誉

シャーマニズム

遊びと音楽

素材を生かす技術

さまざまな住居

雪国の狩人

北の国の農民

イロクォイ族の民主主義

大平原の支配者

野牛と人間

太陽の国の農民

信仰と儀式

南西部の住人

海の民

大がらすの翼の下で

「ひげをはやした人」の出現


インディアンはどのように扱われてきたか

○影の狩人たち

○野蛮人から良き野性人へ

○インディアンの悲運








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