「奄美のシャーマニズム」

日本民俗学研究叢書

山下欣一著 弘文堂 より引用








本書「はしがき」より引用

奄美のユタの歴史は悲しい。それは、偏見と侮蔑と、はたまた島の人々の熱烈な信仰と

支持の狭間で、次第に隠微な存在を取りながら、秘やかにその生命を受け継いできてい

るものの歴史でもある。奄美の人々は、教養の程度の如何にかかわらず、生活の実感と

してユタの存在を理解している。それは、深く、島の人々の精神生活を規定する存在でも

あるからである。筆者は、少年時代までを奄美で過したが、その時代を回顧してみると、

まさに、日常的にユタの世界に住んでいたといえよう。無意識のうちに、ユタの観点を通し

て日常生活を送り、霊魂を信じ、神を畏敬する生活であったと思う。物心つくようになり、

奄美の研究書をニ、三当たってみて、奄美の生活のなかで、人々に一番身近かな存在

であったユタが、単なる邪教迷信として扱われている程度で片付けられているのに、大

いなる疑問を持ったのであった。従って、まず、奄美のユタの実態すなわちその存在形

式を明らかにすべきだという視点から、ユタの成巫過程、呪術行為の二点に焦点を当て、

1956年以来、断続的に奄美諸島の調査を実施し、報告してきたのである。そして、これ

らのユタの調査において提起されてくる問題についても、その都度小論にまとめ、機会を

得て発表してきている。本書では、これらの報告、論考のなかから、奄美のユタの実態を

明らかにすることに重点をおいてまとめることにした。いささかなりとも、神秘のベールに

包まれていた奄美のユタの存在を明らかにすることが急務だとの考え方からである。


子細に検討してみると、奄美の民間信仰の担い手はノロとユタであると指摘できる。しか

し、ノロは、すでに形式的な存在として、その形骸を残留しているに過ぎない。ノロにつ

いては、すでに比較的多くの報告、論考がなされているのが現状である。これに反し、

今なお活発に社会的機能を果たしているユタについては、ニ、三の断片的報告がなされ

ているのみである。


このような現状からしても、第一に、奄美のユタをどのように研究対象として位置づけるか

を検討する必要があり、この場合、おなじ文化圏に属する沖縄諸島や先島諸島まで視点

を拡大して考究すべきであるとの立場から、ノロとユタの問題等を提起してみることを試み

てみたのである。第二は、奄美のユタの実態の報告である。第三には、奄美のユタの神

観念、霊魂観、神がかり、動物供養の問題等があり、これらについても、実態に即しなが

ら検討してみたのであり、また問題提起として、今後の研究の進展への足がかりを提供

しようと試みてみたのである。そして、本書では言及できなかった課題として、奄美のユタ

の呪詞の問題がある。これらについては、他日を期して、その位置づけ、検討を試みたい

と考えている。


奄美のユタの研究において、ユタが何故に、その生命を継承し、再生産されていくのかと

いう疑問は、常につきまとうものである。いかに時代の進展があろうとも、この事実は、

厳然として存在しているのである。このことは、実は、奄美の人々の神観念や世界観を

解明する一つの手がかりを与えてくれるものと考えられる。奄美の人々にとっては、ある

日突然に、誰かに、神意が体現されるという事実は、きわめて当然なこととして受容され

ているのである。そして、それが巫病であり、その本復によって成巫していき、その体現

者がユタとなるのである。ユタは聖別された人なのであり、このために儀礼を行なうもの

である。このような問題を基盤にして、さらに考究を進展させることが、奄美の基層文化

へのアプローチをより確実にすると確信するものである。


「奄美 神々とともに暮らす島」濱田康作著 毎日新聞社

「奄美学 その地平と彼方」を参照されたし。



目次

はしがき

第一章 序論 巫女について(問題の所在)


第二章 奄美のユタの問題

奄美のユタについて

奄美のユタとノロをめぐる問題

奄美のユタの研究の歩み


第三章 奄美のユタの実態・・・・その成巫過程ならびに呪術行為

はじめに

奄美本島のユタ

喜界島のユタ

徳之島のユタ

沖永良部島・与論島のユタ

要約・・・・成巫過程を中心に


第四章 奄美のユタの儀礼的展開

奄美のユタの神観念

奄美のユタの霊魂観

奄美のユタの神がかり

奄美のユタと動物供養


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