Edward S. Curtis's North American Indian (American Memory, Library of Congress)
なぜ白人の宗教だけが真実か レッド・ジャケット(イロコイ族首長)1805年 1805年ニューヨーク州バッファローでの会合で、そこに集まったイロコイ族 インディアンたちにむかって一人の白人伝道師が演説をしたそのあと、イロ コイ族の首長レッド・ジャケットが白人にむかっておこなったスピーチである。 「白い征服者との闘い」より引用
わが友にして兄弟よ、われわれが今日ここに集まり顔を合わせることは、偉大な精霊の 御意志であった。精霊はすべてを命じたまう、そして今日はわれわれのこの会議に好天 をめぐみたもうた。精霊は、太陽の前からご自分の衣服を脇へのけて、陽光が直接われ われのうえに輝くようにしてくださったのだ。われわれの眼は開かれ、したがってわれわ れはいまはっきり見ている。われわれの耳は栓をはずされ、したがって、あなたがしゃ べった言葉をはっきり聞くことができた。これらのすべての御恵みにたいし、われわれ は偉大な精霊に、そして精霊だけに、感謝をささげる・・・・。兄弟よ、われわれの言うこ とを聞いてほしい。かつて、われわれの祖先がこの広大な土地を所有していた時代が あった。彼らのいる場所はこの大陸の日の出る所から日の没するところまで広がって いた。偉大な精霊がこの大陸をインディアンのために創りたもうたからだ。精霊は野牛 や鹿やその他の動物たちをインディアンの食料として創りたもうていた。精霊は熊や海 狸(ビーバー)やその他さまざまの毛皮をインディアンの衣料として創りたもうていた。 精霊はそれらの動物たちを国中に散らばし、それらを捕える方法をわれわれに教えて くださった。精霊はまたわれわれのパンとなるとうもろこしを大地に産み出させたもう た。これらすべてのことを、精霊は彼の赤い肌をした子どもたち、すなわちインディアン のためになさってくれた。それは精霊がインディアンを愛していてくださったからである。 そして、たとえわれわれインディアンのあいだに狩猟地をめぐって争いが起こったとし ても、たいていのばあいは血を流すことなく解決されていた。しかし、忌わしい日がわれ われにやってきたのである。あなたがた白人の先祖が大きな海をこえてやってきてこの 大陸に上陸したのだ。はじめ、それらの白人の数は少なかった。彼らはこの大陸に敵 ではなく友人を見出した。彼ら白人はわれわれインディアンに語った。彼らが自分の国 の悪い男たちを怖れて逃げてきたということを、彼らの好きな宗教を守るためにこの 大陸へやってきたのであるということを。彼らはこの大陸に小さな座り場所を欲しがっ た。われわれは彼らを憐れに思い、彼らのねがいを認めてやった。彼らはわれわれ のあいだに座った。われわれは彼らにとうもろこしや肉をあたえた。彼らはそのお返 しにわれわれに毒をくれたのだ。白人たちは次第にわれわれの国の全部のことが わかるようになった。数多い便りが彼らの本国へ送りとどけられ、次第にたくさんの 白人たちがわれわれのあいだにやってきた。しかし、われわれはまだ彼らを怖れな かった。われわれは彼らを友人と見なしたからである。彼らもわれわれを兄弟と呼 び、われわれは彼らを信じて彼らにもっと大きな座り場所をあたえた。彼らの数は なおも大きく増加し、彼らはもっと多くの土地を欲しがり、しまいにはわれわれの国 全体を欲しがった。われわれの眼はようやく開かれ、われわれの心は不安になっ た。戦争が幾つも起こった。インディアンがインディアンと戦うために傭われもした。 そして多数のインディアンが殺された。白人たちはまた、われわれのあいだに強い 酒を持ちこんできた。兄弟よ、かつての日、われわれの座り場所は大きく、あなたが たの場所は非常に小さかった。あなたがたはいまや大きな国民となり、そしてもは やわれわれには毛布を広げるほどの土地も残されていない。あなたがたはわれわ れの土地を手に入れた。あなたがたはそれでもなお満足せず、いまやわれわれの うえにあなたがたの宗教を強制しようと思っている。兄弟よ、ひきつづいて聞いてほ しい。あなたは言う、あなたがここに送られてきたのは、偉大な精霊の御心に叶う ような崇拝の方法をわれわれに教えるためである、と。そしてまた、あなたは言う、 もしわれわれがあなたがた白人の教える宗教を身につけないとすれば、われわれ が今後ますます不幸になるであろう、と。あなたが正しく、われわれがまちがってい るのである、と。だが、どうしてそれが真実であるというのか? われわれはあなた がたの宗教が書物にまとめられていることを知っている。もしその書物が、あなた がたのためであると同様にわれわれのためのものでもあるのなら、なぜ偉大な精 霊はそれをわれわれにあたえてくれなかったのだろうか? われわれにだけでは なく、われわれの先祖にも、なぜ精霊は、その宗教を正しく理解する手段として、 そのような書物のあることを教えてくれなかったのだろうか? われわれは、あなた がたがわれわれに話して聞かせてくれることだけしか知らない。いままで幾度も幾度 もあなたがた白人にだまされつづけてきたわれわれに、いったいどうして信ずるとい うことができるだろうか? 兄弟よ、あなたは、偉大な精霊を崇拝し奉仕する道はた だ一つしかない、と言う。もし一つしかないというのなら、あなたがた白人のあいだで そのことについての意見がそれほどまちまちなのはなぜだろうか? なぜ、すべての 人びとが、みんながその書物を読むことができるのと同じように、同意していないの か? 兄弟よ、偉大な精霊がわれわれのすべてを創りたもうた。しかし、精霊は白 人とインディアンとのあいだに大きな差をつくりたもうたのだ。精霊はわれわれイン ディアンには別の肌の色と別の習慣をくださったのだ。精霊はあなたがたにはさま ざまな技術をくださったが、それらの技術にたいしては精霊はわれわれの眼を開 いてくださってはいない。われわれはこういうことが真実であることを知っている。 精霊がこのようないろいろ白人とわれわれとのあいだに大きな差をお創りになっ たのであるとすれば、宗教についてもそれぞれわれわれの理解のしかたに合っ た異なる宗教をくださったのだと結論してさしつかえないのではあるまいか。偉大 な精霊のなさることは正しい。精霊は何が彼の子たちにとって最良であるかをちゃ んと知っていなさる。われわれはこの現状に満足している。兄弟よ、これがあなた のお話にたいするわれわれの答である。いま互に別れを告げようとするときにあ たり、われわれはあなたの手を取り、偉大な精霊が旅にあるあなたを守りたまい、 あなたの友人たちの待っているところへあなたを無事に送りとどけられるよう、祈る ものである。
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