「酋長の系譜」

新正 卓 著 講談社








著者が合衆国全土を5年間に渡って撮影した286点の肖像写真集。

その顔には誇り高きもの、そして多くの写真家が彼らを「見世物」と

して撮ってきたことへの警戒感とが交差している。その表情すべての

中に、私はなんと表現していいのかわからないある勇気が湧き出て

くるものを感じた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(K.K)


雑記帳「魅せられたもの」1998.4/20「父は空、母は大地」を参照されたし





先住民族につけられたインディアンの名称は、1492年、コロンブスのアメリカ発見時の

誤解から生まれた。そして、西へ西へと追い立てられ、居留地に囲い込まれた。ハリウッド

映画に見られるように、それぞれの時代で、インディアンは、アメリカ人が望むイメージに

合わせて描かれてきた。それらに迎合する人々も少なくはなかった。しかし、ここには、彼

らの愛する大地や空や水の輝き、輝く松葉、砂浜、奥深い森の霧、すべての切り透かし、

ハミングする虫たち、そして愛する人々、すなわち、インディアンのふつうの姿がある。

(本書・帯文より)


 


シアトル酋長の手紙

(押田成人訳 本書より引用)



ワシントンの大統領のお便りによれば、

我々の土地を買い上げたい、とのこと。友情と好意のお言葉も添えてあります。

あなた方の申し出を考えさせていただきます。

我々が売らなければ、白人たちは銃を持って私どもの土地を取り上げに来るかもしれませんから。

この申し出の考え方は我々にとって不慣れなものです。

大気の新鮮さや水の輝きもこの地域のどの部分も聖なるものです。

輝く松葉、砂浜、奥深い森の霧、すべての切り透かし、そしてハミングする虫たち、皆、

この民の思い出の中で、また体験の中で聖なるものなのです。

水のささやきは私たちの声です。川は我々の兄弟であり、我々の渇きをいやしてくれます。

川は我々のカヌーを運び、我々の子供たちを養います。

もし我々のこの土地をあなた方に譲るとするなら、

その時あなた方は、川とは我々の、そしてあなた方の兄弟であり、

どの兄弟にも示すその親切を川にも示さねばならぬということを、必ず思い出してください。

白い人の死者は、星の間を歩きはじめると、生まれ故郷を忘れます。

我々の死者は決してこの美しい大地を忘れることがありません。

なぜならそれは、赤き人々の母だからです。

しかし、我々の土地を買いたいという申し出を考慮してみます。

もし我々が賛成するならば、それは、お約束になった代替地を確保することを意味します。

多分そこで残された短い日々を、望むように生きられるのでしょう。

最後の赤い人が地上から消え、彼の記憶が牧草地を通り過ぎる雲の影のようになった時でも、

あの浜辺たちや森たちは私の民の霊を保っていることでしょう。

なぜって、彼らは、生まれ出た赤子が母親の心臓の鼓動を愛するように、

この大地を愛していたからです。

だから、もし我々が我々の土地をあなた方に売るなら、

我々がこの土地を愛したように愛してやってください。

あなた方がそれを取り上げた時、そのままの土地の姿を心に刻んで下さい。

すべての力をもって、すべての思いをもって、すべての心を持って、

あなた方の子供たちのために、そのまま保存して下さい。

そしてその土地を愛して下さい。

・・・・・・神が私どもみんなを愛し給うように!



(本書 「取材を終えて」山岸享子とのインタヴュー より抜粋)


例えば新聞の論壇で文化人類学者が、酋長の語源を「未開人の部族・氏族などの長、

また盗賊などのかしら」と記し、不適切な表現と指摘しています。まだ新聞は公式に禁止

用語にしてはいませんが、放送メディアのNHKあたりは、使わない立場をとっている、と

内部の人から聞いています。僕もとまどってしまったのですが、僕自身は、素朴に、ずっ

と呼びなじんできた敬意をこめた言葉として使いたいと考えたわけです。語源も、もとも

との意味を調べてみますと、「酋」というのは漢和辞典で、「古い酒、酒官の長、おさ」な

どとなっています。また、唐時代の「貞観政要」には、唐の太宗が群臣と政治について

問答をしたと記されている。そこでは、太宗のことを酋長としています。ですから、本来

は侮蔑的な言葉ではないと思います。僕としては、本書の表題が「首長」や「族長」で

はどうしても駄目なんです。


 


目次

風景

シアトル酋長への手紙

序文

アメリカ・インディアンの肖像

風景

取材の足跡

取材を終えて

略歴








アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)に関する文献

インディアンの写真集・絵本・映像

夜明けの詩(厚木市からの光景)

私の愛する写真集・絵本に戻る

アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)

神を待ちのぞむ・トップページ

天空の果実