「シャーマンの環 過去、現在、未来が溶けあう聖なる知識」

ナンシー・ウッド著 フランク・ハウエル絵

井上篤夫訳 講談社より










わたしたちインディアンでない者たちのほとんどは季節の魔術、大地の精妙な

リズム、自然界の日毎の恵に触れない。春、鳥が巣を作り、木々が芽吹き、

川が生命で膨れ上がる。だが、わたしたちはほとんど目を止めない。こうした

ことに注意を払うには忙しすぎるのだ。だが、わたしたちは注意を払わなけれ

ばならない。なぜなら、わたしたちは自然に、そして互いに、しっかりと結びつ

いているから。儀式を再発見し、それによって自分を再発見しなければならな

い。自然との絆を日々強めることが必要だ。わたしたちの中で昇る太陽を出

迎え、沈む太陽に別れを告げる者は少ない。月に吠える者は多くない。雨雲

に、育ちつつあるトウモロコシに、死の霊に歌いかけない。わたしたちは自分

のルーツから離れて漂い、憂鬱が蔓延している。いまこそわたしたちは、聖

なる中心とのつながりをもう一度確立し、ひとりひとりに意味のある儀式を作

り出さなければならない。ここに収められた詩は、それ自体が儀式である。

できれば、木の下で、あるいは小川のほとりで、ひとりで読んでもらいたい。

これを読んだら立ち上がって踊りたい、歌いたいという気持ちになってほし

い。あるいはまた、あなたもシャーマンの聖なる環の中に入ってあなた自身

の詩を書いてほしい。そこではどんなことでも起こりうるのだから。

(本書・まえがきより)








われらが祖先の聖なる歌


人が初めてこの世に現れた 神聖な時代

人は獣と話すこともできた

あらゆるものに声があり 女たちが焼き物に使う粘土でさえ

花と煙に気を配ることを 土が思い出させてくれる聖地で 集められたものだった

おかげで丈夫な焼き物ができた


手に入れた岩から 神聖な黒曜石の矢じりを作るとき

男は石に話しかけた 石もそれに答えてくれた

話をしないと 石は矢じりになってはくれず

人は食べることもできなくなる

石の助けがなければ 獣の生命を奪うこともできないからだ


あのころわたしたちは 生命と対話することで この世のすべてが美しいと感じられた

焼き物や彫刻 織り物や武器のなかに 創造主の精気を吹き込んだ

獣たちの話を聞けば 必ず貴重な教訓が得られた

粘土の母の許しを得て 女たちが聖なる土を集めれば

見事な焼き物がもたらされた


祖先たちの聖なる歌は今も響いている 耳を傾ける勇気が誰にあるだろう







秘密


われらの土地を荒らし 名を汚し 伝統を打ち砕いた侵略者が

次に欲しがったのもの それは秘密

星と同じくらい古い歴史をもつ信仰の核心

ミツバチ ユッカ ヒグマと

われらを結ぶ絆

宇宙のあらゆる存在とつながった命の綱


われらには皆 その真実の一部しか与えられていなかった

年輪を重ねた大樹の一本の枝

川の底できらりと光る一個の小石がそうであるように

鳥や獣についての神聖な知識が

お金のために売られないように

また われらが思い上がったりしないために


侵略者たちは われらの話にまったく耳を貸そうとしなかった

彼らが興味を示したのは 大地と同じ宿命を共にしたわれらが

身を守るために話して聞かせる途方もない作り話だけだった

それは大地の純潔さに触れたわれらだけが知っていたこと

希望を失ったとき 大地に救いあれと祈ったわれらだけが


侵略者たちは満足して村を去り

自分の世界へと舞い戻ると こう言った

秘密 ついにあの村で手に入れた

秘密 科学の探求もさらに深まるだろう

秘密 不可解ゆえに本質的なもの

それを知る権利は自分たちにもあるはずだ


侵略者に聞かせた 過去四世紀の物語は 巧妙に作り上げた嘘だった

われらは誠意の衣をまとって彼らを欺き

尊大な態度を受け入れていると思わせた

彼らはまるでわかっていなかった

ミツバチもユッカも そしてヒグマも

生き残るため ときには敵を欺くことがあるのだということが

彼らにはまるでわかっていなかった







本書 訳者あとがき より抜粋引用

ナンシー・ウッドの本が紹介されるのは、『今日は死ぬのにもってこいの日』(めるく

まーる刊) 『今日という日は贈りもの』(講談社刊)に続いて三作目になる。これまで

の二冊で、日本でも幅広い読者を獲得しており、待望の三作目の翻訳刊行となった。

1936年6月20日、ニュージャージー州トレントの生まれ。1974年には、リー・ベネット・

ホプキンス賞を受賞。1977年に、詩集“War Cry on Prayer Feather”がピューリッツァ

賞の音楽部門の候補作品に選ばれている。ナンシー女史は、1961年、25歳のとき、

インディアンの長老、レッド・ウィローダンシングに出会い、深い影響を受けたのだった。

1985年からはニューメキシコ州サンタフェに住み、自然と対話しながら多くの作品を著

している。本書「シャーマンの環」もナンシー・ウッドがインディアンの長老たちから得た

叡智や思想から生まれてきた美しい詩である。四季の変化をたどりながら、自然、死、

父、母、太陽などどれも感動的な42編の詩が詠まれている。



目次

まえがき

シャーマンの環


生成

始まりのとき

明けの明星が一緒に歌ったとき

春、芽に命をもたらす

われらが祖先の聖なる歌

成熟

星と花の結婚

誕生の儀式

陽光

自然の法則


結合

神聖なる愛・・・・儀式

プエブロの叡智

人生の道具を集める

羽根

夏、トウモロコシが命に目覚める

約束

大いなる霊はなぜ手を造られたか

結婚の儀式

伴侶

永遠に美しい四姉妹

つながり


変容

太陽の子どもたち

ときを捕まえる

一番短い日、長い日

秋、母なる大地のへそを掃く

忘却の儀式

蛇になるには

嘆きを癒す友・・・・戦争

変わる

倒れゆく老木が遺した言葉

秘密


名誉

若かりしころ

古老の教訓

メディスン・ウーマン

冬、ぬくもりを求める季節

太陽が輝かない日日

死の儀式・・・・フランク・ウォーターズを偲んで

遺すべきもの


訳者あとがき・・・・井上篤夫

『シャーマンの環』原文







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